22話
花鳥の味が忘れられません…。
歯応えがあるのに柔らかくて、噛むとじわりと味が染み出る…堪らない味でした。リアム殿が料理上手だということもありますが、あんな鳥肉は初めて味わいました。
あの日からもう数ヵ月程経っているのに、未だに思い出すと涎が出てきます。
「おいバカ猫、間抜け面晒してねぇでちゃんと集中しやがれ。」
「飽きました。」
「よし、歯ぁ食い縛れ。」
「お兄ちゃんっ。直ぐ手を上げないでくれる?無詠唱のやり方教わってるのは私たちなんだから。」
あの日の夕食後、シオドア殿に問い詰められましたが小生にも分からない事を説明する事は出来ませんので竜と会話出来た理由はお話出来ませんでした。
此方に来る前は同じ猫としか会話は出来なかったですし、人間の言葉を理解するまでに随分と掛かりました。人間の言葉を理解したとしても会話にはなりませんでした。「ごはん」や「おはよう」も飼い主とその家族くらいにしか通じず、時々ご飯を世話になった程度の人間には猫が鳴いているようにしか聞こえていなかったようでしたし。
此方に来てから猫以外と会話が出来る事に驚きましたが、人間の言葉は覚えるのに苦労しました。未だに理解出来ない単語が出てきます。魔族の言葉は分からないままですし、他の国の言語も理解出来ないかも知れません。
竜と会話出来た事を驚くシオドア殿は魔族の言葉を話せます。小生からすればその方がビックリですとお話したら、何故か納得して頂けたご様子。
得手不得手がある、そんな程度で理解して下さったのだと思っておきます。
今は魔法のお勉強中です。
家の近くにある開けた場所で得意な属性を伸ばす特訓をしています。…といっても、小生がお経…、呪文を使わずに魔法を発動した為に開かれた面倒なお勉強会です。
そもそも呪文を知らないのに口に出来る訳がないじゃないですか、と話したらシオドア殿に頬を伸ばされました。あれは痛かった…。
「クロガネ、もう一回教えて?どうしたら魔法を使えたの?」
「……鳥肉を求めていたら何時の間にか…。」
「説明になってねぇっての!」
「…鳥肉を手に入れる、そう思ったんだな?その後は何を思い浮かべた?」
「姉上が使っていた槍です。姉上は槍の扱いが上手いのですが、魔法でも槍を作り出していまして。それを悪漢に投げ付けたのを思い出しました。姉上の槍なら届く、そう思いました。」
「つまりは想像力…。そうか、…こういうことか。」
リゼンは小生の言葉で何か理解してくれたらしく、呪文を口にせず手元に光を集めて幾つもの光の球を出現させました。
手を中心に浮遊する光の球を維持したままリゼンは周囲に視線を巡らせます。小生もその視線の先を追って見えたのは、以前シオドア殿と狩りに出た際に見たものより大きな夢猪が数匹。思わず逃げる体勢に入ってしまいますが、リゼンの持っていた光の球が夢猪に向かい包み込むように大きく広がった事に驚いて思わず見入ってしまいました。
数匹の夢猪は光の球の中で暴れていますが綺麗な球体が崩れる事は無く、此方までゆるりと浮遊したまま移動してきました。
「リゼン凄い、なにそれ…。」
「捕獲をイメージしてみた。…意外と出来るものだな。」
「そりゃお前だけだわ。」
球体が崩れる事は無いといっても近くで暴れる夢猪を見ているのは怖いです。小生は反射的に近くの木の枝まで飛び上がりました。
リゼンが軽く手を上げると夢猪を包んだ球体も少し浮上し、球体は維持されたまま内部に向かって槍のような光が伸び夢猪の首を貫きました。複数同時に出来るものなのですね。
「…慣れるまで時間が掛かりそうだな。」
「それだけ無詠唱でやってのける癖に何言ってやがる。」
「捕獲して、仕留める。……斬った方が速いだろうが。」
「あー…、そうだな。」
夢猪が仕留められたのを確認して木から降り、リアム殿に問い掛けてみました。無詠唱で魔法を扱う事は難しいのかという事を。
あっさりと難しいと答えられました。以前シオドア殿に聞いたような内容を説明して頂きましたが、興味が無いので覚えられません。呪文を用いて魔法を使うのが一般的だという事だけ理解しました。
呪文を使わないという事は補助無しで魔法を発動させるという事で、想像力なるものが大切なのだとか。
転生者はその想像力が豊かなので新しい魔法を作り出したり、無詠唱で扱う事も容易らしいとのことですが一般的にはとても困難な事だそうです。
「小生も転生者だから扱えたのでしょうか?」
「そうかも。けどクロガネは猫だからなぁ。想像とか上手く出来ないんじゃない?それが出来たって事はクロガネは特別凄い猫って事だね。」
「リアム殿、褒めて下さるなら撫でて頂きたい。」
「あはは、それは失礼致しました。おいで?」
基本的に動物や魔物は思考が食事・睡眠・繁殖・縄張り…単純なもので出来ている為に魔法を扱えないと聞きました。小生もその通りです。食事と睡眠が何より大切です。
人間として生まれたからなのか魔法なるものを少し使えました。…あれ以来発動出来ないんですけどね。
それでもリアム殿が褒めて下さったので良しとしましょう。何より、特別凄い猫という響きは最高に嬉しいと感じました。
座っているリアム殿が膝を叩いて誘って下さったのでお言葉に甘えてその膝に顎と手を乗せるように丸くなりました。夏雪程ではありませんがリアム殿の膝も柔らかくて心地良いです。
くしゃくしゃと撫でてくれる手も心地良くて襲われる睡魔に身を委ねる事にしました。抗う必要性を感じません。睡魔には身を委ねるのが一番です。
リアム殿に撫でて貰いながらその柔らかな膝で寝る事にしましょう。頬や耳の裏なんかも撫でてくれると嬉しいのですが…、今はこのままでも心地良いので贅沢は言わないでおきます。
「リゼン、妬かねぇの?」
「…猫に?」
「この前妬いたじゃねぇか。」
「あれはリアムが悪い。リアムがクロガネを雄と認識するなら阻止する…が、あれは猫を可愛がっているだけだろ。」
「……いや、見た目的には年下の男を甘やかしてるって感じだが?」
「猫だろ。」
「そうか、お前の目には猫にしか見えてねぇんだったな…。」




