ⅩⅩⅠ: Arrival
【個室 ウィリアム達】
数分前、丁度ノア達が個室に入る頃に、ウィリアムとチャーリーの二人は、いち早く二人の個室に入り、籠っていた。二人で扉に片耳を押し付けて、廊下に響く声を捉えると、すぐにベッドの側に移動し、ウィリアムがベッドに向かって椅子を動かした。
ベッドの上には古びた様子のトランクが置かれており、それをウィリアムは椅子に座りながら開けた。中には電鍵と呼ばれる機械が設置されていた。
ウィリアムは慣れた手つきで機械の動作を確認し、信号を送る。数秒もすると返信がきた。
少しキーの高い音が室内に響くと、それをチャーリーが読み上げた。
《元気そうで何よりだ》
《ウィリアム坊ちゃん、そっちの状況はどうだ?》
「…だってさ、どうカルロスさんに説明しようか…」
「簡潔に言うしかない」
「…ま、まぁ…そうだね…色々と細かい事は省いて…」
「うん」
「じゃあ、とりあえず「主催の男を仲間にした」、「着いたらホテルに向かう」って事だけ伝えよう」
「分かった」
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《・―― ・ ・―― ・・ ・―・・ ・―・・ ・・・・ ・ ・― ―・・ ― ――― ― ・・・・ ・ ・・・・ ――― ― ・ ・―・・ ・― ・・・ ・・・ ――― ――― ―・ ・― ・・・ ・―― ・ ・― ・―・ ・―・ ・・ ・・・― ・ ・―・―・―》
「…どんな反応するかな?」
「うーん…」
二人は主催の男ボールドウィン卿が仲間になった経緯(主に男の性癖)をカルロスに説明したくないなという顔で、返信を待っていた。
すると、煩いと思うほどの音が連続して響きだして、二人は顔を歪める。
《おい、奴と接触したのか!?》
《どうして仲間になったんだ!?》
《ホテルでしっかりと話を聞かせてもらうからな!?》
「……最悪」
ウィリアムは顔を歪め、状況説明した事を後悔した。ホテルに着いたらきっと詰められるに違いない。
「ほんとだね…まぁ、説明は兄さんにお願いしよう、うん」
「そうだね、これは無理」
ウィリアムはとりあえず適当に話を先延ばしにしておく事にした。その後もずっと音は機械から発せられていたが、二人して一緒に真顔のままトランクを片して、無視を決め込むことにした。
「よし、ウィリアム、一緒に兄さんの部屋に行こう。もう少しで八時半だし、そろそろフランスの港が見えてくる具合だ」
「うん。報告もしないと」
「ふふ、偉いなぁ…ウィリアムは~」
「…」
照れているのかスタスタと個室を出ていくウィリアムと少しだけ距離が近づいた気がして、チャーリーは口角を上げて髪をいじった。
この後、二人はノア達がいる部屋に入室する事が出来たが、ノアとボールドウィン卿のやり取りを目の当たりにすることになり、顔を青ざめ、ウィリアムはその場で困惑、チャーリーはボールドウィンを蹴り飛ばす事になった。ノア曰く、それはそれは素晴らしい蹴りだったという。
現在、船はフランスの港目前まで航行しており、もうすぐ着港だというアナウンスが聞こえ始めていた。
遂に彼らは目的の舞踏会へと本格的に動き出すのであった。
【? ホテル内の一室】
大きな煙がホテルの一室にくぐもった声と共に響く。
煙は煙草から発せられているらしく、少ししわのある手に握られていた。
煙草をふかしている男は座っている椅子の横に日頃愛用している杖を立てかけ、喧騒のない窓の景色を眺めていた。
「…素晴らしい景色だ、これほどまでに目が痛い建物なんて見たことが無い」
男はまるで独り言を言っているかのようだった。
「えぇ、本当ですね。これほどとは…」
煙草をふかしている男の横にもう一人の男が座っていたらしく、静かにその声を発した。
「君は娘の事をどう思う?」
「…素晴らしいと思いますよ、とても貴方に似ていらっしゃるではありませんか」
「…あぁ、よく似ていると言われる」
「それで、舞踏会では誰が彼女のパートナーを務めるので?」
「あぁ…是非君に任せたいのだが…よろしいかな?」
笑みを湛えた表情で疑問を投げかけてきた隣の男に対して、煙草を灰皿に押し付けながら男は語りかける。
「勿論、光栄です」
少しの沈黙の後、煙の残り香が部屋を抜け、別室にいる使用人の鼻をかすめた。
杖を握り、思案を続ける男の目線は遠く先を見据えている。
「無事に舞踏会が終わるといいんだが…」




