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44話

まだ明日も続くらしい祭りはもう陽も傾いているというのに騒がしいです。

ディーは珍しそうにキョロキョロと視線を巡らせています。そんなにあちこちを見ていてはぶつかるでしょうに…。

少し後方を歩いているから気付いたのですが、ディーが誰かとぶつかりそうになると然り気無くフレッド殿が庇って下さっています。

屋台や柱にぶつかりそうになると、姉上が手を引いて避け易いように誘導して下さっています。


…やっぱり小生の姉上に懐き過ぎではありませんか…?



「凄いな、色々な店が沢山外に出ているっ。」


「昼の方が賑やかだったかもね。」


「姉上、あれ!あれは何だ?私に似ているっ。」


「あれはお砂糖を溶かして糸みたいにする事でふわふわになってるお菓子だよ。…何て言うんだっけ?」


「わたあめです、姉上。」


「そうそう、それ。」



此方にもわたあめがあるのですね。…記憶のある転生者が取り入れたのかも知れませんね。


ふわふわ具合と白さ、丸っとした感じは確かにディーのように見えます。

フレッド殿が三人分を購入してきて下さいました。甘味はそれ程得意ではないのですが、折角の厚意を無下にするのも気が引けます。小生は空気の読める猫なのです。


フレッド殿は食べずにいるので小生の半分を差し出しました。満腹なのでと話すと受け取って下さいました。…全部は甘過ぎます…。



「兄弟かい?白黒で可愛いねぇ。焼き鳥買っていかないかね?」


「焼き鳥!?」


「白黒…?おぉ、私とクロガネは兄弟に見えるのかっ。」


「おや、違ったかい?でも仲が良さそうで良いねぇ。」



何故ディーは上機嫌なのでしょうか…。

小生の黒髪とディーの白髪を見て白黒兄弟だと笑う恰幅の良い女性は焼き鳥を売っていました。姉上が買って下さいましたので遠慮せず頂きました。甘辛いタレが絶妙です…っ。

他にも美味しそうな食べ物を売っている店が幾つもありましたが、昼間の方が賑わっていたそうです。今も十分騒がしいと思いますが…。



「ヒロト君、多くない?お腹大丈夫?」


「好物は幾らでも入ります。…というか、甘味類はそれ程好きではないのです。」


「あ、そうだったんだね、ごめんね。」


「いえ、今後控えて頂ければ良いです。」


「はい。……あれ…?」



折角空気を読んで食べて差し上げたというのに、聞くから答えてしまったではないですか。小生は素直なのです。

食事の後ですので、沢山買い食いをする事はありませんでしたがディーは視線を巡らせて楽しそうにしていました。あれは何だ、これは何だと姉上に問い掛けてはしゃいでいました。

…だから、小生の姉上に懐き過ぎです。


祭りの騒がしさは苦手ですが、美味しい物が頂けるのは良いと思っています。野良の時はおこぼれを頂く事もありましたし。時折人ではない者も混ざって楽しんでいたのを小生は知っています。祭り好きの方が居ると聞いていましたので驚きはしませんでしたが、騒がしい場所を好むなんて…とは思った事があります。

此方の世界にはそういった方は居ないのでしょうか?小生が分からないだけかも知れませんが。




昼に比べて幾らか減っている出店を見て回ってから郊外にあるという貴族の屋敷に向かいました。

クロッドの町に貴族の屋敷などありませんでしたので、これ程大きな屋敷は初めて見ました。ガリアにもあったのかも知れませんが、見て回る余裕などありませんでしたので分かりませんね。

大きな門を潜って屋敷の扉の前に立つと自然と扉が開きました。



「…サーシャ様ですね?話は聞いております。どうぞ此方へ。」



中から出て来た初老の男性が屋敷の奥へと案内して下さいました。

通された豪奢な部屋の中には頭を抱えている男性が一人。姉上たちが入室する音に弾かれたように顔を上げました。まだお若いと思えるのですがどうにもやつれているように感じます。


男性の前にあるソファに腰掛けましたがふかふかでそのまま寝たくなりました。小生の部屋のベッドよりもふかふかです。

心地良い触り心地にずっと触っていましたが先程の男性が紅茶を持って来て下さいました。彼は執事という職業の方だとこの部屋に来るまでに教えて頂きました。



「今夜は客室を用意しましょう。…どうか、妻を宜しくお願い致します…っ。」


「…顔を上げて下さい、アクランド様。まずは詳しいお話をお聞かせ頂けますか?」



皆さんは彼が頭を下げる姿に驚いておられました。貴族は頭を下げるのは滅多にない事なのだと姉上にこっそり教えて頂きました。

フレッド殿が先を促して下さった事で貴族の男性、アクランド殿が話を始めました。


以前この辺りの領地を治めていた貴族は大変狡猾で悪い噂が多くあれど証拠がないまま野放しにされていたそうです。つい先日漸く捕らえる事が出来、その後任としてこの方…クリフ・アクランド殿が指名されたとのこと。

この屋敷に移って来てから数日後から妻の様子が可笑しくなり、夜は部屋に引き籠って出て来ない上に中から鍵を掛けてしまっていて声を掛けても応答してくれないとのこと。

昼間、彼が仕事に出ている時は部屋から出てくる事もあるそうですが、彼が帰るとまた部屋に逃げ込んでしまうそうです。

そのことに頭を悩ませ、使用人の方たちに協力を仰いであれこれ手を尽くしてみたが変わりがない為組合(ギルド)に依頼を出したそうです。

夫婦喧嘩に冒険者を雇うだなんて流石(さすが)貴族…小生たち庶民とは思考回路が異なるようですね。



この屋敷は以前の領主が使っていたままだという事ですが、建て替える費用も掛かる上にそちらに金銭を使うくらいなら領民の為に使いたいと建て替えの予定もないそうです。

華美な調度品を時折売って、領地内の整備に宛てているとか。なかなかの傑物らしい事を執事殿が説明して下さいました。

使用人たちも初めはただの夫婦喧嘩だと思って対応していたのだそうですが、妻の様子を見るとどうにもただの夫婦喧嘩に見えないのだそうです。明らかに夫に怯えているようだと。



「失礼を承知で奥様に危害を加えた事があるかと聞いてもみたのですが…。」


「そんな事する訳が無いだろうっ。私は彼女を愛しているんだっ。傷付けたりなんてしないっ。」


「…失礼ながら、言葉だけではどうとでも言えるのでは…?」


「はい、私共もそう考えて奥様の入浴中にお身体を見るようメイドに言い付けておきましたが、以前と変わらずお美しい肌だったと…。」


「言葉での暴力とか…。」


「私の言葉で妻が傷付いたと…っ!?…だがそれも他の連中に聞かれた。気付かない内に傷付けてしまったというのは否定出来ないが…。」



何度か冒険者が訪れたそうですが、皆話を聞くと帰ってしまったそうです。

違約金も発生しないのであればこんな依頼、受けたくもないのでしょう。ですが小生たちは今、寝床を確保したいので少し夫婦喧嘩に付き合う事になりました。

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