49話
入り組んだ道を進み、姉上は方向がずれるとその都度先を示して下さいました。魔力の反応からかなり弱っていると感じるそうですが、辿り着いた場所には女性が居ました。姉上が魔法で明かりを灯して下さいましたが、女性の周囲に散乱する骨の量に姉上は驚いていらっしゃいました。
「な、なにこれ…、もしかして…。」
「恐らく、幽霊殿たちの亡骸でしょう。…姉上、そちらの方は会話が出来ますでしょうか?」
「うん…、…意識が無いみたい。息はしてるみたいだけど、こんなに痩せて…。」
壁に取り付けられた拘束具で腕を拘束され、薄着のまま骨と皮だけになった女性が居ました。
痩せ細っていて判断が難しいですが、恐らくこの女性が先程見た生霊です。
アクランド殿の横に寄り添っていたので使用人の一人かと思いました。でも俯いたままで一言も発しなかったのです。それどころか他の方には見えていないかのように誰も彼女に話を振ったりしなかったのです。
生きている人間が怖い、それはこういった芸当も時にしてしまうからです。無論、生霊を飛ばすなんて事が無くても生きている人間が一番怖いと思いますがね。
奥方はアクランド殿を恐れていたのではなく、この女性の生霊を恐れていたのでしょう。人間にも視える人は居ると聞きますから、此方の世界の方が視えたとしても不思議はありません。
今は推測でしかありませんが、奥方がアクランド殿の帰宅後直ぐに部屋に逃げ込むのはこの生霊に出会いたくなかったから。昼間も部屋を滅多に出なかったのは屋敷を動き回る幽霊殿たちに出会いたくなかったから。…そんな気がします。
ご本人に確認してみないと真偽は定かではないのですがね。
「治癒魔法は利いたけど…、衰弱した身体を治す事は出来ないから何か口にさせないと…。」
「姉上、そんな余裕は無さそうです。…しつこいと嫌われますよ?小生はしつこく触る子供が大嫌いでした。」
「ヒロト…っ、また…、また何か居るの?」
「…困りましたね…。」
小生など戦力にはならないでしょう。ですが姉上が怯えている上に見えないのでしたら、アレと姉上の相性はこの上なく悪い。
どうにか抑える方法は無いかと必死に考えた結果、リゼンの魔法を思い出しました。光の球体に魔物を閉じ込めたあの魔法。小生に出来るかは分かりませんが…。
『死ネ…、……返セ…、私ノ身体…、私ノ人生。』
『…小生に言われても困ります。』
『返セ…、…お前モ、私と同ジく…、死んデしまエェェェェェェ!!』
『お断りです…にゃっ!』
姉上と小生を道連れに殺そうという悪意が牙を剥きました。シオドア殿の言葉が蘇ります。
「良いか、クロガネ。魔法ってのは想像力と集中だ。そして、出来ると思い込む事。絶対に出来ると思い込め。自分を騙せ。頭の命令は絶対だからな、頭で出来ると思い込めば身体はやってくれる。……ま、それなりの能力も必要だけどなー。」
小生に魔法は使えません、それは事実です。でも今だけは使えるのだと信じてみましょう。こんな醜いモノに殺されるのは御免ですし、姉上を目の前で殺されるなんて耐え難い。
リゼンと同じではなくて良い、アレを閉じ込める檻を作れると…信じます。
『なンだ…!?動ケ…な、イ…っ、何ヲし、タぁッ!』
『大人しくしていて下さいね?』
「ヒロト…、何あの丸いの…。ヒロトが作ったの?」
「姉上…、怖いでしょうが聞いて下さい。あの中に怨霊…幽霊の集合体を閉じ込めました。」
「ふえ…っ!?幽霊の集合体!?」
言わずにおいた方が良いかとも思ったのですが、小生が発現出来た光る球体は姉上も目視出来ているようでしたので一応お耳に入れておこうかと。案の定怯えてしまいましが…。
リゼンのようにあの球体の中で仕留められたら良いのですが、先程から想像してみても上手く出来ません。魔力の使い方…もっと真面目に聞いておけば良かったです。
中で暴れているのを押さえ込む為に小生はずっと集中しております。気を抜くとあの球体を壊されてしまうと感じますので。…魔法って、面倒ですね。
狩りの時に使った槍や爪はもっと簡単でしたのに…。
「姉上…、集中していないと壊されそうです。その方を連れて逃げて下さいませんか…?」
「え、待って。集中してないといけないって事は…、ヒロトはどうするのよ。」
「姉上が逃げるのを確認したら追い掛けます。小生の足の速さはご存知でしょう?」
「知ってるけど…、私がアンタを置いて逃げると思ってるの?」
「思えませんねぇ。でも、アレが視えない姉上では戦えない…でしょう?」
姉上はぐっと言葉を飲んだのでしょう。背中で小さく息を飲むような音を聞きました。
姉上にも意識を向けている為にちょっと…、否、かなり疲れます。早く逃げて下さればこんなところ直ぐに立ち去る事が出来ますのに…。
「た……て、……さ、……で…。」
「え…?」
「お目覚めのようで何より。味方、とは断言出来ませんが敵ではありません。貴女を殺すつもりなどありませんのでご安心を。」
「ヒロト、聞こえたの?」
「えぇ、助けて殺さないでと仰っていますよ。姉上…、早く逃げて下さいませんか?本当に、もう…疲れてきました。」
「……、…分かった。その中に、居るのね?」
「はい、今なら横を抜ける事も出来ます。」
「ヒロト、もう少しそのままで居て。」
「心得ております。………姉上ぇ!?」
小生は姉上に逃げるようお伝えした筈。始めは此方の言葉を理解出来ずに居ましたが今は読み書きが出来ます。…伝わらなかったのでしょうか…。
小生の集中が切れてしまう前に逃げて欲しいとお伝えした姉上は、小生の横を抜けて下さったので逃げてくれると思ったのです。ですが、姉上に託した女性は連れておらず、それどころか剣を手に光る球体に向かって行きました。
「そこに居ると分かってるなら、斬れる!」
「ちょ…っ、姉上…待…っ!!」
床を蹴って跳び上がった姉上は何やら根性論のような言葉を吐いて振り被りました。小生の制止など聞こえていないかのように光る球体目掛けてその剣を振り下ろします。
ガラスが割れるような音が響いて球体が割れていくのと同時に、中に拘束していた怨霊も綺麗に真っ二つになりました。…姉上には見えていないのでしょうが。




