第二章16話 『それぞれの思惑』
日没によって開戦初日の戦闘は終了した。各国首脳陣は情報収集と今後の方針や行動をどうするかの会議に追われていた。中国では国家主席を含めた上位階層少数が集まり、作戦を考えていた。
「上海が落とされた今、長江を防衛ラインとして日本の北上進軍を断固阻止すべきです。」
「北と南の両側から攻めて上海を奪還するというのは。」
「南は日本海軍が睨みを利かせてる。そもそも、アメリカが日本に核ミサイルを撃ったのではなかったのか!」
「情報によると、そのミサイルは日本上陸にて完全に消滅してしまったとのことだ。これは魔法によるものに違いない。魔法使いが日本にいる限り、日本は落とせんぞ。」
「それだ!我々にだって魔法使いはいる。魔法使いを前線に送り込むのだ。それにすべての兵士が魔法を使えるようになるのも時間の問題だ。」
「しかし、相手も魔法使いを投入してきたら、戦況は変わらないのでは?」
「それに、相手には怪物がいます。今日の襲撃だってその怪物によるものだと考えられる。それが出てきたら、こっちは全滅間違いなしだ。」
「それについては今のところ大丈夫だ。情報によると育成施設の生徒が深手を負わせたと言う。」
「ならば、魔法使いたちによる上海奪還作戦は決まりだな。どうでしょう主席殿。」
今まで黙って資料を見つめていた雷孔明は部下たちに尋ねられてようやく口を開いた。
「上海についてはそれで構わない。だが日本はまだ諦めはしないだろう。沖縄の米軍基地が落とされたと聞く。ここが南の拠点となっていることは間違いないだろう。上海より南側にある基地から沖縄を制圧する。同時に上海も奪還する。それから、日本の九州を攻める。遠距離攻撃ができないのであれば攻めるしかあるまい。こちらには兵士が山ほどいる。対して日本の兵力は私らの足元にも及ばないだろう。数で押すのだ。太平洋側はアメリカが攻めるだろうが、奴らの海軍は力が知れない。アメリカが戸惑っているあいだに日本を中国のものにしてしまおう。アジアの覇者は我々中国だ。」
その言葉に拍手があがり、その日の作戦会議は幕を閉じた。
アメリカでも緊急会議が行われていた。
「もはや核兵器など無意味ではないか。これでは世界の軍事支配が崩れてしまう。」
「時代は後戻りしてしまったのか。魔法部隊とやもできたしな。」
「核兵器が無くともアメリカの軍事力は世界一だ。何も心配することはない。ただ手間が増えたと思えばいいんだ。」
「まずは本土を攻撃されないようするのだ。ドイツの奇襲などもう御免、海上封鎖をするのだ。」
意見が飛び交うなかラザフォード大統領が発言する。
「そうだな。イギリスとフランスに要請してドイツをユーラシア大陸に封じ込めよう。」
「では日本に対しては?」
「遠距離がダメなら近距離から集中攻撃だ。」
「核兵器を艦上発射するのですか?」
「ああそうだ。」
「これ以上核兵器を使用すると各国からの批判が・・・。」
「すでに一発撃ってしまったのだ。変わりやしない。日本は学習をしない国だ。先の大戦において原爆の恐ろしさを知ったと思ったのだが。」
「しかし、日本にはその核兵器を消滅させる魔法使いがいます。」
「それはたった一人だろう。一人で複数のものをどうにかできるとは思えない。太平洋艦隊に伝えてくれ。日本本土には近づくなと。ミサイル発射艦は太平洋圏の各地から出動、こちらからの指示で発射だ。」
「分かりました。そのように手配しておきます。」
「必ずアメリカが勝つ。以上解散。」
ドイツでは、アメリカの出方はわかりきっていた。それは2度の大戦の敗北を経て、ドイツの敵は多く存在するということがわかった。しかし、今回はそうはいかない。過去の失敗を糧に学習し、前々から準備を進めていた。例え、イギリスとフランスが阻むものとなろうが変わらない。そのキーとなるのが魔法なのだ。魔法はジョーカーとして機能し、すべての関係を掻き乱す。そして今回は無駄な人種差別による虐殺は行わない。ドイツ国民すべてが仲間である。逆を言えば、ドイツ国民以外は敵なのだ。ドイツという国の野心が再び露呈してくる。
そして、日本は計画に沿って行動をしていた。唯一のミスとしては神城結衣が負傷して帰還したこと。ターゲットの一つである魔法育成施設の魔法使いたちを一人も倒すことができなかったことだった。だがしかし、このことを首相の源原鳥海や参謀総長の有賀秀徳は結衣を責めなかった。むしろ、よくやってくれたと褒めたのである。そして、一日の休暇を結衣はもらった。源原総理は台湾の総統と韓国の大統領、北朝鮮の総書記と連絡をとり、共闘を望んだ。台湾からは即答をもらったが、朝鮮半島はまだ判断に迷っていた。ひとまず台湾が参戦してくれることで日本は計画を変更することなく進めることができる。源原総理は台湾総統に明日の作戦について話した。突然の出撃であるが、総統はこの日のために日々訓練をして参ったと賛同していた。