第3章 第20話 フェリオールの番犬
士官学校に入学して一ヵ月が過ぎた。
ウザ絡みしてくる東南辺境伯家のコンビは相変わらずだが、アーシェスには新しい友達が出来ていた。公女ラクスレーヴェ・ベルレイユである。
いつものようにエイルとマツリがアーシェスの反応で遊……いや微笑ましいと思って居ると、アーシェスの笑い上戸がバレて、笑いの沸点が低いアーシェスを揶揄い甲斐のある者だと見抜いたようだ。実に良い目をしている。
以来、親の派閥などは考えず、距離感の近い友人関係が始まった。アーシェスは一方的に揶揄われるのに忸怩たる思いがあるようなのだが、弱点だらけのアーシェスに勝てる目はなかった。
アーシェスの友人になったのであれば、ラクスレーヴェ公女もエイルとマツリにとっては庇護下に入ったと言って良い。いつの間にか一緒にいるのが普通になってきた。
そんなアーシェスやラクスレーヴェに嫌がらせをしようとした者はエイルとマツリに痛い目に合わされている。返り討ちにしている内に、いつの間にかフェリオールの番犬だのフェリオールの黒い悪魔だのと呼ばれるようになっていた。悪魔なのは敵対しているからであって、仲間には優しいのだが。『フェリオール家は悪魔を飼っている』とか噂を流されても「人間ですけどなにか?」である。
一年生の生意気な奴らを絞めてやろう、という自称実力者の類も良く絡んでくる。
「お前に勝ったら公女殿下とお茶をさせろー!」とか「お前を倒してアーシェ様に!」、「お前を倒して俺がマツリちゃんの兄になる!」か良く分からない理由で襲ってくる者もいる。解せぬ。こういうのが流行りなのだろうか。
その三人はまぁ、つるんでいるから百歩譲って判るとしても、聞いたことがない女子の名前を口にしながらやってくる奴までいて意味が分からない。フランチェスカちゃんってどこの誰なの?言葉の通じない風土病なの?アクスとランスの方が賢いまである。
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入学してから三ヵ月が経った。
王都近郊の森に野営演習に行くらしい。そういえばそういう依頼が探索者ギルドにあったよなと思いつつ準備についての話を聞く。やはり野営セットは天幕が必要らしい。自炊するための備品も要るだろう。必要な物を書き出して屋敷の侍女の方に買い物をお願いしておいた。御用商人が屋敷に来た時に購入手続きが行われるのだろう。必要な設備や道具を集め終わり、空間拡張を施してある背嚢に荷物を詰め込んでいく。アーシェとマツリの分も用意した。
野営演習当日。教師だけでは手が足りないので、探索者ギルド経由で人手を増やし、野営訓練などが行われる。うちの女子共は天幕も建てられないので、やり方を教えて見張り、誤っているところは指摘する。代わりに建ててやるのは趣旨に反する。それぞれ自分で覚えるべきだ。
竈を作って薪と火種を用意し、簡単なスープ料理を作る。これはマツリが率先してやってくれたので大変助かった。エイルには男子からの嫉妬の視線に殺気まで籠った物が集中した。
マツリとアーシェスにラクスレーヴェまでいると、ただの野営ですら華やかになる。思わず薬草茶をたてて「お嬢様、お茶をどうぞ」とかやっちゃうくらいには別空間になっている。アーシェスとラクスレーヴェには執事ムーブがよく効く。お嬢様ムーブで乗ってくれるので大変遊び甲斐があるのだ。
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陽も落ちて来たので焚き火を絶やさぬように火を管理する。
お嬢様方を天幕に押し込めて一人で不寝番である。夜中、下衆なにやけ顔をした男達がやってきた。学生もいるが探索者もいる。
「一人だけ良い思いして楽しんだだろ?これから俺達にも楽しませてくれよ ヘッヘッヘ」
等と言いはじめた。この手の手合いはキチンと躾けないとすぐに調子に乗るから困る。躾けてもすぐ忘れるし。
とりあえず全員ボコボコにして服を剥ぎ、火の燃料にしておいた。裸に剥いたゴミ虫どもは両手首と両足首を縛って森の中に捨ててきた。その際、獣の血液もたっぷり掛けておいたので、人型の獣の始末は四つ足の獣がつけてくれると大変助かる。
探索者については探索者プレートを回収したので、街に帰ったらユーフェミアに提出して報告しておこうとおもう。生徒に手を出そうとする屑にこの仕事を回した探索者ギルドの失態だ。
翌朝、ニヤけた面の男どもがやってきたが、男が何事もなく火の管理をしているのをみて舌打ちし、去って行った。共犯の可能性が高い。顔覚えたからな。
なお行方不明者が出た事が発覚し、野営演習は切り上げられた。貴族のボンボンも数名消えたからね。自業自得としか思わないけど。
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入学して半年経った頃、アーシェスが瞑想睡眠を使えるようになった。瞑想睡眠が出来ているということは、意識的に混合錬気を回せるようになってきたということだ。カナリエ達より圧倒的に早かったのは才能なのだろうか。
また、その暫く後にアーシェスに魔眼が開眼した。【審理の魔眼】という物で、虚実がどうかを見て判るようになるらしい。この魔眼を持つ者は嘘か誠かの裁定を下す審理官として国の中枢に招かれ、裏切者の炙り出しや不正の摘発などの役目に着く事が多いという。
アーシェスが開眼してからエイルにはじめに問うたのは「ラムザ先生、私の事可愛いと思ってくれてますか!?」だった。勿論「ハイ」と答えると大変喜んでおられた。能力の無駄遣いではなかろうか。この事実は暫く秘匿される事になった。敵対派閥からすればなんとしてでも殺したい相手になるからだ。下手したら一生バレないように生きなければ命が危うい。
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