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エンドレス・マジカルライフ  作者: 沖田一文
〖番外編〗初等部編
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回想 初等部編Ⅱ

 あれからずっと歩き続けてついに朝日が昇った。東を目指して重くなった足を進める。この国の中央にあるシンボルでもある王城が目印になる。その城の見える角度が変わればそのくらい歩いたということになる。お腹がすいた。そして何よりも疲れた。眠い。だるい。もう限界。ひどい眠気に襲われて、それに抗いつつも道端でばったりと倒れてしまった。

 そこに1人の少女が現れた。その子は倒れていた私に近づく。

「大丈夫ですか?」

 返事がない。その子は私のおでこに手を当ててみる。すると、熱かった。

「大変!熱がある。誰か~!誰かいませんか?」

 慌てて大声をあげて助けを求める。しかし、まわりには誰もいない。

「仕方ない。私の家まで連れていこう。」

 その子は私を背負って歩き出す。この蒸し暑いなか私を背負って汗をかきながらも頑張って運んでくれた。その子の家に着くと、そこはお店だった。看板には『団子屋 色葉坂』とかいてある。店のドア兼家のドアを開けて、叫んだ。

「お父さん!お母さん!大変なの!ちょっと手伝って!」

 奥からその子のお父さんがでてくる。

「んん?どうした、その子は?」

「道で倒れてたの。熱があるみたいだからうちで休ませようと思って。」

「分かったから、2階に連れて行くぞ。」

 お父さんはその子の背中から私を抱っこして階段をのぼっていった。続いてその子も。とりあえずその子の部屋のベッドに寝かせた。

「ありがとうお父さん。あとは私が自分でやるからいいよ。」

「そうか。なら最後まで責任とって看病してやれよ。治るまではここにいていいからさ。」

「うん。」

 お父さんは部屋から出ていった。

「タオルとか持ってくるね。」

 その子は寝ている私に声をかけてからものを取りに行った。桶に水を入れて持ってきて置くと、私の服を脱がし始めた。パーカーをとって、Tシャツを脱がせる。スカートも脱がせて下着だけになった。それから、タオルを絞って私の身体を丁寧に拭き始める。でも、結局ブラジャーまで外してしまい、丁寧に拭かれた。そのあいだにも私の呼吸は荒くなり、熱もどんどん上がっていった。ブラジャーをつけ、その子のパジャマを私に着せた。それから、その子は違う濡れタオルを私のおでこにのせた。そして、お布団をそおっとかぶせた。

「はやく元気になってね。」

 一声かけてから部屋を出ていった。

 その頃の私はかなり熱にやられていた。身体中が熱くて、心拍数が異常なほどに上がって息が苦しかった。

「あついっ。はぁ、はぁ。」

 まぶたは強く閉ざされたまま、眠ってうなされていた。

 お昼がすぎ、あの子が部屋を訪れる。私の様子を見にきたのだが、まだ山場は超えていないようだった。苦しそうに寝ている私をみて、その子は優しく頬をなでた。

「頑張って。きっと明日には良くなるよ。だから、頑張ってね。」

 それからその子は夕食になるまでずっとそこにいて看病をしてくれた。夜は私にベッドが使われているので床で簡単な枕と毛布でその子はその晩を過ごした。


 翌日。早朝に重たいまぶたを開けた。まだ熱は下がっていないので、視界が安定していない。

「んん。うぅ。」

 体が熱い。疲れた。心臓がどくどくとうるさい。その音、動きを感じるだけでますます鼓動が速くなる。悪循環が続いていく。力も入らず、ただただなんとかリズムを一定にしようと大きく呼吸をした。そのうちにまた眠くなって自分の鼓動をききながら再び寝入った。


 数時間後。また目を開ける。今度はちゃんと見えた。小さめのベッドと机があり、クローゼットとタンスがひとつ置かれた小さな部屋だった。窓からは太陽の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。

 ここはどこ?誰が私を助けてくれたの?

