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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第34章

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2388話 貫く気勢

 大剣を上段に構え直したテミスは、じわりと僅かに腰を落とすと、相対するタレシアを静かに見据える。

 この戦いが始まって以来、テミスは胸の内に抱いていた一つの疑問が、一つ確信に変わりつつあった。

 最初に不意を突いた一撃以来、タレシアは自分から攻撃を仕掛けてきてはいない。

 テミスの頬を切り裂いた一撃ですら、斬り込んだテミスに対する応撃。

 この戦い方は、テミスへの復讐者を自称するタレシアの感情と、大きくかけ離れているように思える。

 恐らくは、タレシアの戦い方は極端に後の先に偏った守りの型なのだろう。

 その証拠に、これまでの会話の中でいくら挑発をぶつけようとも、口撃で応ずることはあっても、自ら攻撃を仕掛けてくる事は無かった。


「さて……どうしたものか……」


 ぐい……と。

 肩で頬から伝い霧散する血を拭うと、テミスは低く小さい声で言葉を漏らす。

 後の先に特化した剣術を有しているとなれば、こちらから斬り込んでいくのは圧倒的な不利に飛び込んでいくことと同義だ。

 こういう相手にこそ、遠距離からでも有効打を与える事のできる月光斬で応じるべきなのだが、何故かこの場では月光斬を放つことは不可能。

 もしかしたら、魔力と闘気を用いて放つ月光斬ではなく、本来の斬撃そのものを射出する、能力(・・)を用いた方の月光斬ならば放つことはできるかもしれないが、それではタレシアを殺さないように加減する事は難しい。


「ならば、こうするか……」


 静かに考えを巡らせた後、テミスは不意に構えを解くと、大剣を手に携えたまま無造作に一歩前へと踏み出した。

 剣を携えながらも構えすらせず、一見すれば無防備に間合いを詰めるだけの一歩。

 しかし、テミスは悠然とその足を止める事は無く、二歩、三歩と構えたタレシアへ向けて間合いを詰めていく。


「ウッ……ウゥッ……!?」


 無防備であるにも関わらず、怯えを見せず、まるで散歩でもしているかの如く歩み寄ってくるテミスの意図を読み切れず、タレシアは迸る緊張に息を漏らした。

 そこからどう見ても、テミスはただ隙だらけで歩いているだけ。

 テミスとの距離は最早あと数歩。

 既にタレシアの構えた長剣の間合いの中であり、いつでも致命傷を叩き込める状態だった。

 それでも尚、平然と近付いてくるテミスの纏う不気味な気配に圧され、タレシアは無意識のうちに足が半歩後ろへ退いてしまう。


「っ……!? 馬鹿なッ……!!」


 テミスが眼前に肉薄するまでおおよそあと三歩。

 その至近距離において、自身が人間に気圧されたという事実を呑み込めず、タレシアは自身に対する怒りの叫びをあげた。

 あり得ない。

 自分が人間如きに気圧されるなど、あってはならないことだ!

 胸に抱いた魔族としての誇りがタレシアを鼓舞し、燃え上がった怒りと気迫が疑いを確信へと変えていく。

 こんなものただのハッタリだ!

 狙いが読めないのではない。

 剣技では敵わないと察しての無茶苦茶な特攻を仕掛けているだけだ。


「舐……めるなァ……!!」


 雄叫びと共に、タレシアは己が身を守るべく構えていた剣を振り翳すと、テミスを両断すべく攻勢に転じる。

 しかし、この時のタレシアに自覚は無いものの、攻勢に転じたのは決して彼女自身が感じている勇猛さからでは無かった。

 ただ、眼前に迫る(テミス)の狙いが読めず、ただ一方的に間合いを詰められる現状に耐えかねただけ。

 そうして、無防備であるという差し出された餌に食い付くかの如く、攻勢に転じたに過ぎないのだ。

 無論。そのような攻撃がテミスに通じるはずもなく。


「ははっ……!」

「ぁッ……!!」


 ばしり。と。

 振りかざした長刀をタレシアが振り下ろすよりも早く、するりと更に一歩前へ進み出たテミスの伸ばした手が、柄頭を抑えて斬撃を止める。

 もしもこれが、畏れによって転じた攻勢でなければ、タレシアが上段から振り下ろすという隙の多い一撃を選ぶ事は無かっただろう。


「浅い。浅いなぁ……?」


 片手でタレシアの長剣を押さえたまま、テミスは携えていた大剣の刃を起こし、引き寄せるようにして斬り上げる。

 非常にコンパクトな振りで放たれた斬撃を前に、長刀を押さえられたタレシアに逃れる術は無い。

 テミスの放った斬撃は、ギャリギャリと耳障りな音を奏でながらタレシアが身に纏った甲冑とぶつかりながらも、露出していた腹を浅く切り裂いた。


「くっ……!!」


 一太刀を浴びたタレシアは、テミスから距離を取るべく迷わず大きく一歩後ろへと跳び下がる。

 まずは一度体勢を立て直さなくては。

 守勢を崩されたタレシアの脳裏からは、もはや満ち満ちていたテミスに対する先制の意思は消え失せていた。

 だが……。


「ハハハッ!! 逃げるのか? 私のような、人間如きから?」


 テミスは低く嘲笑うような笑い声をあげながら、退いたタレシアにぴったりと肉薄したまま追い縋ると、更なる追撃を加えたのだった。

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