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あたしのパパは高校二年生  作者: 聖場陸
魔法探偵シャルエッテ編
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第12話 捜査開始

「魔法探偵リリカル・シャルエッテ、捜査・開始ですぅ!」


 ラフな服装へと元に戻ったシャルエッテは、玄関を出た後にリリカル・ドイルの決めポーズを取るも、白鐘以外誰もいない玄関先では反応をしてくれる人もなく、ただ虚しく風が吹き抜けていくだけだった。


「ふえぇ……やっぱりあの衣装じゃないと締まらないですぅ……」


「チラッ、てこっち見てもダメだから」


 白鐘は呆れ顔のまま、先をスタスタと歩いてしまう。


「ふえぇ!? 冗談ですってばぁ! 置いてかないでくださあい!」


 シャルエッテもリリカル・ドイルの衣装での捜査は諦め、涙目で慌てて白鐘の隣りへと並んだ。


「それで? どうやって夕紀ちゃんたちを探し出すの?」


「そうですね……子供たちは路地裏で消えているとのことですし、ひとまずはこの町の路地裏を手当たり次第に調べてみましょう。私はこの町に来てからまだ日が浅いので、案内をお願いしてもいいですか?」


「うん、任せて」


 そう言うと、白鐘はシャルエッテに町の地理の説明を入れつつ、手近な路地からしらみつぶしに回り始めていく。


 住宅地や雑居ビルなどが建ち並ぶ城山市は、路地に当たる場所もかなり多く、それらを回るだけでもかなりの時間を要した。都内とはいえ端の方に位置するためか、建物の数に対して道歩く人の数はそれほど多くはない。日曜であることも相まってか、いつも以上に道は閑散としていた。季節は初夏に入り、日差しは少しばかり強まってはいるものの、路地の日陰にあたる場所は涼しく、心地のいい風が身体を通り抜けていく。


「……ねえ、シャルちゃん。昨日、『路地裏の魔女』って言葉に引っ掛かりがあるって言ってたけど、あれは結局どういうことだったの?」


 一時間以上歩いても手がかりになるものは見つからず、白鐘は途中にあった自販機のスポーツドリンクで水分補給しつつ、何か話す話題はないかと、昨夜抱いた疑問をシャルエッテに尋ねる。


 シャルエッテは合わせて買ってもらったミルクティーに口を付けつつ、彼女の疑問に答えていく。


「シロガネさんは、自然魔力マナについてはご存知でしたっけ?」


「ええ、叔母さまから少しだけ話は聞いたわ。たしか、空気中に漂ってる魔力で、これが濃いほど魔法が強くなるんだっけ?」


「そうです。そして人間界では薄いはずのこのマナがどうしてか、この町にはとても濃く流れているのです。おそらくは、この町のどこかにあるとされる魔女の宝玉(レーヴァテイン)の影響による可能性が高いと推測されていて、そのせいでこの町には魔法使いが多く潜んでいるとされています。そんな町で、わざわざ『魔女』という名が噂として流れている事が、とても偶然だとは思えないのです……」


 自らの推理を語るシャルエッテの表情は、普段の彼女とは別人のように真剣そのものであった。


「それに犯人が魔法使いならば、子供たちをさらうこともそれほど難しくはないでしょう。自身と子供にステルス魔法をかければ、他人に見られる事なく子供を連れ去ることは可能ですし、幻覚魔法や幻聴魔法などを使えば、子供を路地裏に引き込むことも容易にできます。……もちろん、人間による犯行の線も捨てきれませんが……」


 っと、ここまで言ったところで白鐘の方に視線を向けると、彼女は感心したような表情でシャルエッテを見つめていた。


「……あー、ごめんね。シャルちゃんがそこまで考えてたなんて思ってなかったから、ちょっと感心しちゃって。でもすごいよ……。あたしなんて、どうやって夕紀ちゃんたちを見つけるかなんて、全然思いつかなかったし……」


「いっ、いえいえ! 私の推理なんて、何の根拠もない憶測から来ていますし、これが見当違いの可能性なんて十分ありえるわけで……」


「……ふふ、それを確かめるために、こうして回っているんでしょ?」


 穏やかな笑みを見せる白鐘に、シャルエッテは未だ自信を持てなかった自分の推理を後押しされたように感じられ、心強さを得ることができた。


「……もし、犯人が魔法使いならば、魔力を使用した痕跡が見つかるかもしれません。可能性は薄いと思いますが……」


「それでも、それがあたしたちにできることならやってみよう?」


 二人は互いに頷き合い、飲みきったペットボトルをゴミ箱に捨てて、捜査の続きを再開する。


   ○


 白鐘たちはあの後もいくつかの路地を調べるも、手がかりとなるようなものは未だ見つけられずじまいであった。朝から始めた捜索は大した成果を上げられずに、時刻も昼食時を過ぎてしまった。


 二人は駅前の商店街に入り、ファーストフード店で軽い食事を済ませた後、今度は商店街の路地を調べていく。


「この商店街の路地って、河川敷に通じる道以外にもけっこうあるのですね」


「商店街もそうだけど、城山市は都内でも人口が少ないわりに建物が多いからね。そのせいで、ここみたいに入り組んだ道がいっぱいあったりするのよ。もう、ちょっとした迷路ね。昔は工業が盛んで人もいっぱいいたらしいけど、不況やらで工場がどんどん廃棄されてからは、何人かは都心の方に移り住んじゃったみたいだし……」


