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77話

上質な品が並ぶ王宮内とは思えない程殺風景な部屋に通されました。壁には地図が張り付けられていて、大きな机と複数の椅子。部屋の空気も何だか堅苦しいように感じます。


ディーと複数の家臣らしき人物が主になってグレオノール王国の状態を教えて下さいました。

現在の国王は病に()せっていて戦場どころか人前に出る事も困難なのだそうです。ディーが取り仕切っている状態らしいのですが…、ディーに務まるのでしょうか。

簡潔に言ってしまえば、もっと強く逞しい者が王になるべきと考えている派閥との小競り合いが続く中、魔族の襲撃もあって忙しいのだとか。



「カナタや私まで呼び出されたのはどうして?頼りなく見えるけど、それなりに使えると思うよ?フレッドは。」


「サーシャ、言い方…。お願いだから部下の前でもその調子なのは止めてね…。」


「フレッドには大いに感謝している。ただ、魔族は神出鬼没で…どうしても後手に回ってしまうんだ。」



街や砦を拠点として兵を配置するとしても全てを網羅するには兵力が足りず、重要な場所に兵を置けば小さな村が襲われるというのです。現れたと知らせを受けて向かっても(ほとん)蹂躙(じゅうりん)された後であったり、魔族に逃げられてしまったりと結果的には負けてばかりなのだとか。なんとも情けない。



「せめて何処に現れるか、その兆候が分かれば良いのだが…。」


「ねぇ王子様、これって襲われた場所?順番は書いてないの?」



途中で合流した家臣の手前、姉上はディーとは呼ばずに王子と呼んでいますがディーは不服そうです。小生はお前のその態度が気に入りませんがね。


姉上の疑問に答えたのはいかにも戦えないといった風貌の家臣でした。地図の印は姉上が聞いた通り襲われた場所であり、横に小さく記載されているのが襲われた順番なのだそうです。更にその横に小さな字で記載されているのが被害人数と家屋だとか。



「あー…、……今度は此処。多分。」


「分かった、俺が行くよ。精鋭を数人連れて行きますが、良いでしょうか?」


「ま、待てフレッド殿。王子の知人というから冒険者に話しはしたが、あくまでも戦力として協力を仰ぐのが目的。こんな小娘の言い分を鵜呑みにするのは…。」


「え?…あ、すみません。つい何時もの癖で。」


「癖って…。セレンクーリア王国の騎士団を預かる貴方がこんな小娘に顎で使われているのですか。…戦力的に助かってはいますが、方針まで委ねるつもりはありませんぞ。」


「姉上、帰りましょうか。」


「そうだね。お邪魔しました。じゃあフレッド、頑張ってね。」


「待って待って、サーシャっ。俺が説明するからっ。」



呼び付けておいてこの態度。協力などする気が失せるというものです。

姉上も同意見だったのでしょう、二人で退室をしようとするとフレッド殿に引き留められました。



「メイノ、前言を撤回せよ。」


「ディーデリック様…?」


「此方から協力を仰いだのだ。そのような扱いをするなら適当な冒険者を金で雇えば済む事。ギディオン陛下に頼んで見繕って頂いた人材をぞんざいに扱うなど、私が許さない。」


「ですが…っ、…いえ、失礼致しました。」


「分かれば良い。…が、姉う…、…サーシャ、理由を教えてはくれないか?フレッドには分かるのだろうが、私には何故次に魔族が現れる場所の見当が付いたのか分からない。」


「王子、私も分かってませんよ?サーシャの読みを信じているだけなので。」


「姉上、どうします?」


「私、紅茶ね。」



国の王子であるディーが姉上を庇った事で多少の(わだかま)りが残ってはいるようですが、メイノと呼ばれた年配の男性は引き下がりました。

帰るつもりだった姉上もディーの仲裁で丸く収めようとして下さったらしく、椅子に腰を下ろしたのですが注文を忘れない辺り姉上らしいです。暗に持って来いと言っているのが分かるとメイノが部下と思しき人物を使って紅茶を取りに向かわせました。


姉上は壁に掛けられている地図を指差しながら説明をして下さっています。

初めに襲われた村は王都に程近く、段々と王都から遠ざかっているらしいのです。兵の配置が間に合わずに一つの村が壊滅的打撃を受けてしまった場所から、また王都に近い街が襲われ、その後は段々と遠ざかっているのだとか。

被害状況を見ても村や街を滅ぼすというよりは兵を誘き寄せているようにも見えるので、次に襲われる街の予測が付いたという事でした。



「確かに筋は通っているが…、どうして魔族がそんな事を…?」


「本当に魔族だったの?魔族を語る人間かも知れないし、角のある半獣や半人かも知れない。魔族だっていう決め手は何?」


「それは…、やはり角だな。それと闇属性の魔法を扱う。…いや、闇属性を扱えるのは魔族だけとは限らない、か…。」


「ヒロト、魔族の特徴を言ってみて。」


「何で小生が…。…形状は様々ですが角を有している事。闇属性の魔法を扱える事。人間以上の身体能力を有している事。人間と言語が異なる事。魔法を扱う際の呪文も人間の扱う呪文とは異なる事。最後に、魔法を使う際には瞳が赤く光る事。…小生が知っている事は以上です。」


「はい、良く出来ました。…といっても、後半は知らない人の方が多いと思うんだけど。」



魔族は敵だという認識の強い人間はその特徴に詳しくありません。角があって人間を襲ってくる強い生き物が魔族なのですから。

フレッド殿も含めた全員が驚いている様子でしたが、姉上が図書館で古い文献を見付けたと助け舟を出して下さいました。一時期とはいえ、魔族と暮らしていたとは言わない方が懸命ですからね。



「そんな文献は読んだことは無いが…サーシャが言うのなら、信じよう。しかし、その特徴を聞く限りでは簡単に区別がつくのは魔法を使った時の赤い瞳…か。魔族の言語は分からないし判断材料には出来ない。それ以外の特徴は周知の事実だ。…だが、魔法を使われては此方の被害も…。」


「魔力を使った際に光るので、詠唱を始めた時にはもう赤い筈です。放たれる前に対処できるのでは?」


「それも、そうか。…となると今までの魔族は本当に魔族だったかと問われると答えられないな。瞳の色を確認する余裕など無かったし、記憶に残っている者など居ないだろう。」


「じゃあフレッド、此処に行って確認、お願いね。間隔としては今日か明日ってところだと思うけど…、明後日まで粘ってみて。」


「…分かってます。明後日、ね。それで来なかったら一度戻るよ。」



メイノは不服そうではありますが、姉上は賢いのです。

賢くて強くて非の打ち所が…あ、料理は壊滅的でした。姉上を台所に立たせてはいけません。

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