76話
グレオノール王国はセレンクーリア王国とは雰囲気が違っていました。セレンクーリア王国よりも賑やかというか騒がしいというか…。
良く言えば活気がある、と表現しておきましょうか。
人間にしか見えない人達ばかりではありますが、この方々の大半が半獣なのだそうです。小生には違いは分かりませんが良く見れば魔力の質のようなものが違います。それよりも半人の方の方が目立つようにも思えます。セレンクーリア王国は半獣や半人に理解がある人間が多いとはいえ、やはり獣が国を持って生活している事を厭う人間も少なくないのだとか。
そういわれてみると、半人は殆ど見掛けませんでしたね。…あの五月蠅い兎を思い出しました…。
「魔物っ!?」
「ちゃんと使役してますからご安心下さい。」
フレッド殿は王宮だろうということでグレオノール王国の首都であるリグルスの中を進んでいると案の定…ではありますが、ヒスイに驚く方々ばかりです。姉上が応えて下さっていますがセレンクーリア王国とは違って姉上の顔や名前が知られている訳ではありません。怯えて逃げ出す方が圧倒的に多く、武器を構える方も居ます。
小生が別の空間に保護出来れば良かったのですが…、…街の外で待っていて貰う方が良かったでしょうか。ですが、街の外で討伐されてしまう事の方が怖いのでそちらを選ぶ場合は姉上一人でフレッド殿を探して頂きましょう。
「やっぱりヒスイと一緒だと皆怖がっちゃうね。」
「小生とヒスイは街の外で待っていた方が良いでしょうかね?」
「うーん、何か使役してますよって分かる物があると良いんだけど…。」
「フレッド殿が見付からないのが悪いのだと思います。」
「あ、それだ。フレッドの所為だね。」
「…相変わらず、酷くない?」
ヒスイを伴って街中を探索するのは得策ではないような気がし始めたのですが、フレッド殿が出迎えて下さらないのがいけないのだと姉上と話していたところ当の本人が現れました。
魔物が街に入り込んだという話を聞いて来たのだそうです。
姉上がヒスイの事を説明して人間を襲うような魔物では無い事を理解して頂きました。小生がヒスイを保管出来ない事も含めて。
「そうなんだ。なんか…ヒロト君らしいね。」
「喧嘩を売ってますか?買いますよ?」
「売ってないよ!?…あれ、ヒロト君…また背が伸びた?」
「そうなの!にょきにょきにょきにょき伸びてっ。悔しいったらっ。」
「すみません…。」
姉上を見下ろすようになった辺りから、身長の話は禁句です…フレッド殿。
小さかった時よりも姉上を庇い易くなった気がして小生は気に入っているのですが、姉上がお気に召さない様子。
「猫背が凄いけど…、もしかして俺とあまり変わらないくらい?」
「そうかも知れませんね。…フレッド殿、姉上が膨れるので身長の話は終わりにしたいのですが。」
「膨れないよっ。」
「あ、うん…ごめん。えぇと、ヒロト君。その魔物…ヒスイだっけ?彼を使役しているなら大きさを変えたりは出来ないの?」
「…は?」
「え?…確か、術者の任意で大きさを変えられるって聞いたけど…。あ、魔力の大きさにも関係するらしいんだけどね。俺は使役なんてした事ないから詳しくないから細かくは教えられないんだけど。」
「そんな事が…。」
「ヒロト、小さいヒスイなら怖がられたりしないよ。はい、やってみて。」
「…はぁ、…相変わらず横暴です。」
「何か言った?」
「いえ、何も。」
姉上は相変わらずです。母上が結婚出来るのかどうかを不安に思う気持ちが少し分かります。
人間の中でのミュー殿だと思うととても魅力的だと思いますが…、ミュー殿はもう少し淑やかです。
『ヒスイ、小生たちの会話は理解出来ますか?』
『少し、なら。俺…小さくなる、の?』
『出来るか分かりませんが…、試してみても宜しいか?』
『……ん、…クロガネがしたいなら、良いよ。』
『有難うございます。』
小生と姉上の会話を聞いているだけで人間の言語を多少でも理解出来た辺り、ヒスイはやはり賢いのですね。今の会話も多少は理解して下さった様子。
ヒスイに断りを入れてからヒスイが小さくなる姿を思い浮かべて魔力を放出する事を考えます。これ、未だに慣れないんですよね。身体から何かが抜けていくような感覚がぞわぞわします。本来ならこの抜けていく感じが止まると魔力切れという事になるそうなのですが、小生はそこまで魔法を使った事がありません。
…シオドア殿が言っていたように魔力垂れ流し状態でしたら切れる事も無いのでしょうが…小生には確かめる術がありませんので。
「可愛いっ!!」
どうやら成功したようで何よりです。小生の肩に乗るくらいの大きさになったヒスイを姉上が抱えて撫でています。
元の大きさの10分の1くらいでしょうか?
「フレッド殿、時々役に立ちますね。」
「時々…なんだ。」
「ねぇフレッド、私たち王様に言われて来たんだけど…何をしたら良いの?」
「相変わらず無視かぁ…。」
小生と姉上は現状の話をするからというフレッド殿に王宮へと案内されました。カナタ殿たちは先に王宮で話を聞いて、今は準備を進めているそうです。テラは故郷でもあるそうなので準備が出来たら三人で街を回ると言っていたそうですが、特に必要ではない情報ですね。
「クロガネっ!」
フレッド殿に王宮の中へと案内して貰い、話をし易い場所まで長い廊下を歩いていると背中に掛かる声が聞こえました。小生をクロガネと呼ぶのはリゼンたちとヒスイ…それに、ディーです。
「お前が来ると聞いて待っていたんだ。……姉上も一段とお美しくなられて…。」
「え…、ディーなの?大きくなったね。手紙では背が伸びたって書いてあったけど、立派な王子様だね。見た目は。」
「ははっ、手厳しい。中身も頑張っているところだ。愛しい人に嫁に来て貰えるよう、自分を磨くのを忘れてはいないからな。」
「あぁ、そんな事言ってたね。結婚式には呼んでくれる?」
「サーシャ、今の言い方だとその愛しい人って…。」
「ディー、姉上と手紙のやり取りをしていたので?…誰が許可したんですか。」
「何が悪い。お前の許可なんて取らないぞ。お前は姉上とずっと一緒じゃないかっ。」
「…家族ですからね。ディーは家族じゃないです。友人と思ってあげなくもありませんが、姉上と懇意にして良いとは言っていません。」
「そ、そんなに睨んでも止めないからなっ。姉上が良いと言ってくれたのだっ。」
「ヒロト、ディー置いてくよ?手紙なんかより、今は大事な話があるんでしょ?」
「手紙なんか…。」
こんなところにも伏兵が居たとは想定外でした。姉上を娶る男は小生の兄になるのです。馬の骨では認められません。身長も伸びたので、大抵は睨むだけで牽制出来るようになった為に油断していました。
ディーの癖に小癪な真似を。




