第二章3話 『和解』
説得した結果、なんとか和解することができた。そして、私も自由の身を手に入れた。その代わりに世界魔法協会に加入することになった。まさか、あれだけ対立していた協会に入る日が来ようとは。昨日の敵は今日の友とはこのことをいうのかな。住む場所、食事、服などは協会が用意した。その住む場所とは見覚えのあるところだった。確か、三番隊隊長の佐倉梅の屋敷であり、プライマリーのドイツ支部だったところだ。でも来たことはなかったはずなのになぜか懐かしかった。
「ここか。ここは俺の命令で元に戻しておいた。」
隣に出てきた山門が言う。
「ふぅ~ん。って勝手に出てこないでよね!」
「おまえが甘いからだ。俺と総司くらいならこのくらい自由に出入りできる。」
「なんで?」
「それは結衣と繋がりが深いから、俺は分かるがなんでこいつまで。」
「そ、総司!?また勝手に・・・。」
ぽんと頭の上に手を置かれて言葉が詰まる。
「それは俺とおまえが似ているからじゃないか。なんなら俺と結婚しても良かったかもな。」
「おい山門!ケンカ売ってんのか。」
二人のやり取りを見ていると確かに似ていると思った。それにこのやり取り、どこかで似たようなことがあったような・・・・・・あ、そうだ。
「アクティベーション。お願い、出てきて!」
光の中から現れたのは、三笠葵。
「結衣ちゃんに頼まれたらやるしかないよね。さあ、二人ともケンカはそこまでよ。これ以上私の結衣ちゃんを困らせたらタダじゃ置かないから。」
葵は鞭を出して、構える。
「結衣はおまえのじゃないぞ、葵!」
「俺を無視するとは見損なったぞ、総司!」
「「アクティベーション!」」
それぞれが魔法を展開した。
なんか、逆にややしいことになってしまったかな。
私も魔法を展開させて、結界を作った。この人達が暴れだしたらきっとすごいことになる。だから、建物とか破壊しないように結界を張っておいた。
「ぽつりぽつりと水が滴る、
七つの波紋が重なり、
ひとつとなる、
オキシダンビーム!」
先に魔法を唱えて発動させたのは葵だった。でも、2人はそれを簡単にかわした。
「ちょっと避けないでよね!これじゃあ、当たらないじゃない。」
「避けなきゃ危ないだろ!」
「そんなことをいっている場合か、お二人とも。」
山門が次に魔法を使った。それは近くにある植物を変化させて、操る魔法だった。そんな怪獣と化した植物たちを2人は粉砕していく。
「やはり、2人は仲がいいな。実は付き合ってるんじゃないか。」
「はあ?何言ってるの!?私には結衣ちゃんというかわいいマスコットがいるのよ!」
「結衣は俺のものだ。」
いや、私は物じゃないし、誰のものでもないし、そもそもマスコットでもないから。
「なら、俺から奪ってみろ、総司!」
「おまえなんて簡単にやってやるよ。」
そして、ここからは2人の攻防が始まった。
思わずため息が出てしまう。いろいろとツッコムべきところがあるけど、私いつからツッコミ役になったのか。
そこに葵がやってきた。
「大丈夫。結衣ちゃんは結衣ちゃんだよ。だから、結衣ちゃんは私の。ふふうん。」
なんかよくわかんないけど、葵が私の身体を自分の身体に寄せた。抱き寄せた私の匂いをかいでなごんでいる?
「また一緒にお風呂入ろうね。」
「もういいから、あの二人をなんとかして。」
ようやく私は解放された。葵は真剣な眼差しでこっちを見る。
「あのね、実はね、あれを止めるにはね…。」
え、なんでそこで止めるの?話は止めなくていいんだよ。止めたいのはあの二人だよ。
「その、言いにくいんだけど…。」
「だから何?」
我慢できずに声に出してしまった。
「ごめん、あれを止めるには、結衣ちゃんが強制的に帰らせればいいんだよ。」
「・・・・・・!」
「そうだった。忘れてた。というわけで、戻って!」
私は思い出してすぐに3人を戻し、ここから存在を消した。さてと、結界も解いて私は屋敷に入る。
屋敷の中を回って見てみると、そこは私の家を思い出させた。神城家の屋敷よりは少し小さいけれど、昔懐かしい感じがした。ヨーロッパに位置することもあって、木や石で造られていた。石窯もあったのでいつかピザを焼いて食べてみたい。とか思っているとお腹の音が鳴った。そろそろ日が暮れる頃かな。今日は協会からもらったお弁当をいただく。この屋敷には電子レンジというものがないようなので、自分の魔法で温める。けど、この作業はかなり神経を削がれる。燃やさない程度に物を温めることは難しい。結局、プラスチックの容器が溶けるのが怖くてあまり温められなかった。ちなみにメニューはスパゲティ。ここってドイツなのに、イタリア料理を食べるのかな。スパゲティの味は本場の味って感じだった。
ご飯も食べたし、日ももう沈もうというところなので、お風呂に入る。浴室には、シャワールームとジャグジーみたいな浴槽があった。綺麗に磨かれてあったけれども、お湯が張られていなかった。まず、浴槽にお湯を入れ、その間に脱衣所に戻ってタオルとかあれこれ準備した上で服を脱いだ。そして、シャワールームに入ってシャワーを浴びる。そこで髪とか身体とか洗ってそろそろいい頃だと思って、浴槽へ行く。既にお湯が浴槽から溢れ出ていて、浴室は全体的に湯気で白くなっていた。お湯を止めて、温度を手で確認してから、ゆっくり浸かる。
「ふふぁ~。なんかこういうの久しぶりだな~。しばらくはこの屋敷で待機って言われたし、どうやって過ごそうかな。」
浴槽の壁を掴んで、うつぶせにお湯に浸かりながら独り言を言ってると、突然背後から抱きつかれた。
「うわぁー!何?」
「私だよ、私と一緒にお風呂に入るって約束したじゃん。」
「そんなのしてない。してたとしても、くっつかないで!あ、ちょっとどこ触ってるの!?もうっ!」
ジタバタと抵抗を続け、なんとか葵の脅威から逃れる。
「まあまあ、そんなに警戒しないで。リラックスリラックス。」
少し落ち着いて、息をつく。葵とは顔を逸らしてあることを訊いた。
「ねえ、私が葵たちを呼んで出てくるのは本当に葵たちなの?それとも私が作っている幻なの?」
葵は黙ってしまった。葵の方をチラリとみて、口元まで浸かる。少しの間を経て葵が答えた。
「それは私には分からない。でも、私は私だと思ってる。だって結衣ちゃんのことがこんなにも好きなんだから。」
ザブーン。また葵に抱きつかれてしまった。結局最後は葵に愛でられて終わった。私がお風呂から出ると、葵は、またね、と残して消えてしまった。身体を拭いて、パジャマを着て、寝室に向かう。何室かあるうちの一部屋に入って、ベッドに潜り込む。
「別に寂しくなんかないもん。」
そう呟いてそのまま眠ってしまった。