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プロローグ

世界から色が奪われた夜だった。


後に『黄昏の檻』と呼ばれることになる、かつてない規模のエネルギー実験。空には雷鳴ではなく、断末魔のような黒い閃光が走り、大地は震え、人々の営みは一瞬にして灰燼に帰した。


幼いクロエは、倒壊した家の瓦礫の下で震えていた。

視界の端に映るのは、母と父の背中。彼らは幼い娘を庇うようにして、その身を異形へと変えつつあった。実験の影響で歪んだエーテルが、彼らの魂を肉体から引き剥がし、飢えた獣のような形へと変貌させていく。


「……行け、クロエ。……生きろ……」


父の最後の言葉は、人間のものとしてはあまりに掠れ、異形の咆哮へと溶けて消えた。

クロエが最後に見たのは、愛した両親が、得体の知れない黒い霧の塊となって、暗闇の中へと消えていく光景だった。


その夜、彼女は二つのものを心に刻んだ。

一つは、世界を歪めた実験への耐え難い憎悪。

そしてもう一つは、闇の中で彼女を見守るように漂っていた、紅蓮の霧の気配――。


遥か遠く、黄昏の塔の最上階で、一人の男がただ冷ややかにその光景を眺めていた。

シン。

彼はすでに、この崩壊の始まりを見ていた。これから始まる永劫の戦いも、失われたはずの愛しい魂が、数奇な運命を経て再び自分の前へ戻ってくることも。


「……始まったな」


男の呟きは、誰にも届くことなく空虚な霧の中に消えた。

復讐の鐘は、まだ鳴り響いていない。

これは、愛と呪いが交差する、数千年にわたる邂逅の序章に過ぎなかった。

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