私の一日
プロローグです。
六時。今日もいつもと同じ朝を迎える。私の隣にはまだ母が眠っている。
「ねえ、お母さん。起きて。そろそろ悠也兄さんが来るよ」
「ん? ああ、おはよう。夜月。そうね。そろそろ起きないと」
私と母、美希はベッドから降り、制服み着替える。
母が三人分の朝食を準備する。
七時。悠也兄さんが私と母の部屋に来る。
「おはよう。夜月。ゆっくり眠れた?」
悠也兄さんが私に尋ねる。
「はい。おはよう御座います。悠也兄さん。ゆっくり眠れました」
「ああ、それは良かった」
悠也兄さんはいつもと同じように私の頭を撫でる。
そして母に話しかける。
「美希さん。おはよう御座います。今日の朝食は何ですか?」
「うん。おはよう。悠也くん。今日の朝食はフレンチトーストよ」
「やった! 僕の大好物です」
そう言って、悠也兄さんは笑う。
母が用意した朝食を三人で食べる。
「いつもありがとう。悠也くん。でも、ここに来るのは危ないんだから、無理しないで」
と、美希は悠也に言う。
「大丈夫ですよ。美希さん。危なくならないように、工夫してますから。それに貴女と夜月に会いに来るのは、当然ではないですか。だって僕たちは家族何ですから」
「ええ。確かに夜月はそうよ」
「はい。僕は毎朝、愛する妹と、美希さんに会いにきているんです」
すると、母は少し困ったように下唇を軽く噛みながら笑う。
いつもこのやり取りを母と悠也兄さんはしている。何十回も聞いた会話だ。でも、私はこの会話を聞くこの時が、一日の中で一番好きだ。
八時。朝食が食べ終わる。
「じゃあ、僕は行きます。美希さん、夜月。今日も気をつけて」
いつも悠也兄さんはこう言って部屋を出て行く。
「じゃあ、私言ってくるね」
「行ってらっしゃい」
そう言って、私も部屋を出る。
この瞬間、母はいつも泣きそうな顔をするから、何も言わずに出て行こうかとも思うが、母との会話を少しでも減らしたくないという、私の勝手な思いから、何も言わずに出ていく事は出来ない。
九時。身体力テストが始まる。
三十キロメートルを十五分以内で走る。
百キロの重りを頭の上まで持ち上げる。
水の中を二時間泳ぎ続ける。
十二時。身体力テストが終わり、呪術訓練が始まる。
札を爆発させ、木を折る。
動いている物体を爆破させる。
これを何十回も行う。
十五時 拷問訓練が始まる。
腹を蹴られる。
殴られる。
数十メートル先まで吹き飛ばされる。
首を絞められる。
拷問訓練の際、決して叫んではいけない。泣いてはいけない。それが出来なかったら、出来るまで拷問訓練は続く。
全ての拷問を耐え切ったとき拷問訓練は終了する。
拷問訓練が終わった時には、もう私の顔は元の原型を保っていないだろう。足も腹も黒くなり、血が流れている。
しかし、私は直ぐに帰らなければいけない。
このきつい拷問訓練の良いところは、拷問訓練の後は何もする事がない事だ。
後に何もないお陰で私は私の秘密を守ることができる。
きっと、拷問訓練の後に何もないのは悠也兄さんが動いてくれているからだろう。
十九時 部屋に戻る。部屋に戻ると、母が用意した食事がテーブルに広げられている。私はすぐさま椅子に座り、食事を食べ始める。私に昼を食べる時間は設けられていない。そのため、この夕食の時間は朝の時間の次に私の好きな時間だ。
「おいしい?」
母が聞いてくる。
「うん」
と、私が答えると母は笑う。
私が食べ終わると、母は必ず私の身体を見る。その度、母は複雑そうな顔をする。傷が綺麗に治っている事に対しての安堵の感情と、傷が治ってしまう原因が私の中に存在している事に対しての絶望の感情が混在しているようだ。
「いい? 夜月。絶対に知られては駄目よ。この事は夜月と悠也くんと私だけの秘密よ」
いつも母はこれを言う。しかし私は母に言われなくても分かっている。私の秘密を知られてしまえば、この僅かな幸せな時間どころか、自由の時間が、いっ時も無くなってしまう。もしかしたら、殺される可能性もある。だからこの「秘密」は絶対に知られてはいけない。しかし、私はただ母親に言われた事を守っている無邪気な娘のように
「うん。分かった!」
と、返事をする。
もし母が、私が秘密を守らなければならない理由を知っていると知れば、きっと落胆してしまうだろう。だから、私は無知の娘のふりをする。
「うん。ありがとう。夜月はいい子ね。じゃあ、寝ましょうか」
そう母に言われて私はベッドに横たわる。
二十一時。私の一日が終わる。
ここまで読んで下さり、有難う御座います。
次回から、本編が始まります。投稿は基本毎日する予定です。
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