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ある熟年夫婦の場合  作者: つよきち
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惨めで、虚しい

今の祥子と歩く道は懐かしくもあり、よそよそしくもあった。

今とさっきとの明らかな違いは誠一自身の問題だった。

どうして他人の言葉に振り回されなければならないんだろう。

自分が信じている祥子では、なぜいけないんだろう。

誠一は、誠一を悩ませているのは自分で、悩まされているのも自分だということは分かっていた。

でもそれから解放される方法が分からなかった。

原因は分かっていた。

自分の弱さだ。

そして不安な気持ちが誠一の心を蝕んでいるのだ。

隣の祥子を見た。

当たり前のように隣にいてくれる祥子はもはや他人のようであった。

誠一は無理やり自分の思考を閉じ込めて、祥子といる今の時間を感じようと思った。


その時、祥子が何かを見つけた。

紫陽花だ。


「早いな。もう紫陽花の季節だなんて」


誠一もその紫陽花を見た。

誠一と祥子が見る先にはいくつかの紫陽花があった。

誠一はその時、祥子が見ている紫陽花が、自分と同じものを見ていると思った。

自信があった。

根拠はない。


またしばらく歩いていくと、そこには名前の分からない花が咲いていた。

祥子もその花を見ているのが分かった。

でも名前が分からない。

それもいくつか咲いていたが、祥子と同じ花を見ている気がした。


誠一は隣にいる誰かではなく、そして他の誰でもない、祥子が同じものを見ているんだと思えることが幸せだった。

誠一は少しずつ自信を取り戻していた。

そして自分が知っている祥子を正しいと信じ込ませようとした。

そもそも何を信じるのかは自分次第なのに、知らないことなんて知らないままでいいのに何を悩んでいるんだろう。


誠一は、いつも惨めだった。

一番好きな人と夫婦になっても、というより、だからこそだった。

いつまでも不安で、それでいて理想の自分とは程遠い、至らない自分がどんどん嫌いになるのだ。

祥子の前ではかっこいい自分でいたくて頑張っていたけど、その頑張りもいつまでも続けられるわけではなかった。

そんな自分に誠一は勝手に自信を失くしていった。

しかもこんな自分と一緒にいてくれる祥子に対して申し訳なさで苦しくなる時もあれば、嫉妬深い自分が祥子を許せない時もあった。

自分の自信はどんどんなくなる一方で、祥子への愛情はなくなるどころか、それはどんどん誠一の心を浸食し、いつの間にか自分の一部とまでなっていた。

誠一は祥子のせいで自分が嫌いになった。

そして誠一には祥子以上に大事なものがなかった。

だからこそ失うのが怖かった。

その恐怖心が誠一を誠一のままではいさせなかった。

誠一はそれくらい祥子を愛していた。

それくらい、それくらい愛していたのに、誠一は何をどうすればいいのか分からなかった。

ただ自分の知らなかった感情まで知り、虚しくなるだけだった。

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