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69話

小生の手持ちで購入できる限りで果物を袋いっぱいに買って裏の森に戻ろうとしました。

今日は何だか色々と良くない事が重なる日だと思っていましたが、まだあるだなんて。



「あ、ヒロト。今頃買い出しなの?」


「あ、姉上…っ。お戻りになられたので?」


「うん、少し前にね。報酬貰ってきたところで、今から帰るとこ。」


「そう、ですか。お疲れ様でした。…小生は少し用がありますので…。」


「うん?持ってるの、頼んでおいたやつじゃないの?帰るなら一緒に…、……何か隠してるでしょ。」



…やっぱり今日は良くない事ばかり重なるようです。

姉上に頼まれていた野菜は既に購入して教会に届けてありますが、大量の果物を見た姉上は買い出しを今終えたのだと思ったようです。教会に帰るのであれば一緒に帰れば良いと言い掛けた姉上はじっと小生を見上げてきます。

以前は小生の方が小さかったので視線を外したり俯いてしまえば表情を読み取られる事はなかったのですが、今では姉上の方が小さいので下から見られると上手く隠す事が出来ません。

あっさりと隠し事をしている事を見抜かれてしまいました。



「いえ、特には。…急ぎますので……姉上?」


「何処に行くのか知りませんけど、連れて行って貰いましょうか。」


「姉上がそういった口調になると怖いのですが…。」


「こそこそするヒロトが悪いんでしょ。それになんだか元気ないみたいだし、心配になるのっ。」



顔に出ていたのでしょうか…。確かに若干落ち込んではいますが、姉上に悟られてしまうとは。

こうなっては姉上を振り払うのは至難の業。小生の方が速いとはいえ裏の森ではあっさり小生の魔力を探知してしまうでしょう。

諦めるしかないと感じましたので、姉上と森に向かいながらクラーラ殿に頼み事をされたところから掻い摘んでお話しました。



「…え、待って。ヒロト、魔物の言葉が分かるの?」


「お話していませんでしたっけ?」


「聞いてないっ。」


「動物や魔物と会話が出来ますよ。まぁ会話が成り立つかどうかは相手にも因りますが。」


「動物とも!?…じゃあ、よく猫ににゃーにゃー言ってるのって…。」


「話し中です。どうやら動物や魔物との会話中は他の方には猫が鳴いているように聞こえるようで。」


「それってヒロトが猫だから?」


「さぁ、そうなんでしょうかね。」



姉上が知らなかったという事は母上にも話していないかも知れませんね。今度、折を見てお話しておいた方が良いでしょうか。


クロッドを出てから話を続けて狼の魔物が待っている事をお伝えしました。敵意はないので倒さないで欲しいとお願いしながら。



「…魔物の言葉が分かるから、その魔物と会話したって事?」


「えぇ、そうです。彼の母君が食料を調達する予定だったそうなのですが、出来なくなってしまいましたので小生が代わりに。」


「大丈夫なの…?本当に…その、襲ってきたりとか…。」


「襲われたら逃げれば良いかと思いまして。」


「もう、なんでそういうところは緩いのよっ。何時も討伐で逃げ回る癖にっ。…うん?ねぇヒロト、もしかして討伐依頼とか受けないのって、魔物を倒したくないとか?」


「いえ、そういう訳ではありません。ただ怖いからです。」


「会話が出来るから倒したくないとか、そういう事じゃなくて?」


「はい。前の世界にあんな狂暴な生き物はいませんでしたので、未だに怖いだけです。それに、動物も魔物も言っている事は理解出来ますが…その内容まで理解出来ない場合がありますし、何も考えていない方も多いので言葉が分かるからどうという話ではないです。」


「え、そうなの?」


「そうですね、人間に飼われているような生き物は傍で人間を見ているからか会話は出来ます。あと知能が高い生き物も出来るようです。ただ、野生の生き物は大抵単純な事しか言いませんし、魔物に至っては食べるとか殺すとかしか言いません。」



小生の話を聞いて姉上は感心するような眼差しを向けてきました。そして興味を持ったのかあれこれと質問責めにあいました。

姉上の質問にお答えしながら小生も考えがまとまったような気がします。

野生の動物や魔物は単語しか話さなかったり、此方の言葉に返答をしてくれない場合が多いです。言葉は理解出来ても会話にならないのです。話し掛け続けた結果、五月蠅(うるさ)いと言われた事はありますが。



「へぇ…、そうなんだ。なんか、魔物とか動物とか狩るのが申し訳なく感じて来た。」


「話が出来ようが出来まいが弱肉強食です。弱ければ食べられるし、搾取される。それは何処に行っても同じですよ。」


「…ヒロトが大人な発言してるのって腹立たしい。」


「姉上、理不尽です。…あ、彼です。」


「……綺麗…。」



森の中に進んで彼の姿が見えたので姉上に示したところ、毛並みの美しさに見惚れているようでした。

陽に照らされると毛先がキラキラと輝いているようにも見えて綺麗だと、小生も感じました。



『お待たせしました。お好みの果物が何かを聞き忘れてしまったので適当に見繕ってきました。』


『お帰りー。…綺麗な女の人、誰?』


『小生の姉上です。』


「本当ににゃーにゃー言ってる…。ねぇヒロト、それで会話出来てるの?あの子なんて言ってるの?」


「姉上がお綺麗だと言っていますよ。」


「照れるっ。」



あちこちで言われ慣れている筈ですが、なんで照れるのですか。小生に人間の美醜は分かりませんが、姉上は人間の中では綺麗だと判断される容姿だという事は理解しました。体型も人間の中では整っているようです。小生はもう少しふくよかな方が、子を産むのに適しているように思いますが。


購入してきた果物を並べていくと好みがあったようで勢い良く飛び付いていました。お好みがあって良かったです。



「魔物なのに果物が好きなの?」


「そうみたいです。肉はあまり食べない種族らしいですよ。」


「魔物に詳しくないけど、そんな魔物も居るんだね。それでヒロト、餌付けしてこの子をどうしたいの?」


「餌付け…?小生は母君の代わりに食事を…。」


「うん、聞いた。街中にこの子より大きい魔物が出たら私も問答無用で倒しちゃうだろうし、私は冒険者の人たちを責められない。でもお母さんが倒されちゃったからこの子が一人になったのは可哀想だなって思う。…だけど、魔物って倒すべき存在って認識だから大きくなる前に…とも思っちゃうの。」


「……どんな性質であっても魔物は殺すべきという事ですか。」


「…魔物は人間を襲うし、自衛というか…生きていく為というか…。」



姉上も戸惑っているというのが手に取るように分かります。

襲ってくるから倒す。食べる為に殺す。素材などを求めて襲う。それが、人間の魔物に対する感情なのでしょう。

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