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エンドレス・マジカルライフ  作者: 沖田一文
〖番外編〗初等部編
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回想 初等部編Ⅰ

 西暦2051年4月


 今日から初等部の5年生になる。そして、今日は新1年生のための入学式がある。まだ礼儀も作法もよく知らない可愛い子たちがこの学校に入ってくる。講堂には新2年生から6年生までがすでに席についている。私たちはその初々しい1年生の入場を優しく見守っていた。入場が終了し、開式の言葉が副校長先生より宣言される。それから、新入生の呼名が始まる。それが終わったら理事長と校長先生の長いお話が続く。どんなに長くても一人も寝る人がいないのはこの学校の特徴といってもいいかもしれない。それが終わると、来賓者の紹介がされる。ここは私立セントリア学園の初等部。お嬢様学校と呼ばれるここに企業のお偉いさんや国のお偉いさんたちが未来の職場のために名を売りにくる。だから、いつもこういった式典のときは来賓者がずらりと並んで座っている。彼らは小学生の私にも頭が上がらないほどの人たち。私にとってそれは気持ちが悪い。彼らだけじゃない。私の周りはみんなそう。私に対していつもペコペコしてる。私がトップ財閥の娘だからそうなる。だから私は友だちがいない。初等部に入ってきてからずっと友だちと呼べる関係の人はできなかった。おまけに私はいつもみんなの注目の的。いつもいつも気を使って身なりたしなみ、学業などをこなしていかなくてはならない。なんて疲れるんだろう。ため息をつきそうなところを我慢して、閉式の言葉をきく。これで終わりかと思いたいけど、残念ながら私たち在校生はまだ動けない。まずは新入生の退場から、そのあとに来賓者、新入生の親御さんの順に退場してはじめて在校生は退場できる。私たちは一度教室に戻って担任の先生の話を聴く。それから、帰りの会をして下校となる。私は帰りの会が終わるとすぐに教室を出た。廊下を歩いてエントランスホールにいく。そこで靴を履き替えて外に出た。正面の少し長めの通りには桜が連なっている。ピンクと空の蒼がとても綺麗だ。風に吹かれて揺れる木々の音、舞い散る桜の花びらも好き。この光景を楽しんでいるとうしろから声が聞こえてきた。もうほかの人たちが帰るところだ。私はエントランスの前の石段を降り、通りをまっすぐ歩く。風が吹いて桜と融合されていく気分。それは心地がよかった。しばらく歩いてようやく学園の正門が見えてくる。ここまでは車は原則通れないので歩くしかないのだ。正門をくぐるとロータリーがある。そこは円形になっていて乗り場にはちょっとした屋根がかかっている。正門の目の前、つまり一番近いところに私の、神城家の車が止まって、運転手さんが外にたって待っていた。運転手さんがドアを開けて、私は車に乗る。そして、運転手さんも乗るとすぐに車は発車した。車はもうひとつの正門をぬけて公道にでる。緑とピンクに色づいた街を見ながらおうちへ向かう。私は運転手さんに窓を開けてもらい、心地よい風を受けながら、春の街を堪能した。私の屋敷は郊外にあるけど、桜はあまりない。あるのは森林か花畑くらいで大きな屋敷以外はほとんどなんにもない。だから今のうちに街の明るくて鮮やかな景色を見ていたかった。街をぬけて田舎っぽい郊外にでる。そうすると私のおうちはすぐのところにある。邸内に入って、学園のようになかまで進むと屋敷がある。私はそのエントランスの前で車から降りた。すると、玄関の大きな扉が自動的に開かれる。ちなみにドアマンが開けてくれる。エントランスホールで執事や使用人たちが並んで私を迎える。

「おかえりなさいませ。」

「ただいま。」

 盛大なお出迎えに小さく答える。中央を歩いていくと、うしろから私の執事がやってくる。彼の名前は青山拓哉。私が幼い頃から一緒にいて、黒縁メガネが印象的。

「お嬢様、お荷物をお持ちします。」

「このくらい自分でできるっ。普通の人は家に帰って誰かに荷物を運ばせないっ。」

「ですが、ここは神城家の家です。」

「いいの!てかこれもう何回もやった!」

 このやり取りはすでに何度もやっている。それは私が普通の一般の人の生活に憧れるようになってからで、そう昔の話ではない。荒っぽい足取りで自分の部屋までたどり着く。ドアを開けて、うしろを振り向く。

「もういつまでいるの!ここは私の部屋で、私は着替えたいの!」

「申し訳ございません。昼食のご用意ができておりますので食堂までいらして下さい。失礼します。」

 青山は静かにドアを閉めて去っていった。私はバックを机の上に置いてから制服を脱いでクローゼットにかける。それから適当にTシャツとスカートを着て、パーカーを羽織る。そして、部屋を出て食堂に行った。

