45話
眠くなってしまったディーと護衛の為のフレッド殿が客室で待機する事になりました。
小生は姉上と共に情報収集です。…小生も子供らしく眠くなってしまったと言えば良かった…。
「……なんか、久々だね。」
「…?何がでしょう?」
「もう、こうして二人になるのがって事!相変わらず鈍いんだから。」
「…そう、ですね。フレッド殿は空気としても、ディーがずっと姉上にくっ付いていやがりましたからね。」
「空気…、あははっ、そうかも。ディーは寂しいんじゃないかな?王子様なんて大変だと思うし。」
「小生も寂しかったんですが?」
「じゃあ今日は甘やかしてあげようかな。」
「是非お願いします。」
祭りの音が遠くで聞こえますが静かな屋敷の中を姉上と二人で歩き回ります。
出会う使用人に話を聞いてそれなりに調査するのですが、結果は先程聞いた話と大きな違いなどありませんでした。
この屋敷に居る使用人たちはアクランド殿に仕えていて、主人の移住と共に移ってきたのだそうです。
結婚したばかりで仲睦まじいご夫婦だと皆さん口を揃えて仰います。アクランド殿も貴族らしくない程に気さくで人柄の良い方だとか。
妻にだけ見せる狂暴性があるかも知れないと推理を披露して下さるメイド殿も居ましたが、結局のところ誰も奥方が引き籠った理由を知りませんでした。
他にも…以前はアクランド殿のご両親と共に住んでいたそうなので、二人になってから本性が露になったのかも知れないですとか、アクランド殿が浮気をしていて愛人を囲っている事への不満が募ったですとか、アクランド殿は本当はとんでもないマザコンでお母様と離れた寂しさを奥方に求めて嫌気がさした…なんて色々な憶測は聞きました。
どれも信憑性に欠けるような口振りでしたので真偽の程は定かではありませんが。
「うーん、やっぱり直接奥さんに話を聞きたいよね。」
「姉上、飽きたので部屋に戻りませんか?」
「飽きた…だと?」
「あ、眠くなったので。」
「飽きっぽいのは変わらないのね。…ふふっ、ヒロトは小さい時からずっとヒロトだね。」
「はぁ…、小生は小生ですが。」
「…まぁ、別の世界で生きていた記憶があるんだから、中身は10歳じゃないって事なんだろうけど…。ちょっと安心する。一年近くも離れてて…性格とか色々変わってたら…って、ちょっと不安だったんだ。」
「……身長は少し伸びました。」
「中身の話っ。…ねぇ、本当はクロガネって言うの?」
姉上の質問に即答が出来ませんでした。大抵の事に関しては直ぐにお答えしますし、分からない事は分からないとお答えします。空気を読んで黙る事はあっても答えを探す事はありませんでした。
ですが、その話を此処でするのは…。
「…話したくない?お姉ちゃんにも…?」
姉上は常に「私」と自分の事を指しますが、時折こうして「お姉ちゃん」と言います。
自覚があるかは分かりませんが、小生が此方に生まれる前の話をした時ですとか此方では教わっていない事柄を話す時などに使います。小生の姉だと自分に言い聞かせているようにも聞こえます。
こういう時、姉上は……あぁほら、とても寂しそうな不安気な表情になるのです。
「話したくないのではありません。ただ…、母上にも聞いて頂きたいので、帰ってからでも宜しいですか?」
「…うん…。」
「小生も少し、不安なのです。お話する事で姉上や母上のお気持ちが変わってしまうのではないかと。」
「そんな事…っ。」
「無い、とは言い切れないと思いますよ?小生は血を分けた弟ではありませんし、祭壇から生まれた得体の知れない生き物ですから。」
「…っ!…なんて事言うの!そんな風に思ってたの?殴るよ!?」
「……殴ってから言わないで下さい…。」
姉上の拳が腹部に突き刺さりました。先程の焼き鳥が口から出てしまうかと思いました…。
本当の事をお話しただけでしたが姉上を泣かせてしまいました。とんだ失態です。
以前の飼い主もその前の方も、小生を飼って下さっていた家族は愛していました。今も大切に思っていますし、大好きです。
でも今は姉上と母上が一番大切なのです。
その大切な姉上を泣かせてしまうなんて…。小生は姉上の顔をそっと両手で包んで、頬や目元を必死に舐めました。この涙を止める方法を他に知らないのです。今は言葉を話せますが、なんとお詫びして良いか分からないのです。
「っく、ぅ…、ヒロト…それ、女の子にしちゃダメなやつだからね?」
「……泣き止んでくれますか?」
「ヒロトでもそんな顔するんだね。…あ、でも顔とか舐めるのはダメだよ?」
「でも…。」
「もう…、アンタが泣きそうな顔しないでよ。泣かされたのは私なんだよ?」
「すみません…。」
必死で舐めていたら姉上は困ったように笑って下さいました。
姉上からくしゃくしゃと頭を撫でて貰いました。姉上は自分の腕で涙を拭って、自分で頬をパチンと叩きました。…姉上こそ相変わらず男らしいです。
「よし、ごめん。私も泣くとは思わなかった。ヒロトが悪いんだけどね?」
「面目ない…。」
「…確かに転生者って得体が知れないし、強さとか知識とか人間離れしてて怖いなって思った事ある。でも世界を救う勇者様にそんな事言ったら女神様から天罰が下るぞ、なんて大人に言われたりもする。…とはいえ、ハッキリ言って怖いと思ってる。」
「姉上…。」
「でも半獣も半人も人間も…魔族だって種族は違うけど会話が出来るなら、意思の疎通が可能なら友達になれる人は居るかも知れないでしょ?私は転生者も種族の一つって思う事にしたの。良い人も悪い人も居るのはどの種族も同じ。…だって、ヒロトの事は大好きだもの。」
「小生も、姉上が大好きです。」
「えへへ…、可愛いんだからっ。」
「うぐ…っ、姉上、加減というものを覚えて頂きたい…。」
抱き締めて下さるのは嬉しいですが、姉上の力は強いので苦しいです…。
やっぱり、こんな風に思って下さっている姉上にはちゃんとお話しておきたい。母上にも。
それで出て行けと言われるのなら、仕方がありません。何一つ隠さずにお話した上で、お二人に決めて頂こうと思います。
「帰ったら、ちゃんと聞かせてね?」
「必ずや。」
「…話を聞いて怖くなっちゃう事があるかも知れないけど、大好きって気持ちは嘘じゃないからね?」
「どう思われても、小生は生涯姉上と母上を愛しますよ。」
「はい、女タラシ発言頂きましたー。」
「は?そんなつもりは…。」
「これだから天然女タラシって言うのよ。将来が心配だわー。」
「きゃあああああああああああああ!!」
「何っ!?」
「ディーの悲鳴です。」
静寂を切り裂くような悲鳴はディーのものです。姉上には本当にディーなのか問われましたが、小生の耳は遠くの音も拾えるんです。間違いありませんよ。




