第二章9話 『Verstarken(フェアシュテルケン)』
休息日が終わり、アンは対策を考えてきたらしい。その対策とやらに期待して私と葵は対峙した。
「「「アクティベーション!」」」
戦闘が始まった。すぐにアンは何かを描き始める。
「Beschleunigung[加速せよ!]」
描いた文字を自分に寄せて自身に魔法をかける。
「Gravitation verstarken[重力強化]!」
今度はかなり速く描き終えて、それを私たちに放った。それは私たちに当たる前に消え、私たちはすぐに押しつぶされるような感覚に襲われた。
「これはなかなか・・・でも、フロート!」
自分を軽くすれば怖くない。葵もフロートをかけ応じた。さらに私が先行して加速し、アンを攻撃しに入る。
「Degen[剣]!」
アンは急いで剣を出し、攻撃を受け止めた。そしてさらに左手で文字を描く。
「Kette[鎖]!」
アンの左手から水の鎖が放たれ、私の右腕を縛った。その鎖を使って私の腕を避けて懐に飛び込んできた。やられる、と思ったけど、突然足元から水が噴き出してアンとの間に壁を作った。アンの剣はその水の壁の勢いで混ざり合い、アンは剣を失った。すぐにまた剣を出すと思った。しかし、アンはそうせずにターゲットを私から葵にシフトしたようだった。
「Draht[ワイヤー]!」
今度は聖水でできたワイヤーを使って葵のもとへ一気に近づく。葵は魔法と鞭で応戦する。アンはそれらを避けて、文字を素早く描く。
「lahmen[麻痺せよ]!」
その文字が葵に当たり、葵は動きを止めた。でも、私はその隙を見逃さない。背後からアンを襲う。アンはワイヤーを上手く使って攻撃から逃げた。
「Wasser[水]!」
そしてそのワイヤーの水と合わせて水を噴射してきた。
「こんなの水遊びじゃないんだから、ホットエレメント!」
単純な炎の魔法でその水を蒸発させた。もちろん私の魔力あっての成せることだが。
「アン!もっととっておきな技はないの?」
「ありますけど、やってもいいんですか?」
「いいよ、危険だったら私たちが止めるから。」
何を躊躇ったのかアンはまだ策を残しておいたようだった。アンは文字を描く。
「kaltmachen!」
その文字が向かってくる瞬間、私はさっきまでとは違う恐怖を感じた。予測魔法ではあれに絶対当たってはいけないと判断している。それを
当然避けたが、アンは距離を詰めてまた同じ文字を放ってきた。避けるのが無理なら剣で払ってしまえばいいのでは、とそう思ってその文字をなぎ払った。でも、それはアウトだった。途端に心臓を何者かに掴まれているかのような感覚に陥り、呼吸が苦しくなり、吐血もした。
「アン、あの文字は、どういう、意味?」
途切れ途切れに質問する。
「日本語で『殺す』ていう意味です。」
「じゃあ今すぐ魔力を閉じて。」
「分かりました。」
すると、魔法の効果がきれて、呼吸が楽になる。アンは魔力展開のときに何かの武器を持たないため戦闘態勢になっているのか分かりにくい。そして、この魔法はかなり危ない。私だったから良かったけど他の人だったらとっくに死んでた。いや、私にとっては呪いでもあった。アンは暗殺とかに向いてるのかもしれない。
「ねえアン、とりあえずさっきみたいなのは最後の最後の自分が死にそうでピンチなときだけ使うようにしてね。」
「はい。それで他に何かありますか?」
「最初に自分を速くさせるのはいいと思う。その後の重力変化はあまり意味がないということはわかったよね。物を使ってやりくりするのはいいと思う。戦いにもルールやマナーみたいなのがあるから、まあ戦争にはそんなものはないけれど、日本の武士みたいな侍魂的なので戦うことをしてほしいと私は思う。」
「はい。分かりました。葵はどう思いましたか?」
「うーん、後半は私、動きを封じられてたからなあ。アンちゃんはひとつの単語で一人にしかできないの?重力の時みたいにまとめて攻撃をすることはできないのかな?それができるようになるとスカッとするよ。」
「まとめて攻撃をできるように、でしゅか。」
「うん。例えば、波を出すとか、空気中の酸素を燃やすとか。」
「酸素を燃やすのは自分までやられちゃうから。でも、アン、今みたいな葵の発想も大事だと思うから考えてみて。たぶん、学力的には私よりもアンの方が上だと思うから。」
「はい。」
「じゃあ今日はこれで終わりにしよう。おつかれ。」
「バイバイ、また明日、アンちゃん、結衣ちゃん。」
「お疲れ様です、葵。」
葵が姿を消す。そして、アンは屋敷に戻り始める。私は木の下で手招きをしていた総司のところへ向かった。




