34話
捕縛した闖入者は呼び付けたこの街の騎士に任せて、兵士殿たちが部屋の片付けをして下さいました。戦力にならなかった事とディーの姿を他人に見せたくない、という理由から。
ディーの姿は何時の間にか羊に変わっていました。
これ以上巻き込まれるのは遠慮願いたいので深く聞くつもりは無かったのですが、メヒテルト殿とディーから説明して頂きました。…必要無いとお伝えした筈ですのに…。
ディーの本当の名はディーデリック。
半獣の国であるグレオノール王国の王子なのだそうです。
…それは何処ですか…、どんな国ですか…。他国の知識のない小生に国名だけ教えて頂いても…。
「そうですか、高貴な血筋という事なのですね。……では、小生はこの辺りで…。」
「私を置いて行くのかっ!?」
「…は?……えぇ、袖振り合うも他生の縁とは言いますが、小生にはクロッドに帰るという目的がございます。ディーとは此処で出会った縁こそあれど、目的が同じでもないですし…置いて行くという表現は違っているような気がしますが…。」
「う…、ソデ…?…こ、怖かったんだぞ!何でお前はそんな涼しい顔をしているんだっ!」
「…はぁ、魔物に比べたらあのような手合い…怖いともなんとも。」
「まも、魔物…っ!?」
ディーは更に小さく丸くなった身体をメヒテルト殿の身体に押し付けて怯えてしまいました。
ぷるぷると震えている姿は毛玉です。テレビで見た羊はもう少し汚れていたように思うのですが、王子だから毛並みも綺麗にしているのでしょうか…真っ白です。ディーの髪が白いのは体毛が白いから…という事になるのでしょうね。
小生の自慢の毛並みは無くなってしまいましたが、黒い髪として多少残っています。手触りは悪くないですが姉上の方がさらさらとしていますし、猫の時の方がつやつやでした…。
それと同じかと思っておきます。
「クロガネ、本当に大丈夫?無理はしなくて良いの。怖がらせてごめんなさい。」
「あ、いえ。本当に何ともありません。アイスを途中で駄目にされた事には怒っていますけど。」
メヒテルト殿は心配して下さいましたが本当に恐怖など欠片も感じていません。魔物が真っ直ぐ向かって来る恐怖に比べたら…あの程度。
…あ、巻き込まれるのが怖いからもう離れます…そう言えば良かったですかね。
「ふふっ、強いんだね、クロガネは。…王子、人が集まる前にヒトの姿になれますか?」
「う…っ、…まだ無理だ…。」
ふとした疑問が生まれたので半獣について問い掛けてみました。
リゼンに聞いた通り半獣は獣の姿にも人の姿にもなれる種族の総称で、知能も身体能力も高いのだそうですが個体差はあるとのこと。
獣の姿こそが本当の姿であるそうで、感情が昂ったり瀕死の重傷を負うと獣の姿になるのだそうです。今のディーは怖くて仕方がなかった、という事なのでしょう。
感情が落ち着いたり、怪我が快方に向かえばまた人の姿を取ることが出来るそうですが…骨格が全く違う姿にどうしてなれるのでしょうか?
それも全て魔法なるものの成せる業だそうです。
半獣という種族は能力が高い為に幾つもの言語を操り魔法までも扱えるのでただの獣とは一線を画すのだとか。獣の姿でも十分に生きていく事は出来るものの人間の多く住むこの大陸で生きていくには人間の姿を取る事が大切だと悟ったらしいです。獣の姿では食料や害獣として狩られてしまう事が相次いで起こった為だそうです。
人間に合わせて生きていくのは大変な事だと思います。小生も、車に慣れるのは大変でした。馬や牛で移動していた時とは危険度が違いましたからね。
それにしても此方の世界は何でもかんでも魔法、魔法と…。もっと自分の力で生きていけないのでしょうか。…魔法も力の一つではあるのでしょうが…、そんな奇跡みたいな力ばかり行使して、使えなくなったらこの世界の人たちは滅んでしまうのは無いかと心配になります。
小生が最後に生活していた時代の科学のようなものだと感じます。
「…なるほど。変化の魔法とでも言いましょうか…、それは誰でも使えるので?」
「さぁ、他の種族で使っている人は見た事が無いけれど…。半獣で使えないって場合も稀にあるわ。」
「小生にも使えますかね?」
「魔法に関しては詳しくないけど、詳しい人なら何か知っているかも知れないわ。…変化がしたいの?」
「出来たら良いな、と。」
メヒテルト殿は何故か微笑ましい表情をしました。はて、可笑しい事でも言ったのでしょうか?
猫に変化出来るのであれば以前のように自由に動けるような気がしたのです。猫に変化して戻れなくなったと言えば勇者だ何だと担ぎ上げられる事も無いかも知れない、という打算もあります。
それに猫の姿ならミュー殿を口説くチャンスも少しは…っ!
「本当に、面白い子。クロガネさえ良かったら、本当に王子の友人になって貰えない?…半獣が嫌ではないなら…。」
「半獣かどうかは気にしません。ですが身分の高い方と友人になると色々面倒そうなのでお断りします。」
「この流れで断るのかお前は!もう私は友人と思っているからな!いずれクロッドにも押しかけてやるんだからな!」
「…それは遠慮願いたい…。」
「必ず行ってやる!ご家族にも挨拶してやるぞ!」
「どんな脅しですか、それは…。」
そんなに興奮したら羊から戻れないのではないですか?
メヒテルト殿も困ったように笑っていらっしゃる。片付けを終えたらしい兵士殿たちもディーを宥めてはいますが相変わらず羊のまま震えています。
このまま出て行くのも手だとは思うのですが、牛乳と多少のアイスのお礼はしておきましょうか。
ディーをもふもふと撫でてあげる事にしました。思ったよりもふわふわでもこもこしていて気持ち良いですね。
「おい、無礼だぞクロガネ。」
「身分は関係ないと仰ったのはディーですよ。」
「友人になってくれないと言ったのはお前だっ。」
「……なりますよ。これで満足ですか、王子サマ。」
「お前は王子って呼ぶなっ。」
「面倒なお人だ。」
「面倒とか言うなぁっ!」
「はいはい、興奮していたら戻らないのでしょう?落ち着きましょう、ディー。」
メヒテルト殿の身体に顔を埋めてしまったディーの背中を撫でました。これはなかなか良い触り心地です。枕にしたい…。
ディーが落ち着くまではと思いつつディーの毛皮の感触を楽しんでいると階段を駆け上がって来るような足音が聞こえました。また襲撃者でも来たのかと構えましたが、扉を開いた人物は襲撃者などではありませんでした。
「ヒロト!!」




