64話
カーラも同席したいと食い下がってきましたが、国王陛下が上手く断って下さいました。口が上手いのも国王の務めだと笑っていましたが。
王都と呼ばれている街ではありますが、あまりの広さに国王陛下の顔を知らない人も多く居るのだそうです。ギドというのは偽名で街を散策する際に用いているのだと道中に聞きました。
城の中に居て滅多にお目に掛かれない国王の顔などあまり知られていないのだと笑っていました。
「君もギドで構わないよ。街中では国王よりもギドの方が有名なんだ。」
「…国王陛下とお呼びしても構わないのですが。」
「ははっ、意地が悪いな。ギドと呼んでくれ、勇者様。」
「……貴方も大概、意地が悪い。」
「さて、どうかな。こんなにイイ男は滅多に居ないと思うが。」
「小生には判断出来兼ねますね。…それよりも、クラーラ殿の依頼を終わらせたいのですが。」
にこりと笑ったギドはそのまま黙って進んでいきます。
道中で色々な人から声を掛けられました。国王陛下ではなくギドが、ですけど。冒険者だと偽って街を回っているのだそうです。街や国を回る冒険者は長く顔を見せなくても依頼があったのだろうと察して貰えるし、ふらりと現れて滞在していても冒険者だからという目で見てくれるのだそうです。
「そんな話をしたくて小生を捕まえたのですか?」
「そう急くな。どうだ?昼飯でも。」
「…ギドが奢って下さるんですよね?」
「しがない老齢冒険者にたかるのか、仕方がない。私が何時も行っている食堂に案内しよう。」
ギドは人に好かれるのでしょう。少し進んでは声を掛けられ、また少し進んでは声を掛けられてなかなか進めていないようにも思えます。
王都と聞くとどの店も高級なイメージがあったのですが、ギドが案内して下さった食堂は小さくて民家のような雰囲気でした。中も忙しない外の様子から隔絶されたような穏やかさがありました。ただ、ほぼ満席でしたが。
ギドと小生を迎えてくれたのは体格の良い年配の女性でした。彼女はギドと小生を空いている席に案内して下さりました。
ギドは慣れた様子で注文をしていたので小生も注文をしようとしたのですが、ギドに勝手に頼まれてしまいました。好きなものを食べてはいけないのですか…っ。
「私が奢るんだ、メニューは私に決めさせて貰う。…なに、悪いようにはしない。この店のお勧めだ。」
「本当に、食えない方ですね。」
「そう簡単にやり込められては国など回せんよ。」
食えないお人です。…老齢と言っても良いくらいの年齢に見えますが、姿勢も良く所作も綺麗で色気すらあるように思えます。若い女性でも視線で追ってしまう程でしたからね。
小生には型破りな親父としか見えませんが。
小生の前に女主人が運んできてくれたのは鳥の照り焼きでした。思わず生唾を飲み込んでしまったらギドに笑われました。
何となく癪に触りますが目の前の鳥の方が優先です。折角の奢りなので遠慮なく頂きましょう。
「……っ!!」
「どうだ、美味いだろう?」
「絶品ですっ!!」
「くくっ、勧めた甲斐があった。」
「ん…っ、凄く美味しいです。…が、花鳥の肉の方が濃厚で、それなのにあっさりしていて美味しかったです。」
「うん?それは伝説上の魔物だろう?」
「そうなんですか。」
「いや、だから…、…君は大物だよ。」
料理を頬張っていたら何だか勝手に納得されてしまいました。何故かは分かりませんが食事の邪魔をしないのでしたらそれで結構です。
サラダも根菜は好きではありませんが葉物は好きなので美味しく頂くことが出来ました。
食事を平らげて満足していたらギドから視線を感じました。ずっと見ていたのでしょうか、食事を見ないなんて不躾な方ですね。
「君は、《女神の加護》を持っているそうだね。勇者ではないという話は聞いたが、勇者や英雄になるつもりはないのかい?」
「ありません。」
「即答か。…この国が平和になるよう尽力してはいるが、魔物の脅威は消えない。転生者が間引きしてくれる事で今は甚大な被害はないが…楽観視は出来ない。」
「他の転生者を当たって下さい。小生は母上と姉上とのんびり暮らしたいのです。」
「聞きしに勝る家族愛だな。…では、その愛すべき家族に危険が及ぶとしたらどうだ?」
「…回りくどい言い方は止めてハッキリ言って頂けますか?」
「では単刀直入に言おう。国を救う英雄になってくれ。」
「お断りします。」
「取り付く島も無いな。」
母上と姉上とのんびり暮らしたいと言っているのにどうして国なんてものを救わないといけないのですか。冗談じゃない。
未だに姉上よりも弱い小生が戦いの中で生き残れる訳がありません。
何でも、魔物の数が増えたというのです。そしてグレオノール王国に現れた魔族。フレッド殿率いる王宮直属の騎士団が討伐に向かったそうですが、未だに決着は付かずフレッド殿たちはグレオノール王国に滞在しているそうです。
国一番の精鋭が不在の今、魔族や魔物に攻められたら一溜りもないとのこと。それがどうして小生に降り掛かって来るのですか。…それよりもフレッド殿がそこまでお強いとは知りませんでした。姉上に毎度言い負かされているイメージしかないのですが。
「魔族が人間を襲う理由、分かっているのですか?」
「そこまで考えた事は無いな。歴史に残る中でも大抵いきなり侵攻してくる話ばかりだ。…君は、何か知っているね?」
「えぇ、ちょっと小耳に挟んだ程度ではありますが。ただ、今お話する気はありませんよ?」
「世界の危機としてもか。」
「世界の危機とは誰から見た危機なのでしょう。」
「…何だって…?」
「多少勉強はしています。ですが、小生はこの世界の世情にまだまだ疎い。…小生は、家族の危機にしか動くつもりはありません。」
「…ふむ、…君の口を割るのは時間が掛かりそうだ。もう少し簡単だと思っていた私の失策だな。」
口振りから今回は諦めるが次はそうはいかないと言われているような気がしました。
話しそびれてしまったまま母上にも姉上にも伝えていないリゼンたちの事、魔族の話、ゴートランドの話。それを国王というだけのこの親父に話す義理などありません。
ディーの国がどうなっているのか少しは心配ですが、魔族は危険な種族という認識の人達には尚更話したくはありませんね。




