74話
カナタ殿から収納魔法の使い方を教えて頂きました。それでも上手く理解出来ずに使用するまでには至りませんでした。
カナタ殿は【あいてむぼっくす】と呼んでいましたが、その単語も聞き慣れないので小生は想像する事が出来ません。
「そうか、アイテムボックスも分からないか。何かこう…大事な物が入ってるような箱とかそういうものを想像出来ないかな?」
「大事な物…。」
「あ!ヒロトそれ、出来てるっ。これ、しまってみて。」
「こう、ですね?」
「そうそう。それで、閉じて?」
「閉じる…?」
「ヒロト君、大事な物をしまって隠してるところを考えてみて。……そう。」
姉上とカナタ殿の助言に従ってどうにか収納魔法を発現する事が出来ました。姉上が置いてあったカップを中にしまうように仰ったので入れてみました。
同じくお二人の助言に従って箱のふたを閉じるように想像してみたことろ、ぽっかりと空間に開いていた穴は閉じる事が出来ました。
あとは開くだけだと言われたのですが、それがまた難しい。
「さっきしまった物を取り出すイメージだよ。大切な物、それを取り出さないと。」
「……にゃっ。」
「あ、出来た。カップは…ちゃんと入ってる。偉い偉いっ、ヒロトっ。」
「姉上…、苦しいです。」
どうにか出来たようですが、褒めて下さる姉上が立っていた事もあり久々に圧死させられるかと思いました。小生の方が背が高くなってからは位置的に食らう事はなかったのですが。
「ヒロト君もやっぱり無詠唱なんだね。…何か、掛け声みたいなのは聞こえたけど…。」
「ヒロトは何時も鳴くんです。カナタのおかげだね、有難う。」
「…あ、いや。……俺には、してくれない、よな…。」
何だか残念そうですが、小生が使えるようになったのが不服なのでしょうか?
飼い主が小生のおやつを入れていた箱を思い出して良かったです。毎回毎回開けようと試みていたのですが、小生の牙と爪では開ける事が出来なかったのです。
毎回上手く出来るかは分かりませんが、今度おやつを入れておきましょう。
「これでヒロトも一人前に近付いたね。良い子良い子。」
「近付いただけなんですね…。精進します…。」
姉上に一人前と認めて頂けるのは一体いつになる事やら…。
慣れる為に幾度も練習していると扉を叩く音が聞こえました。
カナタ殿が返答して客人を迎え入れたところ、王宮からのお迎えでした。カナタ殿に国王陛下が会いたいと言っているそうです。…ギドではなく、国王として…という事でしょうか。
カナタ殿もお忙しいようですし、小生と姉上はお暇する事にしたのですが王宮からの使者の方が姉上にも来て欲しいと仰るのです。
カナタ殿にお伝えした後に教会に向かう予定だったのだそうです。一体何のお話かは知りませんが、小生だけ帰る事にします。ヒスイの様子も見に行きたいですしね。
「え、ヒロト行かないの…?」
「呼ばれているのは姉上とカナタ殿なのでしょう?小生はお留守番をしていますよ。お気を付けて。」
「そう?じゃあ良い子にしてるんだよ。…お待たせしました、行きましょうか。」
姉上とカナタ殿、テラとレイチェル殿も使者殿と一緒に王宮に向かいました。移動魔法が閉じられたのを確認してから小生も宿を出ます。
倒れた小生を運んでくれた礼も兼ねてヒスイの果物を大量に買い込みました。覚えたばかりの収納魔法を使って果物を収納してみました。
上手く取り出せると良いのですが。
『ヒスイ、居ますか?』
『ん、此処。大丈夫だった?…んー……ヒロト?』
『名乗っていませんでしたね。此方ではヒロトと呼ばれています。小生の長く使っていた名前はクロガネです。』
『ん…、どっち?』
『そうですね、クロガネと呼んで下さい。』
『分かった。…クロガネ。』
『はい。』
『お腹空いた。』
『そう言うと思って買ってきました。…にゃっ。』
『にゃ?…あ、いっぱいあるっ。』
上手く出来て良かったです。
ヒスイは目の前に並べた果物に目を輝かせて嬉しそうに尻尾を振っています。犬のようで揶揄いたくなりますね…。
『美味しい。…これ、この赤いのが好き。あとこれと、これもっ。』
『分かりましたから、ゆっくり食べて下さい。誰も取ったりしませんから。』
感動して下さるのは嬉しいのですが、興奮し過ぎのような気もします。今まであまり満足に食べられなかったのでしょう。
そういえば、使役とは収納魔法のように別の空間にヒスイを保護するのだとか何だとか聞いたような気がしますが…どうすれば良いのでしょうか?
後で姉上に聞いてみましょうか。今はヒスイの空腹を満たす事を優先しましょう。
好みが分からないので適当に見繕ってきましたが、何と無くヒスイの好き嫌いが分かってきたので次回からは好みを多く買ってくるようにしましょうかね。
「ヒロトっ。」
「おや、姉上。もう戻られたのですか?」
「うん、ヒロトにも聞いて欲しかったみたい。陛下ったら、私と一緒に来ると思ってたみたいで。」
「面倒は御免です。」
「まだ用件言ってないでしょうが。」
「じゃあ聞かないのでその話を受けない、という事にして下さい。」
「もう、ちゃんとした陛下からの依頼なんだよ。本来なら銀どころか金等級の人達が行くような案件だけど。」
…それなら尚の事、小生のような銅等級に任せる話ではないと思うのですが…。
小生が聞きたくないと言っても姉上は構わず話し始めました。以前国王がディーの話を聞いてあげたので、フレッド殿たちがグレオノール王国に行っています。端的に言えばその手伝いをして欲しいとのことでした。
「え、嫌ですけど。」
「そうだよね、戦争してるところだもんね…。」
「いえ、まぁ…はい。」
「……違う事考えたでしょ。」
「姉上は鋭いです…。面倒だなぁ、と…。」
「やっぱりかっ。確かに危険だし、受けなくても良いとは言われたけど…友達が困ってたら助けに行かなきゃ。」
「友達…?」
「うん、心底分からないって顔は止めようか。分かるでしょ、ディーの事っ。」
「アレが友達…、…まぁ敵ではないと認識していますが。」
無理強いはしないというのであれば面倒なので行きたくないのですが…、…行く気になっている姉上に連行されるのは目に見えています。結局小生に選択肢などないのです。
…ギドはこれを見越して姉上に話をしたようにも感じますが…。




