57話
「ヒロト…、もしかして、精霊とお話出来るの…?」
「精霊?彼女が精霊かどうかは知りませんが、会話は成り立っていますよ。」
座り込んでしまった姉上から声を掛けられたので少女を一先ず捨て置いてお答えします。
筒に閉じ込められた経緯と出られなかった話を簡単にお伝えしたところ姉上の大きな目が更に開いて驚いているようでした。
そんな事よりも、精霊って何でしょうか。
姉上に聞いてみたところ、教えた事が無かったかと不思議な顔をされました。聞いた事はないですねぇ。
小生が幼い時に見ていた教会に浮かんでいる光、あれが精霊だというのです。大きくなってからも見えますが、この少女のようにヒトの形をした精霊は見た事がありません。
人間や獣の姿を取れる精霊は魔力も高く、高位の精霊らしいのですが…高位の精霊の癖に捕まったんですね、彼女は。
この世界の人達が使う魔法とやらは精霊に力を借りている事が多いのだそうです。体内にある魔力を精霊に差し出して魔法を使える場合が殆どなのだとか。
魔力の質に因って過剰に力を貸してくれる場合もあればその逆も有り得るとのこと。魔法は精霊の助力で成り立つ上に、精霊の気分次第で上手く使えなかったりする…という事でしょうか。
つまり小生が失敗するのも精霊が手伝ってくれていないから…?
『ねぇっ、無視するのっ?拗ねるよっ。』
『心底面倒臭いです。』
『オブラートって知ってるっ!?』
『小生は薬をそのまま飲めるので使いません。』
『そうじゃないもんっ。』
『はぁ…、取り敢えず、貴女を捕らえた輩は知りません。そして見付けて差し上げる義理はありません。小生よりもこの少年に見付けさせるのが良いのでは?譲って貰ったというのは彼なのですから。』
『う…、…一気に話されたら分かんなくなるっ。』
『では確認ですが。貴女は、精霊…という事で宜しいでしょうか?』
『う?…うん。』
彼女はフルールと名乗りました。闇の精霊なのだそうです。闇属性を持つ人達と相性が良いとのこと。
リゼンは闇属性でしたが…、姉上とフレッド殿はどうなのでしょう?
彼女が闇の精霊である事をお話した上で、帰り道を知りたがっている事をお話したところ皆さん黙ってしまいました。
精霊は何処にでも居て、何処にも居ない存在なのだそうです。教会に居る光の精霊たちも何処から来て、何処に帰るのか…教会に住んでいるのか、誰にも分からないとのこと。偉い学者ですら解明出来ていないのなら、全員で悩んでいても答えなど出ないでしょうね。
『精霊の住処など誰も知らないそうです。』
『じゃあヒロトについてく。』
『…は?』
『だってヒロト良い匂いする。女神様みたい。』
『有り得ませんね。…というよりも迷惑なので他に行って下さい。』
『酷いーっ!』
精霊は《女神の加護》がある事を感じ取れるのでしょうか。
程々には使えますが信頼出来ない代物ですし、あの女神は嫌いです。言葉が通じているのに話を聞かない輩は嫌いなのです。
精霊とは女神の子供とも言われているらしいので、女神の気配に懐き易いのでしょうか。迷惑な話なのですが…。
『魔力をくれないとフルールたち精霊は死んじゃう。置いて行かれたら死んじゃうよ。』
『それは…、…災難でしたね。』
『優しくしてよぉっ!』
『……あ。彼と居たらどうですか?貴女を閉じ込めた輩と接触しているかも知れませんし。』
『…魔力は強いけど…なんか偉そうなチビなんだもん。』
『貴女もチビですが。』
『いーっぱい生きてるもんっ。強いんだよっ。』
サイズの話を強さや年齢に置き換える辺り中身も幼そうですね。
しかし適当に話していましたが名案です。この少年に押し付ければ良いじゃないですか。元々彼の持ち物だった筒からフルール殿は出て来たのですから。
『手掛かりは彼だけですよ。』
『むぅ…。』
フルール殿は渋々といった表情で彼に近付きました。部下の方々がお頭を殺さないでくれと叫んでいましたが、フルール殿はお構いなしに少年の額に模様を描いていきます。これが魔法陣というものでしょうか。魔法を持続させる為や強化する為に用いるものだとシオドア殿に聞いた覚えがあります。
魔法陣を完成させたフルール殿はそこに魔力を注ぎ込んでいました。その直後から二人が会話を出来るようになったのです。精霊と会話が出来るのではなく、フルール殿と会話する事が出来るようになっただけのようですがそれでも十分でしょう。
少年はラウという虎の半獣なのだそうです。虎にしては小柄過ぎでは…。
ディーが人間の国に亡命すると聞いて阻止すべく雇われたのだそうです。村長と一緒に来たディーがそれを否定しました。
亡命ではなく助力を得る為に王都に向かっているのだそうです。
ディーの父である国王が病に因って引退間近である為に、次の国王を選ぶのに手間取っているのだとか。本来であればディーが継ぐのだそうですが、強い者が継ぐべきだという者たちと対立してしまったとのこと。
そこまでならば国内で話し合うべき内容ですが、国が二分され始めた頃合いから魔族が魔物を率いて現れるようになったのだそうです。国内で争っている場合ではないと協力しながらも、一度亀裂の入った者たちでは上手く統率が取れず人間に助けを求めようという事になったとか。
しかしここでも問題があり、半獣を嫌う人間が助けてくれる筈はないと諦めてしまう者たち、半獣を嫌っている人間に頼りたくないと反対する者たち、人間であっても手を取り合えば魔族を追い払えると考える者たち…グレオノール王国は更に分裂してしまったのだそうです。
ラウは魔族を追い払えるなら人間に力を借りるのも一つの手段と思っているそうですが、王子であるディーが国を捨てて逃げるのならば連れ帰るべきだと感じて今回の依頼を受けたとのこと。
ただ、ディーは国を捨てるつもりなどないと言い切っています。
「国民に認められるかどうかは私の腕次第だが、今は王子としての責務を果たすつもりでいる。逃げると感じさせてしまった事は申し訳ないが、セレスタに向かう邪魔はさせない。」
「それを聞いて邪魔をしたりしねぇよ。寧ろ賛同するぜ、王子様。」
「ふむ、それは嬉しいが…動けぬだろう、それでは。」
「気持ちの問題だわっ!」




