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エンドレス・マジカルライフ  作者: 沖田一文
〖番外編〗初等部編
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回想 初等部編Ⅲ

 それから1週間後。団子屋、色葉坂の前に一台の黒い高級車がとまった。中から見覚えのある人が出てきた。それは私の父、神城家の主だった。私は店の外に出て父に接した。

「何のよう?私はあの家には戻らない。」

「そう言うと思っていた。しかし、安心したよ。結衣が無事にいてくれて。自分の道は自分で決める。だから、何をするのも勝手だ。だから私は結衣を家に帰すってことはしない。好きにしろ。だが、いずれは戻ってきてもらう。それは我々のためではない。この家のもののためだ。いつまでもここにお世話になる訳にはいかないだろう。そこで、今日は契約を結びにきた。結衣を小学校卒業までここに置いてほしい。そのためにここに一億円準備した。どうかこれを結衣やここのために使ってほしい。これは結衣の親として、そして、神城の上に立つ者としての契約交渉だ。どうか今ここで判断願いたい。」

 すると、あんこの父は、

「この娘にここにいていいと言ったのは俺だ。だから金なんていらない。ここにいるかどうかはこの娘が決めていること。俺は何もしていない。」

「ならば結衣。おまえが決めろ。ここにいたいなら、約束を守ってもらおう。」

「約束?さっき自分のことは自分で決めるって言ったよね。私が約束をする必要はないんじゃない。」

「そうか、では私はここで失礼しよう。私がどうするのも勝手だ。この金はここに置いておく。使いたければ自由に使えばいい。それと、そこの娘と同じ学校に転校手続きをしておいた。秋からはそこに通うといい。では達者でな。」

 父はそう言って車に乗った。車はすぐに走り出し、残ったのは一億円が入ったケースだけだった。私はそれを手に取り、あんこの父に差し出した。

「あの、小学校卒業までよろしくお願いします。このお金をどうか受け取ってください。」

「いいのか、小学校卒業までで?」

「はい。父の言うことは確かです。いつまでもここにいるわけにもいきません。」

「そうか。でも、このお金は君が自分で管理して使ってくれ。そうだな、それが卒業までのお小遣いだ。」

「じゃあ、そうさせてもらいます。ですから、はい。5000万。私からのプレゼントです。」

 ケースから半分をとって渡した。

「思わず受け取ってしまった。」

「あはは。大事に使って下さいね。」

「ありがとう。子どもからこんな大金をもらうとは情けない。」

「そんなことないですよ。気にしないで下さい。」

「まあ、とりあえず俺たちは家族だ。かしこまらなくていいからな。よし、せっかくだし、あんこと一緒に買い物に行ってこい。いろいろと買い揃えなくてはならないものがあるだろう。」

「そうですね。」

「そうだね、な。というわけであんこ、1万やるから行ってこい。」

「やった。ありがとう、結衣。早速支度していこ。」

 私たちふたりは家に戻った。

「金をあげたのは俺だぞ。なんで結衣に感謝するんだ。大人の威厳ってやつが。」

 あんこの父は1人でぶつぶつ言っていた。


 そんなこんなで私はあんこと二人で楽しい夏休みを過ごした。夏休みは長くて8月の末まであった。そのあいだにあんこの友だちと会ったり、学校にいってプールで泳いだりした。だから、新学期が始まるころにはすでにみんなに馴染んでいた。あんこの小学校は普通の人たちが通う公立学校。お嬢様たちが通う私立学校とは大違い。自由だ。そして、毎日が楽しかった。あっという間に5年生が終わってしまった。6年生になってすぐに修学旅行があった。この国は小さいので修学旅行は海外に行く。そして、たいていの小学校が行く先は同じ言語、同じ通貨、この国が一番関係の深い日本だ。だいたい小学校で東京に、中学校で京都付近に行くらしい。実は神城家も日本とはかなり繋がりがある。それは大戦時以前からの関係で、この国はもとはヨーロッパの国に支配されていた。でも、そこから独立をするときに日本が支援してくれた。大戦時には中立国であったが、神城家の技術を提供したり、共同開発したりしていた。この王国は和洋折衷で、建物も古い欧米のものもあれば日本の家屋もある。そんなこともあり、私は修学旅行の東京を満喫した。もちろん、あんこと一緒に。


 修学旅行が終わった。6年生である私たちはいろいろと忙しかった。運動会、夏休みをはさんで発表会。楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまう。冬休み。私があんこの家で過ごす最後の長期休暇だ。クリスマスに年末年始を楽しんだ。そして、冬休みが明けて卒業の時が迫ってきた。3月になり、卒業式の練習が始まり、予行練習もした。そして、とうとう卒業の日がきた。

 卒業生入場で私は体育館へ入っていった。そして、そこである人を見つけた。それは私の父である。しかも、来賓席ではなく、保護者席にパイプ椅子であるそこにあんこの両親とともに座っていた。入場して早々、まだ着席すらしていないのに目が潤んだ。我慢して前に進む。入場が終了し、開式の言葉、国家斉唱と続く。そして、卒業生の点呼が始まった。

