33話
闖入者は二人。どちらもフードを目深に被っていて口元も布で隠しています。
顔を見られたくないという事なのでしょうが、食事中に入って来るとは躾がなっていない人たちです。ご両親のお顔を拝見したい心地ですよ。
「クロガネ、逃げなさいっ!」
メヒテルト殿の声が聞こえましたが何処に逃げろと…?
窓は闖入者が、入り口は兵士殿たちが固めているではありませんか。
彼等はディーを狙っている、という事が確信に変わります。小生の方が距離が近いというのにディーの方にしか視線が向いていないのですから。しかし不思議な目をしておられる。小生のように夜目が利くというのであれば特に驚く事ではないのすが、目元だけ何やら光っているように見えます。光が目を覆っているような…。
「貴方たち、一体誰に頼まれてこんなことを…っ!」
メヒテルト殿の言葉は彼等に届きません。彼等は黙ったまま距離を測って襲い掛かるタイミングを見ている様子。メヒテルト殿はしかと彼等を見据えているのに対して兵士殿たちの視線はあちこちに向いています。何処を見ているのかと呆れてしまいましたが、夜目が利かない姉上を思い出しました。暗い場所で何かを探す時、きょろきょろとあちこちを見回している姿を。
兵士殿たちに闖入者の姿は見えていない、という事はディーを守れるのは実質メヒテルト殿だけ。それに引き換え、闖入者にはこの部屋の中が見えている様子。力の差を量る技量などありませんのでどちらが有利なのかは分かりませんが、状況としてはディーを守りながら一人で戦う事になるだろうメヒテルト殿の方が不利に感じます。
加勢する方が良いのでしょうが生憎小生は戦えません。魔物を狩るのですらシオドア殿が居てくれたからどうにかなっただけです。戦力にならない小生が動く方が状況を悪化させるだろうと事の成り行きを見守る事にしました。
兵士殿たちはディーを囲うように立ってはいますが、隙が多過ぎます。メヒテルト殿もそれを承知しているのか闖入者からの剣を防ぐだけで攻勢には出られないご様子。
彼等の意識を他に向ける事が出来れば彼女が攻撃する隙を作れそうではあるのですが、小生が動けば闖入者だけではなく彼女の意識も此方に向けてしまうかも知れません。それでは意味がないです。
今も時折小生を気にして下さっていますし、完全にお荷物です。
かといって今更窓から出て行くというのも難しい。闖入者がディーを攫うつもりなのか殺すつもりなのかまでは分かりませんが、メヒテルト殿を制する事に重きを置き始めた事は理解しました。その状況で小生が動けばメヒテルト殿の隙を作ってしまうかも知れません。
兵士殿たちが動ければ良いのですが…。
「下…っ!!」
大人しくしている事を決め込みましたが、メヒテルト殿の視線が一人の剣に向いた時もう一人が死角から切り上げるのが見えました。思わず叫んでしまいましたが彼女は直ぐに反応して下さり、闖入者の攻撃を防ぐことが出来たようです。
「……ガキ…、怯えていれば命だけは取らずおいてやろうと思っていたのに…。」
「クロガネ、逃げなさい!早く!」
メヒテルト殿に防がれて体勢を崩していた闖入者がゆらりと立ち上がりながら小生に向き直りました。もう一人は変わらすメヒテルト殿に攻撃を仕掛けていて、彼女は身動きが取れそうにありません。
さて、弱りました。《女神の加護》なるものが上手く発動して下さると良いのですが…、…と、信用出来ない物に縋るのはいけませんね。
闖入者の一人が此方に剣を振り下ろしてきます。完全に矛先が此方に向いてしまったようです。
メヒテルト殿と対峙している時はもっと速いと思ったのですが、どうやら二人の連携が成せる技だったようです。彼の攻撃はとてもゆっくりに見えますので、避けるのは容易でした。
部屋の中でなけでばもっと上手く避ける事が出来るのですが、いかんせん狭い。
「メヒテルト殿、目元を覆う光に覚えはありませんか!?」
「光…?」
「…っ、このガキ…っ!」
この狭い空間で逃げ続けるのには限界があります。鬼ババアの時のように二人だけの部屋ですら困難でしたのに、今はそれ以上の人物が此処に居ます。
小生が窓から逃げ出したとしてこの闖入者が追って来ないという確証もありません。
打破するには何かきっかけが欲しいと思いましたが、小生は此方の知識に未だ疎い。メヒテルト殿なら分かるかも知れないと思い、攻撃を避けながら問い掛けてみました。
闖入者の慌て方から知られたくない事のようだと理解出来ます。あとはメヒテルト殿の知識に賭けるしか…。
「…そうか。……照らせ、火柱!」
「…ぐっ!」
メヒテルト殿は闖入者の攻撃を防ぎながら短い詠唱で火柱を出現させました。
攻撃に使用するのではなく部屋の中を明るくしただけでしたが、闖入者二人は目を押さえて床に転がってしまいました。
メヒテルト殿はすかさず一人を押さえ込んで縛り上げ、小生の方の一人も直ぐに捕縛して下さいました。
目元の光は身体強化の魔法で、夜目が利かない者が利くようにするものだったそうです。
その為、暗いところで部屋を照らす大きな光を見て光量の調整が間に合わなかったのでしょう。小生は猫の時より優れているようなので何ともありませんでしたよ。
「クロガネ、有難う。助かった。…君は夜目が利くのね。」
「メヒテルト殿も見えていらしたようですが…。」
「私は…、半獣だから。夜には強いのよ。」
「そうでしたか。」
「……驚かないの?半獣を嫌う人間も多いのに…。」
「何故でしょう?…話には聞いた事がある、そんな程度の知識しかありませんが嫌う要素があるとは思えませんが。」
不思議に思って問い返したところメヒテルト殿は笑いました。何故笑われたのかよく分かりませんが、笑える余裕があるようで良かったです。
怪我をされていないのだと察する事が出来ましたから。




