第2章 第8話 鉱山迷宮の威力偵察
迷宮二階層目。
基本的な迷宮構造は一階層目と変わらず、石造りだった。この階層で最初に見つけた敵は巨大な蝸牛だった。殻が鉱物っぽい造りで硬いが軟体部分に触れると殻に引っ込んでしまうため、またもや無抵抗枠だった。これはレーヴィアの炎の魔法で炙ると簡単に撃破になり、収納されていった。 次に見つけたのは、人間の子供程もある巨大な蜂だった。蜂は単体で飛んでくる物もいたが、複数匹でやって来ることもあり、マツリの大身槍とカナリエの長剣、レーヴィアの炎魔法で怪我をすることなく対処出来ていた。一度だけ、前衛を抜いた蜂がレーヴィアに迫ってきた時に、エイルが射殺した。
迷宮三階層目。
階段を降りたところがそれなりに開けた場所だったので、そこで昼食にする。
「はい、おつかれさん」
エイルが皆の手や目立つ汚れを【洗浄】魔法で落としてから、弁当の包みを配る。屋台で購入した甘辛い味付けの肉と酸味を感じるソースを葉物野菜とパンで挟んだもの(ホットドックに似た何か)は意外と好評だった。飲み水に水筒も手渡していく。
「初ダンジョンはどうかね?だいぶやり難そうにしてたけど」
エイルが皆に訊くと、淀んだ目で三人とも頷いた。
「なんかこう……。魔物なんだけど、無抵抗な引きこもりを殺るのはテンションが下がる……」
これは全員一致の見解だった。
「分からんでもないけどね。鉱物系のダンジョンのパターンだと、ガーゴイルやゴーレムみたいな、全身鉱物って感じの敵とかがそのうち出て来ると思うよ。あと牛」
「? ガーゴイルとかゴーレムは分かる。牛ってなに」
「ミノタウロス。角が金属っぽくて、武器も金属製なのを振り回してくる。この手のダンジョンに居るやつは体毛も針金みたいに硬いから、初めてだと結構キツイかも。」
マツリはエイルの話を聞きながら想像する。
「あと、ここで出るかは分からないけど。昆虫とか甲殻類とかが、鉱物質の外殻でやってきたり。まぁ、パターンは色々あれどここがどうかは分からないし。ちゃんと冷静に動ければ大体は大丈夫だと思うよ。油断だけはせず、思うようにやってみて。失敗してもそれはそれで勉強だから」
昼食後、スター・シーカー製の便利魔道具【ボックス・トイレ】を設置してトイレ休憩も済ませる。
【ボックス・トイレ】は扉を開けて中に入ると入口の扉を内側から施錠でき、【空間拡張】、【消臭】、【防音】、【自動洗浄】、【空間安定化】などが付与された、気配りが素晴らしい高度な個室空間となっている。用を足す便座の中は異空間収納で処分されるため、その後の処理にも困らない。まさにスター・シーカーの叡智の結晶であった。
なお、【コンテナ・ハウス】や箱馬車内にも同等の施設が設置されており、この快適さを覚えてしまうと元のトイレ事情が耐えられなくなるという(エイル談)
最近はエイルの異空間収納も広がってきた事で入れておけるようになり、マツリから自分用に一つ貰っていた。
三層目の攻略を再開する。このフロアの最初の敵は人間大の大きなヤドカリだった。背にした甲殻がゴツゴツとした鉱物質な上に、本体も硬い外殻に包まれており、動きも意外と機敏だった。
「……硬いですね。私の長剣では殆ど刃が通らないです」
カナリエが苦戦している。
「ひっくり返せば簡単そうなんだけど……」
マツリは戦鎚に持ち替えて脚の関節付近や爪の迎撃を行っていると、レーヴィアから援護魔法が飛ぶ。ヤドカリの足元を片側だけ隆起させ、持ち上げていく。するとバランスを崩したヤドカリがひっくり返り、腹を狙える状態になった。
「援護ありがとう!」
カナリエはレーヴィアに礼を言いつつ、むき出しになった腹側の甲殻の隙間に長剣の刃を刺し込んでいく。ヤドカリはなんとか体勢を戻そうと藻掻くが、マツリの戦鎚が何度も振り下ろされ、体勢を戻すことも出来ず死亡した。
「腹側は外殻も柔らかめだったね?柔らかいというより殻が薄かったのかな?」
マツリが異空間収納に死骸を格納しつつ言う。
「レーヴィア、次にヤドカリ出てきたら腹下に【岩槍】か【氷槍】を起こして直接ダメージ入れてみて」
カナリエがレーヴィアにオーダーを出す。レーヴィアは頷くと「次やってみる」と応じた。
しばらく進むと再度ヤドカリに出会ったが、レーヴィアが開幕に【岩槍】を腹下から撃ち込むと深く刺さったようで、一撃で仕留められた。
「おぉ、レーヴィア上出来!」
「やったね!」
今回はあっさり攻略出来たことを喜びあう。
第三層は、下り階段が見つかるまでヤドカリにしか出会わず、いずれもレーヴィアが魔法で仕留めていった。
迷宮第四層目。
このフロアでは、巨大なダンゴムシのような甲殻の魔物が現れた。
見るからに外殻が硬そうな相手だったので、ヤドカリと同じ戦法でやってみると丸まってしまう前に仕留められた。
四層目も戦闘は問題なく進んだが、なかなか階段が見つからず時間が掛かった。
迷宮五層目。
動く鎧ことリビングメイルが現れた。武装は直剣と盾装備だったが、腕を落としても首を刎ねても動きが止まらず苦労していた。最終的にはマツリが戦鎚の打撃で胸部を殴打して漸く仕留めていた。
「弱点が胸にあるのかな?」
胴鎧をバラして確認してみると、胸部の心臓の位地に繭のような塊が貼り付いていた。ナイフで繭状の外皮を剥いてみると、中に割れた状態の赤い玉が入っていた。
「これっぽいですね」と、レーヴィアが呟き、三人の見解が一致する。
次に現れたリビングメイルは両手持ちの長槍だったが、動きが人間と大差がなく、弱点の位置が分かっていれば難しい敵ではなかった。カナリエが胴鎧の脇の下の、鎖編みの部位に長剣の切先をねじ込んで赤い玉を砕いて倒した。
攻略方法が確立すると複数体の相手も捌ききれた。
下り階段を探していると、両開きの大扉らしき構造物が見えてきた。
「フロアボス……?」
マツリ達に緊張感が戻って来た。
マツリが扉の先の様子を魔力感知してみると、強い反応が一体と、普通のリビングメイルの反応が四体、感知に掛かった。
「強い個体が一体と、普通のが四体いる感じ」
カナリエとレーヴィアはマツリに頷く。
「同時に捌くには、ちょっと数が多いね」
「入室後、取り巻き達をどれだけ早く処理できるかの勝負ですかね」
扉の向こう側の反応から三人が作戦について考えている。エイルはそれにも口出しはせず、危なそうなら助けるか、という感じで見守っていた。
あれこれと意見を言い合い、何とか作戦がまとまった。
「レーヴィアがボスを【岩壁】や【氷壁】で足止めして、私が【樹縛】で拘束を補強。カナリエはボス部屋に入って右側の方の取り巻きから片付けていく。私は左側の方の取り巻きから潰しに行く。取り巻きが全部終わるまで、レーヴィアは何とかボスの足止めに集中。最後にボスを倒す感じで」
カナリエとレーヴィアはその作戦に首肯し、気合を入れる。
「それじゃ、いってみよぉ!」マツリとカナリエが二人で両開きの扉を押し開いた。
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