大事なことは言葉にしたくなかった
適当に歩いて来たのに、帰りは何となくでもしっかり家の方に向かっていた。
そしてついに家に着いた時、一緒に家に入ったのに、もう二度と祥子に会えないような寂しさを感じた。
なぜこれから横山に会うのか分からなかった。
それを決めたのは、誠一自身だったが、誠一はまるで他人事のように感じていた。
スマホを見ると、横山はまだラインを見ていないようだった。
既読にはなっていない。
誠一は「送信取り消し」の表示を出し、取り消した。
自分でもなぜそれをしたのか分からなかったが、今の自分に従うことにした。
誠一は横山が嫌いだと思った。
その理由はすぐには分からなかった。
でもたぶんそれは横山だから嫌いなのではなく、誠一自身が人とうまく付き合えないせいでもあった。
誠一自身が忘れていたが、確かに今までも人のことを嫌いだと思うことがあった。
だから誠一が嫌いな人ができることは特別なことではない。
誠一はダイニングテーブルで休んでいる祥子を見た。
祥子はコーヒーを飲んでいた。
だから、きっと誠一がこれまで一緒にいられた祥子はすごいのだ。
何も意識しなくても、嫌いだと思わないでいられた祥子は誠一にとって何よりも特別な存在だった。
祥子は誠一の視線に気がつくと、立ち上がり、キッチンの方に向かった。
そして祥子は誠一のコップに緑茶を入れて、誠一の目の前に差し出した。
誠一は、またそれを当然のように受け取ってしまった。
その時、誠一は「ありがとう」の言葉も言えないでいたのだった。
そのまま誠一はその緑茶を一口飲んだ。
それは、熱すぎず、かといってぬるすぎず、誠一にとって完璧な緑茶だった。
その時、誠一は何か言葉を発した。
誠一自身その言葉を発した自分自身に驚いたが、確かにそれは嘘ではなかった。
その言葉を聞いた祥子のせいで、誠一は急に自分が言ってしまったことについて自覚した。
でも後悔はなかった。
祥子は目を丸くして、何かの聞き間違えではないかと誠一をまじまじと見た。
誠一の反応を見て、それが間違いではないと確信した後は、その恥ずかしさを誤魔化すかのように、コーヒーを飲んだ。
「愛してる」
確かに誠一がそう言ったのだった。
誠一は自分でも、そんな言葉を発する日が来るなんて思いもしなかった。
それはその言葉を言葉にすることは何か違うと思っていたからだった。
大事なことは言葉になんかできない。
言葉にしたら、それがそうじゃなくなるような、何か軽々しいものになると思っていた。
でも実際それを言葉にする時は、頭ではなく衝動だった。
そしてその後に感情が伴った。
それは恥ずかしさだったりするのだけれども、でも後悔はなかった。
独りよがりではなく、誠一の言葉を確かに聞いてくれた祥子の存在が愛おしい。




