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ある熟年夫婦の場合  作者: つよきち
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いつも求めてばかりいた

ケンタッキーは20分もしないうちに届いた。


でも届いたものは当時のあれとは違った。

誠一は急に不安になった。

30年以上も前のことだ。

同じ商品がなかったのだろう。

誠一は無理やりそう自分に言い聞かせた。

そもそも誠一は特に何か食べたいものがあったわけではないのだ。

だから当時食べたかったものがあってもなくても、とくに問題はなかった。

ただ誠一の違和感がさっきまで幸せだった誠一を変えてしまった。

それがさっきまで何の問題もなかった二人の雰囲気も変えた。

もしかしたら祥子が誠一を気遣って、今の誠一が食べたいものを考えてくれたのかもしれない。

誠一は無理やりこうも考えようとした。

でもうまくいかなかった。

その代わりに誠一の頭の中には、さっきまで封じ込めるのに成功していた別の違和感まで押し寄せてきた。

今の祥子はこれが食べたかったんじゃないか。

誠一ではない他の誰かと食べたこれを。

誠一はあれではなく、これになってしまった、目の前にある結果を信じたくなかった。


目の前の祥子はただケンタッキーを食べようとしていた。

その時、祥子が誠一に何か手渡した。

それは誠一が好きな部位だった。

ケンタッキーは昔と今も変わらず、オリジナルチキンはあらゆる部位が混ざっていた。

その中でも誠一は、手羽の部位が好きだった。

祥子は誠一が好きなことを知っていて、いつも誠一にその部位を譲ってくれていた。

覚えてくれていた。

なぜか誠一は、そんなことに感動していた。


その時、誠一はあることに気づいてしまった。

祥子だって、本当は手羽が好きなんじゃないか。

誠一はそんなことも知らなかった。

そしてそんなことも知らないことに、今更気づいたのだった。

なぜなら誠一が今まで祥子から手羽を譲ってもらうことはあっても、祥子に手羽を譲ることが一度もなかったからだ。

祥子はもしかしたら、一度も手羽を食べたことがないんじゃないか。


そして誠一は、また更にあることに気づいてしまった。

今まで誠一が祥子に気を遣ったことはあっただろうか。

もしかしたら、誠一が祥子に気を遣ったことなんて、今まで一度もなかったかもしれない。

それにも関わらず、誠一は子どもが生まれて以来、祥子が誠一ではなく幸恵を優先することについて、いつも不満ばかり抱いていた。

誠一はいつも祥子に求めてばかりいた。

でも祥子が誠一に何か求めることがあっただろうか。

というよりも、誠一が今まで祥子を優先することがあっただろうか。


誠一は目の前に差し出された手羽をいつも通り上手く受け取ることができなかった。

祥子はそんな誠一を待ってくれた。


「美味しいから」


やっと言葉にすることができた言葉はいつも通りぎこちない言葉だった。

でもそれは誠一が初めて祥子に見せた精いっぱいの言葉だった。

誠一は一度祥子から受け取った手羽を祥子に差し出した。

祥子はそれを受け取り、不器用に頬張った。


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