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50話


「ヒロト、どう?もう居ない?」


「姉上…無茶をし過ぎです…。」


「ねぇ、もう居ない?って聞いてるの。」


「居ませんよ。姉上が真っ二つにしてしまいましたら消えました。」


「良かった。じゃあ戻ろうか。」



そう言って笑う姉上は何時もの姉上でした。

後から聞いたのですが、姉上は武器の中で槍が一番得意なだけだそうで他の武器もある程度使いこなせるのだとか。先程の剣には光属性の浄化作用が付加されているのだそうです。道具に魔法を施して本来の道具以上に使えるようにした物があるのだとも聞きました。

迷宮などに入った際、霊的な魔物を斬る為に作って貰ったのだそうです。だからあんなに綺麗に斬れたのですね。お見事でした。



「姉上、幽霊は怖くなくなりましたか?」


「無理、怖い。」


「斬ってしまわれたではないですか。」


「ヒロトの魔法は見えてたからね。居る場所が分かってて、斬れるなら怖くないけど…見えないとか無理、怖い。」


「……違いが分かりません…。」


「でもヒロト、魔法使えるようになったんだね。どうして?」


「あ…、それは…。」


「それは?」


「ヒミツです。」



リゼンたちの話をするには小生が猫である事を先にお話してからにしたい、そう思っていたので今はお答えしない方向で。

でも適当な事をお話しても納得して下さらないと思ったので秘密だという動作を含めて誤魔化してみました。何故か生意気だと軽く叩かれました。…姉上は理不尽です。






怨霊も消えたのでゆっくりと戻る事にしました。繋がれていた女性を姉上が背負って下さったので、小生は道案内をしました。姉上の魔法で明かりを確保しても多少入り組んでいたので、小生が先導して来た道を戻りました。逃げ込んだ際、姉上は暗くて道順が分からなかったそうですから。


奥方の部屋に向かっている間、周囲を見回してみましたが幽霊殿の姿はありませんでした。姉上に斬られて消えてしまったのでしょう。それとも姉上の武器に付加された効果で浄化されたのでしょうか。

どちらにせよこれで姉上が怖がることもなくなってふかふかのベッドを放棄する心配が無くなったと思って良いでしょう。

早くあのふかふかベッドを堪能しに戻りましょう。



「あ。サーシャ、ヒロト君。どうだった?…あ、…その子…。」


「この子に水とスープでも貰えないかな?」


「直ぐにご用意致しましょう。」



姉上の言葉に応えて下さったのは執事殿でした。アクランド殿は拘束されたままで項垂れておられました。彼の傍に生きていないメイドの姿はありませんでした。生霊だからなのかあまりにも普通の人間に見えてしまって、暫く本物のメイドだと思っていました。暗い表情ではありましたが彷徨(さまよ)う幽霊殿たちとは違って視えていましたので。


姉上が背負っていた女性をフレッド殿が引き受けて抱えて下さいました。そのまま休ませるとのことでしたが、小生は一先ず姉上とフレッド殿に報告しました。あちこちに居た幽霊殿たちは集合体となって襲ってきた事、それを姉上が倒して下さった事、アクランド殿に寄り添っていたメイドは先程の女性が飛ばした生霊である事。(にわ)かには信じ難い話でしょうが姉上が信じて下さるなら小生はそれで構いません。



「そんな事が…。怪我はなかった?大丈夫?」


「えぇ、フレッド殿が気付いて下さればもっと早く解決したでしょうに。姉上の言う通り使えない方ですね。」


「えー…、それは酷くない?」


「そうだよ、ヒロト。フレッドが来たって私と一緒で視えないから居ても居なくても変わらなかったよ。」


「うん、サーシャ?姉弟揃って酷いからね?」



フレッド殿が抱える女性を使用人の方々は知らないと仰っていました。アクランド殿もゆるりと顔を上げて確認しましたが知らないと仰る。まぁ今の状況でアクランド殿の言葉を信じる者は殆ど居ないのでしょうけど。



「ぁ…た、すけ…て…。」


「起きた?大丈夫?誰も貴女を傷付けたりしないから安心して?今ベッドと食事を用意するね。」


「領主様が…、…皆を殺す、の…、私も…。」


「大丈夫。もう手出しをさせないから、ね?私が守る。それにほら、領主様は拘束してあるから貴女を襲ったりしないわ。」


「領主様…、…ど、こ…?」


「……え?」



フレッド殿に抱えられた女性が意識を取り戻したので姉上が優しく声を掛けて下さっていました。ですが目の前に居るアクランド殿が見えていない様子。盲目という訳では無さそうですが、怯えた様子で領主を探しておられます。



「アクランド様が今の領主で、この屋敷の主人だよ。ほら、あの人。」


「あの人…領主様じゃ、ない…。領主様、もっと肥えて…て、何時も鞭を、持ってる…、私たち叩く為…。」


「……以前の領主は小太りの男だった。そいつはもうこの屋敷には居ない。今は私がこの地の領主だ。」


「…、…もう、殺されるかもって…怯えなくて…、良い…?」


「重罪人を処刑場に送る事はあるが、無闇に傷付けたりはしない。」


「……良か…ったぁ…。」



アクランド殿の言葉を聞いた女性は安堵したように微笑んでそのままフレッド殿の腕の中で眠ってしまわれました。

以前の領主がやった事だろうと察した姉上がアクランド殿の拘束を解いて差し上げています。アクランド殿の容疑が完全に晴れた訳では無さそうですが一先ずは解決という事にしても良いでしょうかね。



落ち着いたら小生も眠くなってきました。ふと足元へ視線を向けるとふわふわとした塊がありました。怖くて羊になったまま眠ってしまっただろうディーでしょう。

白くて丸くてふかふかした姿を見ているともう我慢出来ません。姉上も無事ですし、後はフレッド殿にお任せしましょう。小生は頑張り過ぎました。もう、限界です。



「じゃあフレッド、この子をベッドに運んで……ヒロトっ!?」


「ヒロト君!?」


「ふぎゃっ!」


「ちょっと、大丈夫!?ヒロト、ヒロトってば!」



操り人形の糸が切れるが如く小生はディーの身体に倒れ込みました。もう立っていられる力など残っていなかったのです。

シオドア殿が仰るように小生の魔力は垂れ流しの源泉だったとしても、あんなに集中したら疲労が溜まります。こんなに疲れたのは何時以来でしょうか…。

指一本でも動かす事が億劫(おっくう)で姉上が呼んでいる声に応えることが出来ません。姉上の声が段々と小さくなっていくような気がしながら小生の意識は途絶えました。

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