「神城結衣。」

 と自分の名前が呼ばれる。

「はい。」

 と体育館中に響き渡る声で返事をした。ちょっとほっとしているうちにあんこの番がきた。

「永倉あんこ。」

 あんこも負けずに声を出した。

 点呼が終わり、卒業証書の授与にうつる。

「代表、神城結衣。」

「はい。」

 もう一度返事をしてステージに向かう。何一つ間違いのない落ち着いた態度でこなした。それが終わると校長挨拶などの長い話が続いた。そして、在校生による送辞が終わる。

「答辞。卒業生代表、神城結衣。」

「はい。」

 そう、私はすべてにおいて卒業生の代表になった。それは先生からの推薦だけでなく、生徒たちみんなからの推薦でもあった。みんな分かっている。私は神城家の人間としてこのようなことも淡々とやっていかなくてはならないことも、頂点に立つものに相応しくなるように、私を推薦した。だから、みんなに恥じないように意地をみせた。それが終わり、校歌斉唱、閉式の言葉と卒業式は終わりを告げた。私は退場が終わるまで泣くのを我慢した。だから、すべてが終わった時、涙が溢れ出た。卒業式後の教室での行事も終わり、みんなと話しまくった。そして、みんながほとんど帰って教室に私とあんこが残るころ、私たちも教室を出て、昇降口に行った。そこにはあんこの両親と父がずっと待っていた。

「卒業おめでとう。」

 父にそう言われて嬉しかった。私たちはその日2つの家族で共に過ごした。それはとても幸せな時間。だけど、すぐに終わってしまうと思うと切なかった。

 卒業式が終わり、春休み。いよいよあんことのお別れの時がきた。その日、帰宅する準備をし、荷物をまとめた。キャリーバッグに詰め終える頃に、外に車が来て止まる音が聞こえた。私はバックを持って階段を降りる。玄関で靴を履き、外に出た。そこにはあんことあんこの両親、私の父たちが待っていた。

「結衣、ご挨拶をしなさい。」

 父が催促する。

「あんこ。お父さん、お母さん。今までお世話になりました。ありがとうございました。」

 深く頭を下げる。それは感謝を込めてということと涙を隠すためでもあった。あんこがそばに来てくれた。そして、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「元気でね。結衣のこと忘れないから。いつまでもずっと好きだから。」

「うん。」

 これだけしか答えられなかったけど、あんこは分かってくれている。

「そろそろ時間だ。」

 その声で私たちは離れた。

「じゃあね。」

「またね。」

 声をかけあってから私は車に乗った。荷物はすでに車に積まれてあり、父も乗っていた。窓をあけてみんなに手を振る。

「さよなら。」

 車は走りだした。けれども最後に叫んだ。

「じゃあねー。」

 と。あんこは

「またねー。」

 と返してきた。姿が見えなくなるまで手を振り続けた。そこからは静かに窓の外を眺めた。移りゆく車窓は時の変化を感じさせた。

 家に着いた。車を降りて家の者たちに出迎えられる。久しぶりの我が家は暖かい。けれどもやっぱり切ない。荷物は執事である青山が運び、私は自分の部屋まで行った。部屋のドアの前に立ち止まり、しばらくドアノブを眺める。それからゆっくりと手を伸ばしてドアを開けた。家を出たときとほとんど変わっていない部屋。そこに足を踏み入れる。中まで入って立ち止まる。そしてそこで私は泣いていた。車の中では我慢していたが、ついに溢れた。下を向いて何度も涙を拭う。それを見て青山は声をかける。青山の呼びかけで顔をあげると、目の前の窓からは夕陽が差し込んで黄金色に世界は輝いていた。あのとき、家を出る前のいつかに見た景色。懐かしい。ほっとする。悲しい。切ない。戻りたい。様々な感情が出て、私はまた泣き出してしまった。青山は私をベッドに座らせてなだめた。

「大丈夫ですよ。私どもがずっとそばにいます。それにきっとまた会えますよ。」

 それでもなかなか泣き止まない私を泣き止むまでずっと青山はそばにいてくれた。その日の夕食は久しぶりに父と食べた。泣きすぎて目が赤くなっていたが、父は何も言わずに私との食事を楽しんでくれた。


 そして、数週間後。春休みが終わり、中等部の編入式があった。私はそこに編入生として参加した。しかし、そこには私の好きなあんこの姿があった。

「なんでここにいるの?」

「またねって言ったじゃん。こういうことだからこれからもよろしくね、結衣。」

 にっこり笑顔を見せるあんこに私も笑顔で頷いた。

 その後の私たちは学園で新たに軽音部を設立し、新しく部室まで作ってもらって部員を集めて、活動した。部活を作るのも苦労したけれども、部員を集めるのもなかなか大変だった。集まったみんなで楽しく過ごした。しかし、神様は残酷なことをする。あの日、あの夜、私の人生は変わり果てた。罪のない人々、友だち、親友のあんこまでもこの手で殺めた。さらに、王国にいるすべての人の人生を奪い、一国を滅亡させてしまった。

 私は何をしているのだろうか。どうしたらいいのか。そして、この先どうなるのか。



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