 熱も少し下がり、落ち着いてきたので仰向けから横向きへ寝返る。部屋が一望できた。体を丸める。さらに心臓が落ち着く。その音は私を安心させて、また眠っていった。


「すぅ。すぅ。」

 と眠っているところにあの子が様子を見に来た。体温計で熱を測り、タオルで汗を拭く。

「この調子だと明日には治りそうだね。おやすみ。」

 お布団をかけなおして、顔を覗いて言う。

「マぁマ・・・。んん。」

 寝言を呟いてしまった私に対して微笑んで部屋から出ていった。


 夕暮れ時、私は再び起きた。ベッドのとなりの床に女の子が座っていた。その子は笑ってあいさつをする。

「おはよう。やっと起きたね。」

 体を起こしてベッドに座る。

「えっと・・・あの・・・ありがとうございました!」

 いきなりお礼を言ってしまった。

「どういたしまして。私はあんこ。あなたは?」

「結衣。」

「そう、結衣ちゃんね。何も食べていなかったからご飯用意するね。おかゆにするけどなにか味とかおかずつける?」

 首を横に振る。

「じゃあ、ここで休んで待っててね。ちょっと時間かかっちゃうから。」

 そう言って、部屋を出て階段を元気よくおりていった。


 数分後。あんこちゃんはお盆にお粥とジュースをのせてやってきた。テーブルがないのでベッドの上に置き、あんこちゃんも座ってスプーンですくってふぅふぅをしてから私に向ける。私はそれをぱくりと食べた。

「どぉ?おいしい?これを作ったのははじめてだから。」

 うん、と頷く。

「良かった。」

 にこりと笑うあんこちゃんの笑顔は可愛かった。その後も私はあんこちゃんにアーンをしてもらってお粥を食べた。食べ終えたら、薬を渡されたのでそれを飲んだ。それから、私たちはいろいろと話した。私たちが同い年であること、私が家出してきたこと、ここは団子屋さんであることなど。そんな話をしているうちに眠くなってしまい、横になった。あんこちゃんがお布団をかけてくれて、おやすみ、といって部屋の照明を消した。私が寝るまではそばにいてくれた。だから、安心して寝ることができた。


 翌日。朝日によって私は起きた。部屋には誰もいない。しばらくそこでぼーっとしていると、階段を登ってくる足音が聞こえた。部屋のドアがあく。おはよう、と挨拶をしながら入ってきたあんこちゃんは私のおでこに自分のおでこをくっつけた。

「うん。熱は下がったね。」

 そう言っておでこを離すと、

「朝ごはんできてるから、一緒に食べよ。」

 とご飯の誘いをしてきた。

「行こう、居間で待ってるから。」

 あんこちゃんは私の手を掴んで引っ張った。

「いま?」

 言葉の意味が分からないままあんこちゃんに連れられて階段をゆっくり降りていった。たどり着いた部屋にはテーブルの上に料理が並んであった。そのテーブルには、あんこちゃんの父親と母親が座っている。わたしはあんこちゃんの隣に座った。

「おはよう。そんなにかしこまらなくてもいいよ。楽にして、自分の家のようにくつろいでいいから。」

 あんこちゃんの父親が私の様子を見て言った。

「そうだよ、正座じゃなくていいんだよ。」

 とあんこちゃんが続けていう。

「こういうお座敷では正座をするのが一般的だと習いました。」

「誰から?」

「学校です。」

「ここは学校じゃないから好きにしていい。」

「まあまあ、まずはご飯を食べよう。」

 父親をとめた母親がそう言ってご飯を勧める。

「いただきます。」

 みんなで声を揃えて言い、食べ始めた。私も遅れていただきますをして食べた。

「ところで、どこから来たんだい?」

 父親が疑問を発した。

「ええっと、東の方からです。」

「名前は?」

「結衣と申します。」

「名字は?」

「神城です。」

「神城?どこかで聞いたことあるなぁ。」

「お父さん。神城といえば、この国の有名な財閥ですよ。」

 母親が加担する。

「そっか、財閥かぁ。ってえええ。てことは財閥のお嬢様じゃないか。」

「そうだったんだ。すごいね、結衣ちゃん。」

 驚いている父とは反対にあんこちゃんは感激している。

「じゃあ見つかったらここはやばいことになるじゃないよな。」

「大丈夫です。私がなんとかしますっ。」

「ならいいんだが。うん、分かった。とりあえず気が済むまでここでゆっくりしていい。」

「え?」

「ここにいていいってさ。良かったね、結衣ちゃん。」

 あんこちゃんに助けられながら理解する。そして、ちょうどご飯を食べ終えた。

「ごちそうさまでした。」

「いいのいいの。」

 母親にいってからさらに父親にもお礼を述べる。

「ありがとうございます。この恩は必ずお返しします。」

「いいって、まあ朝の団子作りには手伝ってもらおうかな。」

「はいっ。」

 元気よく返事をした。

「これでしばらくは一緒だね。そうだ。私のことはあんこでいいから。それと敬語とか使わなくていいから。ね、結衣。」

「わ、分かった。あんこ。」

「うん。じゃあかたつけるの手伝って。」

 こうして私はあんこの家に居座ることになった。


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