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ある熟年夫婦の場合  作者: つよきち
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後悔というには大袈裟な感情

誠一が無意識に向かった店はベローチェだった。

誠一は危うく店の中に入るところだった。

慌てて引き返した。


誠一はもはや自分が何を望み、何を拒んでいるのか、分からなかった。

何かがそうではなくなった時、身体がそれに慣れるまでは時間がかかるということなのだろうか。

まるで心や感情と身体が独立して存在しているようだった。

自分まで信頼できないとなると、これから何を信じて生きればいいのだろうか。

誠一は永久に迷い込んでしまったようだった。


誠一は勇気を出して前を向いた。

出会うはずもないいろいろなものに怯えて、どうしても視野を広げることができなかったのだ。

そんな臆病な心と、懐かしさを求める心はどう共存しているのだろうか?

まるで心を二つ持っているようだった。

でも懐かしさを求める心はすっかり居場所を失くしていた。


その時、誰かが誠一の前に現れた。

すれ違っただけだった。

誠一は急にあらゆるものが怖くなった。

今までどう歩いていたのかも分からなかった。

誠一はそこで立ちすくんだ。

すぐに他人とぶつかったが、それ以上のことは何も起こらなかった。

まるで自分は存在しないかのようだった。

そのあまりにも小さい自分という存在に、自分自身はどうしても振り回されてしまう。

他人は自分のことなんか知りもしないのに、その他人のことを自分はあまりにも気にし過ぎた。

誠一は後悔というには大袈裟な感情を抱いていた。


気付いたら誠一は公園にいた。

ベンチに座っていた。

そしてまた腹が鳴った。

その時一匹の野良猫が誠一の前に現れた。

野良猫は腹が空いているのか、誠一に食べ物を乞うているように見えた。

誠一はなぜかその野良猫の気持ちが嬉しかった。

誠一はその野良猫の頭を撫でた。

野良猫は逃げなかった。

そして誠一は自分が泣いていることに気がついた。

声を上げて泣いていた。

こんなに泣いたのは初めてだったかもしれない。







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