第二章1話 『永い眠りからの目覚め』
第二章のはじまりです。
なんだろう冷たくて硬いものが顔にあたっている。そおっと目を開けてみる。だけど、何も見えない。暗い。何もものが見えない。ここはどこ?ん?手足が動かない。何?この重たいものは。鎖?ジャラジャラと音が鳴るからそうだ。てことは今、手枷足枷つけられているのか。そうか、ここは地下牢だ。そうに違いない。私は今誰かに捕まっている。そういうことなのか。まずは誰に捕まったのか、なんでそうなったのか思い出さなきゃ。しかもこんな厳重に。
感覚を頼りに身体を起こして壁に寄りかかって座る。暗闇には鎖の音だけが響いた。私はしばらく闇を見つめていた。でも、何も思い出せない。ずうっとぼーっとしてたからそのまま眠ってしまった。
何も無い。次に起きた時にそう思った。ここは何も無い。本当にここはあの私がいた世界なんだろうか。む?私がいた世界ってどんなだっけ?
疑問がいくつも浮かんできた。今の私の頭の上にははてなマークが何個も出てるだろう。
ああ、考えてるだけで頭が痛くなる。いや、考えるから痛くなるのか。でも、思い出さないと。私がどんな人なのか、ここはどういう世界なのか、なんでこうなったのか。
でも、やっぱりただ頭だけを使ってるとついつい眠くなってしまう。今回も何も思い出せないまま眠ってしまった。
落ちるような感覚に襲われて起きた。目をパチパチさせて状況を思い出す。思い出さなきゃいけないということは思い出せるのにその思い出すべき肝心なことは思い出せない。自己嫌悪に陥りそうなところに声が聞こえた。
「結衣!俺だ。今のおまえならここから出られる。思い出せ!俺の名前は総司だ。残念ながらこちらから会話をするのは限界だ。おまえはおまえを信じろ!」
それ以降は何も聞こえてこなかった。
総司?そうじ、そうじ、そうじ・・・。あっ!
そのとき、フラッシュバックが脳内で起こった。電撃をくらったような感覚に陥る。呼吸を落ち着かせて、混乱を抑える。
「そうか。私は・・・。今ならここから出られるんだね。」
全てが解決して、早速こんな嫌なところからおさらばしようと魔力を解放させた。
「ぅぅうううう、おりゃあああ〜!」
強力な魔力によって手枷足枷、ついでに気づいていなかった首輪も破壊されて身動きが自由にとれるようになった。だが、それと同時に警告音が鳴り響き始めた。
「アクティベーション!」
魔法を展開、臨戦態勢に入る。でも、その態勢になるのはあっちの方か。私は予測魔法を使い、現状況を把握。それから眠っているあいだに溜まった膨大な魔力を使って思う存分破壊を始めた。
まずは暗い部屋を明るくするために辺りに炎を灯す。すると、ここは真四角の地下牢だと分かった。しかも、最下部。ということは上にはたくさんの敵が待ち伏せている。でも今の私は負ける気がしない。このみなぎる魔力が私を奮い立たせる。階段を登り、各層で炎を使い一掃する。もう誰も私を止めることはできなかった。一気に地下牢を脱出し、地上へ出る。そこで待っていたのは軍の一部隊だった。でも、そのくらいでとまりはしない。すべてを爆破し、空を舞った。脱獄は1時間もせずに完遂した。
そのことは世界魔法協会にも知れ渡った。世界を震わせた事件から500年近く経ち、協会も変化があった。山門主導のもと、協会は民主化された。ただし、長は山門とという独裁のもとでだ。協会による弱い魔法使いたちの搾取は終わり、山門以外の魔法使いたちは平等になった。けれども、プライマリーが望んだもうひとつのこと、通常の人間社会と魔法社会の壁を無くすことはなかった。相変わらず魔法は隠され続け、影の世界にあった。山門は独裁者でありながら、魔法使いたちからは英雄となった。テロリストを倒し、化け物の結衣を捕らえ、魔法社会を民主化させたという功績は偉大であり、人々に崇められた。山門教と呼ばれる宗教団体まで現れた。信者にとっては山門はまだなお健在であると信じられている。世界の秩序を保ち、人々を救ったとされる山門に対し、世界を恐怖と混沌におとしめ、破壊をし、大勢を消した結衣を崇める者も現れていた。この2つの宗教は互いに相反しており、裏と表の関係で対立していた。表は山門教が支配し、裏は結衣教が支配していた。大多数は山門教であるが、そこにも結衣教の信者が潜り込んでいるとも言われている。結衣の脱獄を聞いて、世界は再び荒れ始めた。山門教徒は一刻も早く結衣を捕まえるべく動き始めた。一方、結衣教徒は結衣に加勢するためにひそかに集まり始めていた。現在、この世界に結衣の姿を知っている者はいない。それは結衣を知っている者達は既に亡くなってしまったということと結衣の情報には触れてはいけないという禁忌があったからということで誰も知らないのだ。また、脱獄をした結衣は出会った者を全員殺してしまっているため人物像が確認されていない。さらに防犯カメラなどを含めて破壊されているため情報は双方なかった。
脱獄した私は海を越えて日本に来ていた。日本アルプスに降り立ち、身を隠していた。以前あったプライマリー本部は無くなっていて緑が生い茂っていた。だから他に隠れるところを探し回っていたのだ。しばらくはここで魔力が回復するのを待とう。久しぶりで加減が分からず、思ったよりも使いすぎてしまった。予測魔法によると、私に援軍がくる。詳しい今の現状はその人たちから聞こう。今は休んで待つだけ。まだ本調子ってわけではないようだった。




