67話
「ごめんね、ヒロ君。……これ、倍の値段で買うわ。」
「毎度ありっ。」
「それ程の価値が、その宝石にあるのですか…?」
宝石を生み出す為だけに傷付けられ、国を追われたリアム殿。罪を犯した訳でも無いのに捕らえようと誰もが手を伸ばしたのでしょう。
優しくて明るいリアム殿を傷付けてまでその宝石を生み出す価値などあるのか、小生には分かりません。
倍の値段を付けてまで購入を決めたカーラに問い掛けてみました。
店主が支度をする間、カーラが教えてくれた事。
リアム殿の宝石は血色宝石と呼ばれていてとても価値があるという事。この世界のどんな宝石よりも妖しく美しく、赤く輝くその宝石は貴族の身を着飾る為に用いられる事が多かったそうです。綺麗なのは当たり前です、リアム殿の一部なのですから。そこらの石ころなんかと比べる事が間違っています。
希少価値が高いのは市場に出回らないからなのだそうです。何でも15年程前に突如現れたその宝石は他では類を見ないくらいの美しさと輝きを持っていたのだとか。どんな図鑑にもどんな文献にも載っておらず、高名な方々でも知らないその宝石は瞬く間に貴族たちから求められる事になったそうです。
…リアム殿の加護は今までの歴史でも持っている方が居なかったのでしょうか。
製造方法も原石も不明で、商人たちも探し回ったそうですが出所を突き止める事が出来なかったのだそうです。
幼いシオドア殿が売っていたと聞きましたから、恐らく飢えを凌ぐ必要がある時だけ売っていたのでしょう。幼い子供が売る宝石など何処から入手したものか分からないのも当然です。
一時期、とある商人が大量に売っていたそうですがその出所は絶対に口にしなかったとか。
リアム殿を捕らえた人物でしょう。商人であるなら他の者に奪われないようにリアム殿が宝石を生み出す事を公にしなかった、という事でしょうね。
血色宝石の呼び名の由来は一般的に知られているのが血のように赤い色から名付けられたそうですが、リアム殿を捕らえた商人は彼女の血液で出来ていると知っているのですしどちらの意味で名付けられたのかは分かりません。ただ、とても不愉快な名前だと思いました。
「貴族とかお金持ちの人達が欲しがった宝石だったんだけど、くすんで割れてしまうようになったのよ。」
「割れる…?」
「そう、こんなに高価なのに消耗品なの。」
「宝石は着飾る為の物なのでは…?」
「本来はね。割れてしまうのは不良品だって騒がれたんだけど、調べてみたら魔力が宿っている事に気付いたの。」
血色宝石には微量の魔力が含まれていて、素材にもなり上手く加工出来れば様々な道具に用いる事が出来ると分かったのだそうです。
微量しか含まれていないので他の素材の方が良いとも思われていたのだそうですが、何よりも重宝されたのは含まれる魔力量ではないのだとか。
持っているだけで使用者の魔力を底上げ出来るそうです。収納魔法でしまっておいてもその効果はあるのだとか。更には魔法を使用する際に血色宝石を身に付けていれば魔力の流れを整え、より効率的に威力も高く使用出来るのだそうです。
魔力は血液のように身体を巡っている…、…リアム殿の血液で出来た宝石がその巡りを整えて下さるという事でしょうか。
魔力の流れを上手く整えられない初心者だけではなく、上級者であっても多少の乱れがあるのだそうです。それを血色宝石が整えてくれる事で魔法を使う際の威力や発動までの速度を上げる事が出来るとのこと。
ただ、含まれる魔力量が僅かであるが為に何度も使用していると割れてしまうそうです。貴族たちも生活の中で魔法を使用する事がありますし、直ぐ傍で魔法を使う者が居れば効果を表す事もあるのだとか。
その為、貴族たちの宝石も割れてしまったのでしょう。
貴族たちからは希少な装飾品として、魔法を使う者からは素材として…多くの人々が血色宝石を求めるのだそうです。
「私は、魔術師として譲れないの。…ごめんね?」
「お待たせしました。しっかりと包装させて貰いましたから。」
血色宝石は小さな箱に入れられました。魔法の掛かった箱で、外部の干渉を受け付けない箱なのだそうです。
購入者以外では開けられず、購入者の意思に反して他の者が魔法を発動する際に効果を表してしまわないようにする為なのだとか。
素材や魔法が付与された物が並ぶこの店全体にもその魔法が掛けられているので、店内では堂々と飾られていた宝石でしたが今はカーラが所有者です。カーラが持ち運び易いようにする為の配慮という事らしいです。
「ヒロ君はどうしてこれが欲しかったの?」
「……いえ、何と無くです。失礼します。」
「あ、ヒロ君っ。」
言える訳がないじゃないですか。リアム殿の宝石だから商品として置いておきたくなかった、小生が購入出来れば何時かまた会えた時にお渡ししようと考えた、なんて。
結晶になった宝石をリアム殿にお返ししたところで体内に戻す事が出来るかどうかなんて知りません。リアム殿が痛い思いをした事実を消せる訳がありません。
でも、…誰かの物になってしまうのを見たくはなかった。
店を出る際にカーラに呼び止められましたが、追い掛けて来る事はありませんでした。
一先ずはクラーラ殿の酒場に戻る事にします。色々とあったのでもう休みたい気持ちではありますが、頼まれた事はこなしてしまわないと気持ちが悪いので。
王都の門を潜って外に出ます。
人気が無くて集中出来れば小生にも移動魔法が使えますが、どうにも人の声が耳障りに感じてしまう今は街の外の方が集中出来ると判断しました。
外に出てもまだ人の声が聞こえてきます。此処が王都で人の多い場所だと理解はしていますが、今日はどうしても気になって仕方がありません。
魔物が出たら逃げるとして、少し森の中へと進んでいきました。人の声が聞こえなくなってきた辺りで魔物の気配を感じました。
直ぐに逃げてしまおうかとも思ったのですが、動く様子を感じられない事に眠っているのかと思いました。森の中とはいえ直ぐそこに王都が見える場所で魔物が眠るのでしょうか?
『母さん…?』
ふと気になって魔物の方へと近付いてみると木陰で寝ていた魔物が顔を上げました。
先程、倒されてしまった魔物にそっくりな翡翠色の狼。角も翼もあります。
『…人間?』
巨大な彼女に比べたら小さいですが、それでも小生よりも大きな姿の魔物。恐らく、彼女の子供でしょう。