 どうしてこの家はこうも面倒なんだろう。いちいち部屋は遠いいし。歩かなきゃいけないし。疲れるじゃん。

 食堂に行くとすでに料理はテーブルの上に並べられていた。今日はパン食がメインらしい。椅子に座っていただきますをしてからいただく。食べているあいだずうっととなりに執事の青山が立ってみているのが落ち着かない。小さい頃からずっとこんなスタイルだったから慣れているはずなのに。やっぱり普通の女の子の暮らしがしたい。ゆっくりと30分くらいかけて昼食を食べ終えた。食べたら欠伸がでてきた。明日と明後日は土日だし、少し寝てもいいかな。眠い足取りで自分の部屋までたどり着くと、ベッドに飛びこんだ。ふかふかのベッドは罪深い。布団をかぶることなくすぐに寝てしまった。

 スヤスヤと寝息をたてて眠っているところに青山はティーセットを運び入れていた。だけど、私がなかなか起きないのでソファに腰をかけて私が起きるのを待っていた。太陽が傾いて外は黄色く色づき始めた頃、青山は部屋の窓を開けた。少しひんやりとした風が吹き込んでくる。それで、私はようやく起きた。

「おはようございます。お茶を淹れておきました。」

 ベッドに座り込んで目をこすっている私に青山は優しく声をかける。

「あれ?いつのまに。ありがとう。もちろん、甘めだよね?」

「もちろん。」

 自信満々に答えた。寝起きの紅茶は美味しかった。甘い味が口のなかに広がる。窓から差し込んでくる黄色い陽射しと風がいい雰囲気を醸し出す。

 これなら、ここでの生活も悪くないかも。

 そう思うこともあった。


 だけど、残念ながら私はここから逃げ出した。それは梅雨が明けて蒸し暑くなり始めた頃だった。きっかけとなったのはお父様との関係が悪化したせい。6月に試験があった。その試験の結果があまりよくなかった。といっても、学年一位で、どの教科も8割以上はとってある。だけど、お父様はそれが気に入らなかった。いつもはほとんど満点だったのに、今回はどうしてそんなに下がったんだと。すごく怒られた。怒られた上に私の自由をさらに奪った。勝手に家庭教師まで雇って私に勉強ばかりさせた。もううんざり。私の人生なんだから口出ししないでよね。だから、私は真夜中に起きて屋敷から逃げ出した。もちろん、真夜中でも家の警備は厳しい。それでも、音を立てずに、見つからないように忍者のように使用人や警備員たちをやりぬけた。私の部屋は2階にある。だからまずは1階におりてから外に出れるベランダのドアを目指す。それはエントランスだとすぐにばれるから。屋敷の東側の部屋に行き、庭園に出れる部屋がある。そこのドアをこっそりあけて中をのぞく。だれもいないことを確かめてなかにはいる。静かにドアを閉めて、気を抜かずに窓辺までいく。鍵を開けてベランダから庭園へ出た。これで使用人はごまかせた。次は外を警戒している警備員だ。だいたいは敷地の外に目がいっているはずだから中にいるうちは大丈夫。花畑の生け垣をうまく使って進む。屋敷内と違って、歩くと草の音が鳴る。それも慎重になってなるべく小さくした。そしていよいよ外壁のところまできた。ここは神城邸の最東端、のはず。あれ?たしか、山があったはず。ん?それは北のほうだっけ?まあいいや。ここからでれば関係ない話。まずはこの壁を超える方法を考えよう。・・・・・・・。これは厳しい。でももう戻れない。ばれたらもうここから出れなくなるかもしれない。時間も時間だし頭が回らない。もうやけになってむりやり登ってこえよう。助走をつけて思いっきり高く飛ぶ。そして壁を蹴って壁の上をつかむ。その勢いのまま、壁を飛び越えた。だけど、着地に失敗し、地面を転がった。そこでしばらく仰向けになって落ち着くのを待った。夜空は満天の星が輝いている。ここは街はずれだから星を見るのには向いている。そろそろ行こうと思い、立ち上がった。そこからは市街地の明かりが一望できた。目指すのはとりあえずあそこ。うん、思えば逃げ出した後のことは何も考えていなかった。でも、今はこの開放感がたまらなかった。歩き始め、町へ通じる坂を下る。いつもは車でしか通ったことのないこの道も歩いていたからなのか、夜中だったからなのかわからないけど新鮮に思えた。違う道だと思えた。10分くらい歩いて市街地へ入った。明かりがついている家もあれば暗い家もあった。今は何時くらいだろう。でも、もう眠くはなかった。眠気よりも期待が勝って寝る気にはなれなかった。よし、隣町まで行ってみよう。勘だけを頼りに夜の道を一人で歩き続けた。

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