 白鐘も父から話を聞いただけだが、彼が本当の意味で若かった頃はこの町も活気付いていたらしいが、商店街を抜ければ人も車も数える程度にしかすれ違わない町並みを見慣れていると、なかなかその光景は想像が難しいものであった。


「……それにしても、なぜ犯人は『路地裏の魔女』などと呼ばれているのでしょうね?」


 一つ目の路地は収穫なしと判断し、来た道を戻りながらシャルエッテはポツリと呟いた。


「噂を流している子供の誰かが付けたんじゃないかな? それか、犯人自身がそう名乗ったとか?」


「……う~ん、多分犯人が自ら名乗ったという線はないと思うのですよ。犯人が魔法使いならば、わざわざ魔女と名乗って境界警察に目を付けられるような事態は避けたいはずですし……何より、『魔女』という単語は、我々魔法使いにとっては特別な意味合いがあるのです」


「特別な意味合い?」


 白鐘が首を傾げながら疑問符を頭に浮かべていると、シャルエッテは一度頷いてから詳しく説明を始める。


「魔女とは――我々魔法使いにとって、ある種の称号のようなものなのです。他の魔法使いとは比べ物にならないほどに、圧倒的で強大な魔力を保有し、独自の魔法理論の極地にたどり着けた者のみが、尊敬と畏怖を込めて『魔女』と呼ばれるのです」


 魔女という言葉によほどの重みがあるのか、語るシャルエッテの口調もどこか重苦しさが感じられる。


「……魔法界における、魔法使いの総人口は数百万人と言われていますが、その中でも魔女と呼ばれる者たちは現在、たったの五人しかいません。……その中に、『路地裏の魔女』と呼ばれる魔法使いはいないですね」


 白鐘にとっては何のこともない、ありがちな都市伝説の名前程度にしか思っていなかったが、昨日からシャルエッテがこの呼び名に引っ掛かりを覚えていたのは、魔女という言葉の重みを知っている故であった。


「もし……犯人が魔法使いだとしたら、この名が広まる事はむしろ恐れるはずなのですよ。境界警察には狙われやすくなりますし、メリットになるような事なんて特にあるとは思えません……」


「それじゃあ……やっぱり犯人は人間?」


「……もしくは、境界警察をも恐れぬ、自分の実力に絶対の自信を持つ魔法使い、のどちらかですかね……」


 話しながら二人は改めて、自分たちが追っている存在の不気味さに怖気おぞけを覚えた。人間にしろ魔法使いにしろ、相手は子供たちを次々とさらう凶悪犯だ。話せば子供を返してくれるなんて都合のいい夢などもちろん見てはいなかったが、それでも犯人が見知った少女を連れ去ったという事実への怒りが先走り、その牙が自身たちにも当然向けられる事までは深く考えていなかった。


「……だっ、大丈夫です! 力不足かもしれませんが、何があっても、シロガネさんだけは必ず守ってみせます……!」


 その恐怖を無理やり振り払うように、シャルエッテは大声をあげて白鐘をまっすぐに見つめる。


「っ……」


 グッと握っていたシャルエッテの両手がわずかに震えてるのに気づき、白鐘もまた、まっすぐに彼女を見つめ返す。


「シャルちゃん……あたしたちの目的は、子供たちがどこにいるのかを突き止めること。可能なら、子供たちを助けること。犯人探しはあくまで二の次。……犯人がわかったら、こちらから手は出さずに、警察か境界警察に連絡を入れること」


 白鐘にももちろん不安はあったが、それでも冷静に何が自分たちにできることかを考え、シャルエッテに伝える。


「……夕紀ちゃんたちをさらった犯人はもちろん許せないけど、それを倒すのはあたしたちの領分じゃないと思う……。だから……あたしたちはできることをできるまでやりましょ、シャルちゃん……!」


 路地を抜け、光が射した白鐘の強い決意の表情に、シャルエッテも不安げだった心を引き締めることができた。


「わかりました……! 絶対に、ユキちゃんさんたちを見つけ出しま――」


 ――次の路地に足を踏み入れた瞬間、二人は先程までとは明らかに違う寒気を感じ取った。


「…………」


 他と同じ路地裏にも関わらず、そこだけはまるで別世界のように、感じ取れる温度の低さも、暗闇の濃度も明らかに違っていた。


「シャルちゃん……ここは何か感じ取れる……?」


「……いえ、今のところは。ただ……ここだけ明らかに嫌な感じがします」


 その路地裏は入る事を拒むかのように、空間そのものに妙な圧が感じられた。


 後ろを振り向くと、商店街を行き来する人は何人かいたが、その誰もが彼女たちを見ていなかった。当然といえば当然ではあるのだが、それでも、まるで彼女たちだけが誰にも見えていないかのような感覚に陥ってしまう。


 まるで、この路地裏を境界線に、世界が分かたれたかのようだ。


 ――それでも、二人はここを調べないわけにはいかなかった。


「……シロガネさん。何があっても、私があなたを守ります。だから――」


「――ええ。……進みましょ、シャルちゃん」


 二人は一度唾を飲み込んで顔を見合わせた後、意を決して路地裏の闇の中へと一歩、足を踏み込んだ。

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