ⅩⅩ: The truth
ノアは満面の笑みで、自身が被っていたウィッグを床に落とし、リップを手で拭った。
「私…「男」なんです」
「え…?」
驚いている相手を放置しながら説明を続ける。
「改めまして、僕はモルガン侯爵家当主ノア・モルガンです」
「…侯爵様…」
「騙していたことを大変申し訳なく思いますが、貴方がいけないんですよ?」
「なんですって…?」
「貴方が…キャリー・アダムス嬢の嘘にうまく乗せられて雇用契約をして、そのままうまく騙されてしまったからこうなっているんですから」
「な、なんだと…どういうことなんだ?」
「ふふっ、実は…貴方は宝石市の開催前日からアダムス侯爵家に騙されているんですよ…まだお気づきでない?」
「待ってください、そもそもなんで私がアダムス侯爵家に雇われた事を知っているんですか?」
「それはすべて僕の執事や仲間たちが調べてくれたからですよ…」
「な、なぜ……いや、貴方は…購入者リストの名簿に…」
「そう、僕は宝石市当日に使いを出して『エメラルド』を購入した人間です」
「…何か問題でもあったのですか?」
「察しが良いですね。その通り…。
あの日購入した『エメラルド』は精密にガラスで作られた「偽物」だった。
つまり、僕は偽物を買わされたわけだ。
金銭的な損害が出てるんだよ…分かるか?」
ノアは笑いながら、どんどんと顔が青ざめていくボールドウィンと距離を詰めていく。
「おかしい…あれらはわざわざ原石から言い値で買い取って加工した本物です!!
そんなことありえない…!!」
「そこだよ。僕も聞きたいのは。
ボールドウィン卿、貴方は直前までしっかりと宝石をすべて確認したのか?」
「…そ、それは…」
「その反応からして…していないな?
宝石商たるもの「宝石の状態確認は売る直前まで必ず行うこと」…知らないのか?
様々な産地から送られてくる宝石は輸送の関係で傷やヒビ、酷いときには割れることもある。
それほど繊細なものだ。
必ず客に売る前にすべての商品の状態を確認する必要がある。
これはクレーム発生防止にもつながる大事な作業だ。
…それを怠り、あまつさえ騙されていることにも気づかないとは…。
いいか、僕を含め、貴族というのは欲深いんだ。
世間の情報操作で、偏見が植え付けられているだろうが、私達貴族はよい人間じゃない。
今回がいい例だな? 貴方はアダムス侯爵家にいいように利用されている。
教えてあげよう。
貴方はまずそもそもアダムス侯爵家に雇われていない。
もし、雇用契約書があるならそれはどこか不備があるものだろう。
不備があればそれはただの紙切れ同然だ。
そして、宝石がなぜ偽物だったのかということだが、これは貴方が確認を怠ったせいで、アダムス侯爵家が前日に会場に侵入して、本物とすり替えたという行為自体に気付けなかったからだ。
これは事前に防げたことだ」
「……なるほど……」
「このままだとアダムス侯爵家はうまく痕跡を消して本物の宝石だけを手に入れ、逆に貴方は偽物を売った詐欺師だと世間からは責められ、購入者からは返金を訴えられる。
これまで築いてきた地位、名声、信頼は無くなる。
つまり仕事はできないから…貴方はいずれその辺のホームレスになるしかないだろうね」
「そんな! どうすればいいのでしょうか…」
ノアはボールドウィンの髪をつかみ、無理やり上を向かせる。
「そうだな…貴方には僕の「味方」になってもらおうか…!」
「…え」
「勿論拒否権はないが…」
「わ、分かりました…それで助けてくださるなら!
私は何をすればいいのでしょうか?」
「簡単だよ!
フランスで行われるパーティーの情報をすべて教えてくれ。
いいか? すべてだ」
後ろで見ていたバーノンとマリアンは困った顔をする。
「まぁ、味方にするだなんて…あんな性癖持ちが仲間だなんて…」
「そうですねぇ…ご主人様はこういう所がありますよねぇ…にしても、あの男…男だと暴露しても嫌がりませんでしたね…つまりどっちもイケるタイプ…!?」
バーノンが深刻な面持ちでにノアの元に駆け寄り、ボールドウィンから「離れろ」と強く肩を引っ張り始める。
「ご主人様…ダメです!! 離れて下さい!! ボールドウィンはどっちもイケるタイプですよ!!」
「どっちも? 何がだ?」
「…なんだ、そっちもバレてるんですか…そうですよ、私はどっちもイケるタイプなので♡」
「うっ…!!」
バーノンが「気持ち悪いなコイツ」という顔で唸る。
「いやぁ…さっきのはとても…えぇ……よかったですねぇ…ふふ、ふふふ」
「うわぁ…これが「ドM」なのか…なんかバーノンと似てるな」
「私はあんなんじゃないです!!」
「…いやだわ…ノア君こっちに来なさい…ダメよ教育に良くないわ」
「…マリアン…僕を何歳だと思ってるんだ?」
ボールドウィンが先程の会話を思い出し、気持ち悪い笑いをし出したせいで、三人はずっと鳥肌が止まらなかったという。
こうしてノアはボールドウィンを味方につけ、彼から情報をすべて手に入れることができた。ボールドウィンはパーティーが終わるまでは仲間として同行させることになった。ボールドウィンはバーノンが情報を聞き出しているときに、定期的にずっと「踏んでくれ」とうるさかったのだが、ノアはその度に笑顔で踏んでいたらしい。
なかなかいい関係ができていると言えるだろう。
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