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ある熟年夫婦の場合  作者: つよきち
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確かなこと

祥子は美味しそうに手羽を食べていたが、二口食べて、また誠一にその食べかけの手羽を差し出した。

目の前に差し出された、その祥子の食べかけの手羽に誠一は迷って、食らいついた。

なんだか自分らしくなくて笑ってしまった。

祥子も笑っていた。

もし二人があともう少し若かったら、もっと仲良くしてもいいかもしれないが、さすがにそこまでしたら笑えない。

それを考えると、30年以上も一緒にいて、変わらないものがある方がおかしいのかもしれない。


「胃がもたれる?」


祥子はそう言って、胃薬を持ってきた。

誠一も胃薬を受け取り、飲んだ。

結局、ケンタッキーは二人で5本くらいしか食べられず、全部食べられなかった。

「冷凍すれば、また食べられる」と祥子は言うが、今度食べるのはいつになるのだろうか。

誠一は、すっかりくたびれてしまった胃に、30年と言う年月を感じた。


「今日、楽しかった」


祥子は改まって、誠一にそう伝えてきた。

誠一はなんだか恥ずかしいような、申し訳ないような気分になった。

でもこの気持ちをどうすればうまく伝えられるか分からなかった。

というよりも、これが言葉でどこまで伝えられるか分からなかった。

でも伝えたかった。

祥子が言葉を発してから、どれくらい時間が経っただろうか。

誠一は祥子のその言葉を流すわけでもなく、受け止めるわけでもなく、ただ何もできないでいるまま、時間を経たせてしまっていた。

祥子は誠一のその間をちゃんと待ってくれていた。

さすがにそれは気まずい無言になった。


たぶん若ければ、ここで抱きしめるというのもありだったかもしれない。

でもそれは誠一にとって、若すぎた。

そんな誠一にとって、きっと言葉こそがありだったんだと思う。

でもその肝心の言葉が、誠一にはなかった。


代わりに誠一はちゃんと祥子を見ようと思った。

祥子はそこにいた。

そこにいるのは、30年ともに時間を過ごしてきた祥子だった。

目の前の祥子は誠一を見ていた。


何を自分は不安に思うことがあるんだろう。

その時、確かに誠一はそう思ったのだった。


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