第2章 第9話 フロアボスデビュー!
ボス部屋の中は事前の感知通り、リビングメイルの大物が一体と、普通のサイズのリビングメイルが四体いた。
敵が武装を構えて動き出すと同時に、レーヴィアから【氷壁】魔法が飛ぶ。大物の目の前に氷壁が現れ、その動きが鈍った所にマツリが【樹縛】を仕掛け、両手両足に樹の枝のような物が伸びて抑えつけた。レーヴィアが【樹縛】の上から更に【氷壁】を連続で使用して、大物を囲い込んだ。
カナリエがボス部屋の右側の方のリビングメイルに突き掛かっていく。リビングメイルが斧槍を両手で振り回してくるが巧く掻い潜ると、脇の下の鎖編み部位から刃を突き立て、無力化していく。
カナリエが二体目の斧槍を捌いている間に、マツリが左側の一体目の胸に戦鎚を叩き込んで無力化し、二体目の斧槍を戦鎚で弾いて胸への強度を決め、二体目も処理を終わらせた。
レーヴィアはボスを囲んだ氷壁の内部に大量の水を生成する。ボスの大腿部の膝下まで水が溜まると、【氷化】魔法で一気に足元を固め、脱出までの時間稼ぎを狙う。
カナリエが二体目の斧槍を回避して反撃の隙を伺っていると、担当を倒し終わったマツリがリビングメイルの背後から殴り掛かった。背中側からの強打では弱点が割れなかったようで、バランスを崩すだけに留まった。カナリエはその隙を逃さず、首元の鎖編み部位に刃を突き立てる事で赤い玉にダメージが入り、計四体目の動きが止まった。
取り巻きを倒し終わった頃、大物のリビングメイルは上半身の【樹縛】を力任せに引き千切り、【氷壁】の破壊を試みていた。
「レーヴィアお見事ッ!」
カナリエが見事時間稼ぎをやり遂げたレーヴィアを労う。マツリは自分の足元に【樹生成】を使って足場を氷壁の上まで上昇させると、大身槍を取り出して大物の首元の鎖編み部位から切先を突き入れた。大物はビクンと痙攣すると、その動きを止めた。
ちゃんと倒したかの確認は、異空間収納に入るかどうかで判断できる。ボスに向かって手を伸ばし異空間収納への格納を念じると、無事に格納された。漸く勝利を確信出来き、取り巻き達の死骸(?)も異空間収納にしまっていく。
「三人ともお疲れ。良い攻略だったよ」
エイルは三人を労うと、果実水の水筒を取り出して配っていく。
「ありがと~。初見でこれだけ動ければ合格もらえる?」
マツリがエイルに訊いてみる。
「そうだね。初ダンジョンでこれだけやれれば、十分合格ラインだと思うよ」
エイルは三人の攻略を楽しんでいる様子に頬を緩めた。
「さて、今回のダイブをどこまでやるのか、そろそろ決めておこう」
エイルが三人に切り出した。
「資材的には泊まり込みで数日潜れる。今日は様子見だけにしたいなら、そろそろ戻った方が良いと思う」
三人はそれぞれに考える。
「普通は魔物を倒したら、高く売れるところだけを回収して帰るよね。ラムザさんとマツリさんがいると丸ごと持って帰れるから、結構な稼ぎになってそうな気はする」
レーヴィアが検討材料を挙げると、カナリエが成果と課題について意見を言う。
「武器とか買い替えできるかな?あと、マツリみたいに打撃武器も欲しくなった」
それらをマツリが纏めてみる。
「それじゃ、今回は様子見が出来たという事で一旦帰ろう。今回の稼ぎがどのくらいになったのかも、次のダイブの参考になるだろうし。稼ぎの範囲で装備更新をして、次回に挑戦時する時の効率を上げるという事で」
カナリエとレーヴィアがそのまとめに頷き、この日は街へ戻ることになった。
地上に戻ると貸し馬車屋がまだ居たので、帰りにも利用した。
陽が落ちた頃にリエルダに到着し、御者にチップを渡して西門まで送って貰う。
探索者ギルドに着くと買取カウンターに向かい、本日の成果について解体所での確認を依頼した。
解体所に向かうと、サブマスターがやって来た。
「お待たせしました。鉱山迷宮の成果ですよね?」
「そうです。サブマスターが来てくれて助かります」
礼を言うと、サブマスターが苦笑いする。
「お二人のあれこれが広まらない様にするための処置です」
という事らしい。
早速場所の指定をしてもらい、そこに本日の成果を種類毎に積み上げていく。
「これは……。初日で五層のボス部屋をクリアして来た感じですか?」
相変わらず非常識な放出をする新しき黄金級冒険者達に、サブマスターの呆れの視線が刺さる。
「お見積もりですが、明日にお出ししますね。ダンジョン産の鉱物付きは何が付いていたかで値段が変動するので、ドワーフの親方を呼ばないとちゃんと見積もれないんです」
当たりが出れば高いのかな?と思いつつ、明日の見積もりで了承した。
「三等分した額も記載しておいて下さい。昼頃にくれば出来てますか?」
時間の確認にサブマスターは首肯する。
「はい、その頃には仕上げておきます。それと昨日預かった例の個体ですが、明日の夜のオークションに出品される事になりました。オークションにゲスト参加されますか?」
特に興味はなかったので、その申し出は断った。
「では、売上は探索者ギルドの口座に振り込みますね」
探索者ギルドは世界中にあり、ギルドメンバーへの銀行業も行っている。
探索者に不慮の事故は付き物で、利用者が毎年何人も居なくなる。遺産相続を設定していない利用者の死亡が確認されると、その口座の資金は探索者ギルドが総取りする事で、銀行業の操業資金が賄われているという闇深いシステムであるが、高額の資金の持ち歩きを避けたい高収入の探索者はこのシステムの利用率が高かった。同様の銀行業は、商人ギルドや傭兵ギルドなども操業している。
宿に戻ると、夕食は牛(?)のブラウンシチューだった。日中にダンジョンに行ったので、身体がもっと肉を求めている気がして、追加で串焼きを何本か頼んだ。
「明日は午後からギルドに行く予定くらいかね。迷宮に連泊できる準備でもしとこうかな」
エイルは生活に困らないだけの蓄えを持ち、高額になりやすい武装にも困っていない。となると必死に金策をしたり武装探しに苦労することがなく、割と暇だった。それはマツリも同じなのだが、折角の女子仲間なのだから、たまにはそちらと行動を共にすれば良いのにと思う。
「カナリエとレーヴィアはまた工房とかの偵察?」
「はい。昨日回れなかった所に明日の午前中に行ってみて、午後からはギルドで合流しますね」
「今日の分の売上額次第ですが、午後からは装備を買いに行けたら良いなと思ってます」
それぞれの予定が確認出来たところで、それぞれの部屋に戻って行った。
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