ⅩⅩⅡ: Délicieux ! Pâtisserie française !
一隻の船の姿がだんだんと大きくなっていくと、一斉に港が歓声で騒がしくなる。
港には多くの人々が詰めよって、船の到着を待ちわびているようで、時々手を振っている人も見えた。
船がゆっくりと港につけ、動きを止めると、船内にいる乗客が姿を現した。
その乗客の中にひときわ華のある令嬢が執事を共につれ、下船を始めていた。
「あら、騒がしいのね?」
「何かあるのでしょうか…調べておきます」
その令嬢は穏やかな表情を崩さない。
後ろにいる執事に笑顔を向けながら、毒をまき散らす美しき一輪の華なのである。
「興味ないわ」
「失礼いたしました」
「いいのよ? それより早くお父様の元へ行きましょう」
「かしこまりました。急ぎ馬車を手配します」
「お願いね」
彼女の名は「キャリー・アダムス」。
アダムス侯爵家の一人娘で、宝石市の闇であり、仮面舞踏会の主催なのである。
【パリ ホテル ノア達】
「美味い…ふふ、これは紅茶と合うな…よし、こっちだな」
「…これは合わないな…」
ノア達は現在フランスに入国し、数日間の馬車移動を経て、現在はパリのホテルに滞在していた。
長期間馬車に揺られているという環境に慣れている者と慣れていない者の差は激しく、慣れていない者はみなベッドに一斉に倒れ込んでいた。
「死にそう…お尻が…」
「大丈夫?」
「うん…何とか…」
お尻がやられているウィリアム。
「そっちもヤバそうですね?」
「…ふふ、何もできません…執事失格ですハハハ」
腰が死んだバーノン。
「…お二人は分かりますけど、なんでカルロスさんまで!?」
「チャーリー…俺だって走り回ってたんだぜ?」
「顔だけこっち向けてる…」
そして、疲れ切ったカルロスという川の字が出来上がっているのを、チャーリーは「大丈夫かな、この人たち…」と思いながら布団をかけてあげていた。
チャーリーが後ろを振り返ると、そこはソファのあるリビングほどの大きさの部屋になっており、ノアが紅茶を片手にフランスの菓子を吟味していた。
「…うん、甘いな?」
時々独り言をつぶやき、紅茶に合う物を選び出しているようだ。
「兄さん、どう?」
「あぁ、いい感じだよ」
「どっちが紅茶に合うやつなの?」
「右に集めたものがそうだ」
「なるほど~! あ、フィナンシェだ…これは~マカロンだね? んーなんだっけこれ…」
「チャーリー、おまえも気になるならこれ食べていいよ」
「え!? いいんですか!?」
「ほら」
ノアが差し出したのはマカロンだった。
おそらく無意識に「あ~ん」しているらしく、ノアは平然としていた。
つまり動揺しているのはチャーリーだけなのである。
(兄さんが「あ~ん」!?!? そんなこと知ってたっけ??)
「どうした? 食べないのかい?」
「いえっ!!」
「じゃあ、はい」
「……あ、ありがとうございます」
「…どうだ? 紅茶に合いそうだろう? これ、後でもう少し買っておきたいな」
「…合いますね、うん、味あんまり分かりませんでしたけど」
「なんで??」
「あら、まぁ!! まったくノア君ったら…たらしねぇ…」
「ん? おかえりマリアン、とボールドウィン卿」
「ただいま~!!」
「あぁ、抱きつきはNGだ」
「んもう!! ケチなんだからぁ~」
「マリアンさん、兄さんを独占なんて許しませんよ?」
「怖いわぁ~せっかくかわいいのに~」
「え、私、空気??」
「ボールドウィン卿、貴方もこちらへどうぞ。勿論、反対側だよ」
「はぁ~い!!」
マリアンとボールドウィンはノアの向かい側に座り、それぞれ外出中に集めてきた情報をまとめたメモをカバンから取り出すと、机の上に置いた。
「はい、これが二人で集めてきた「キャリー嬢」の目撃情報よ」
「こちらが仮面舞踏会にて着用するドレスのデザイン画です」
「二人ともありがとう。早速確認させてもらう」
ノアは二つの資料をすべて一通り確認した後、ソファから立ち上がって、突然バーノンを叩き起こした。
「おい、そろそろ起きてくれ。資料をまとめてほしいんだけど」
「無理ですぅ」
「…じゃあ、舞踏会のエスコートは他の者にま」
「もう起きました」
「よし、こっちに来てくれ」
「はい!!ただいま参ります!!」
叩き起こされたバーノンはすぐに資料を読み込み、まとめる作業に入った。
「さて、目撃情報はバーノンに任せて、我々はこっちを考えようか」
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