52話
昼食を終えて屋敷を出る事になったのですが、今回のお礼にと馬車を借りる事が出来ました。
組合で報酬を受け取る手続きや出立の支度をしている間に、門の辺りに待機させておいて下さるとのこと。
依頼は完了という事で報酬も頂けて、昼食も頂けて、馬車も貸して頂けて。…頑張った甲斐があったというもの。ディーは昼間の祭りも見て行きたいと言っていましたが、メヒテルト殿たちが先に到着してしまうかも知れない上にまたディーが襲われてもいけないので先を急ぐことになりました。
また機会があったらと姉上はお約束しておられましたが、あんなでもディーは王子様とやらです。社交辞令でしょうね。…きっとそうです。
「お疲れ様でした。ではこちらが報酬になります。サーシャ様、これで降級にはなりませんが、一年間何のお仕事も達成して頂けないと降級してしまいますのでお気を付けください。」
「はーい、すみません。」
組合の受付で報酬を受け取りました。違約金が発生しない事と寝床を確保出来る事から選んだ依頼だったのですが、思いの外高額の報酬だったようです。姉上は札を取り出して何やら魔力を注いでいらっしゃる。
何をしていらっしゃるのか聞いてみたところ、受付嬢殿にも驚かれてしまいました。誰もが知っている事なのでしょうか?
「冒険者登録はされていないのですか?」
「ヒロトは万年、木等級なの。【雑務】以外の依頼を受けないから。」
「あぁなるほど。それでは知らないのも無理はありません。鉄等級以上からのご利用になりますので。」
受付嬢殿は説明用の札を取り出して幾らかの銅貨と共にカウンターに並べて下さいました。
小生だけではなくディーも興味深そうに背伸びをしています。…王子も冒険者登録が出来るのでしょうか。
鉄等級以上になると札を銀行の代わりのように利用出来るのだそうです。
道具や武器、衣類などは収納魔法を使える方なら魔力量に応じて収納出来るとは聞いています。金銭も同じように収納しておられるのだと思っていました。
収納魔法は押し入れやロッカーのようなもので、収納には申し分ないのだそうですが金銭を入れてもまとまってはくれないのだそうです。押し入れに小銭を複数回に分けて入れてもまとまったりせず、ジャラジャラしたままですもんね。
専用の袋を用意して金銭をしまい、その袋を出し入れする事でならまとめられるそうですが金額が多くなればなる程その出し入れが面倒になってくるとのこと。
その為に、特別な魔法が施された札を財布代わりに使うのだそうです。
札は本人の魔力でしか反応しませんし、同じ等級の方が魔力を注いでその方の情報が浮かんだとしても本人以外では金銭の出し入れは出来ないのだとか。
また、銅貨が何枚で銀貨が何枚、といった具合に枚数まで分かる仕様らしいです。
「なるほど。亡くなられた場合はどうなるのです?遺品として情報が浮かんだまま消えないのでご家族の元にお返しすると聞いたのですが、金銭はご家族にお渡し出来るので?」
「基本的には出来ません。本当の家族ではない方が家族と偽って受け取る事も出来てしまいますし、金銭目的の殺害も多発してしまう恐れがありますので。」
「では亡くなられた方の財産はそのまま無くなってしまう、という事なのですね。」
「いいえ、一度組合に持って来て頂いた際に取り出します。組合で調査した上でご家族へとお送りしております。身寄りの無い方の場合は運営資金として役立てさせて頂いておりますが。」
組合に届けてくれた人に対しての報酬もその中から出させて貰っている、と受付嬢殿は仰います。何だか上手く回っているようで組合にとっての利益が高いような気がしますが…。
ディーが、冒険者登録をすれば財布を持ち歩かなくて良くなるのは便利そうだと言っていましたが…財布なんて元から持ち歩いていないでしょうに。
受付嬢殿の分かり易い説明に礼を言って門へと向かいました。支度は特に必要ないのだそうです。
此処から王都までの道を少し逸れたところに小さな村があり、そこからなら姉上の移動魔法で帰る事が出来るとのこと。村までは大した距離ではない上に馬車でなら時間もそれ程掛からない事から旅支度は不要なのだそうです。
ガリアで調達した馬を売って門へと向かいました。あの美しい声の馬と離れてしまうのは残念な気がしますが、連れて行くというのも難しいですかね。
会える確証はありませんが、いずれお会いできたらとお話出来ただけでも良かったと思いましょうか。
門に到着すると馬車の脇にいた男性に礼をされました。御者の方なのでしょう、姉上と行き先についての話をしています。
カランという村に向かうのだそうです。なんでも以前姉上が受けた依頼で訪れたのだそうです。
【運搬】の依頼だったそうで、荷物を王都から運んだ為に移動魔法の使用条件に当て嵌まったとのこと。
漸くクロッドに帰る事が出来るのですね。母上にお会いするのも久し振りです。
「ヒロト、行くよー。」
「はい、ただいま。」
馬車に乗り込むと小さいだとか狭いだとか言いながらディーが視線を巡らせています。
ディーにとっては何でも珍しいのでしょうね。ですが姉上の隣を占拠しているのは許し難い。おかげで小生はフレッド殿の隣になってしまったではないですか。
フレッド殿は時折小生と姉上を見比べていますが何かあったのでしょうか。まぁ、面倒なので聞いたりはしませんがね。
「きゃあっ!」
馬車が出発して街道から村に向けての山道に入った頃合いに大きく揺れました。
その揺れでディーが小生の方へと飛んできたので反射的に捕まえ、隣では姉上がフレッド殿に倒れ込んでいました。アクランド殿が下手な御者でも手配したのかと思ったのですが、怯えた声で逃げて下さいと聞こえて来たので姉上とフレッド殿は直ぐに馬車を降りていきました。
面倒事は御免ですが姉上が怪我でもしないようディーを残してお二人が降りた方とは逆の扉から小生も馬車を降ります。
馬車の前には数名のお客さんがいらっしゃいました。馬車に乗りたいのでしょうか、全員乗れるような大きな馬車ではないのですがねぇ。
「獣の王子を連れているだろう。…渡して貰おうか。」




