第一章64話 『海の上の猛者』
航行し始めてから1時間。航行速度は魔法でいくらでも速くできるけれど、魔力がもったいないのでそこは通常運転。そして、大和に乗ってから初めての敵艦隊が現れた。あちらはまだこちらの存在に気づいていない模様。それでも私は全砲門に魔力をチャージし、容赦なく放った。綺麗なピンク色の光線がいくつも真っ直ぐに走り、艦隊を貫く。しかし、相手は攻撃を仕返してこない。これが射程の強さ。では、次ですべて沈めよう。再び魔力を充填し、放つ。中央の船が爆発を起こし、周りの船も巻き込まれて誘爆を起こした。爆音は遅れて響いてきた。これを何度も繰り返す。でも、二日目以降は現れる艦隊はいなくなった。1週間ほど航行し続けて、ようやく陸が見えてきた。おそらく中国だろう。そこには大量の戦車と艦艇が配置されていた。あちら側から攻撃を始めたので、こっちも交戦する。ビームで岸にある戦車を一掃する中、背後から弾丸が飛んできた。振り返るとそこにはアメリカ軍の艦隊があった。
これはどういうこと?挟み撃ちにされた?それとも、単なる板挟みになっただけ?
状況が整理できないでいるうちに、どんどん撃ち込まれる。魔力によるフィールドで少しは持ちこたえるとは思うが、この量だと厳しい。そこでなんとか両サイドから攻められるのだけは回避しようと船を移動させる。ここは無理にでも魔力を消費して高速魔法を使った。今度はアメリカ軍を挟むという形になった。しかし、アメリカ軍の艦隊は向きを変え、こちらを攻撃してくる。中国軍もアメリカ軍に当たらないように遠距離攻撃をしてくる。
これはもうまちがいない。戦争を中断させて、先に私を倒そうとしてる。詳しい話は長官でも捕らえて聞きだそう。
大和を自動化して、私はその場を離れた。狙うはアメリカ軍の船。といってもどの船に長官が乗っているかはわからないから見た目乗ってそうなのから乗りこむ。乗りこんだ船の海軍兵は手馴れた手つきで戦闘にかかる。でも、私はさっさと斬り倒す。だけど1人だけは生かしておいた。情報を聞くために。その兵はなかなか口をわらなかった。だから、少し荒っぽいことまでして粘ったが、相手は苦痛を嘆くだけでなにも言わなかった。これ以上は時間のムダだとし、相手の首を落としてその船を爆破させて次にいった。何隻かまわったけどなかなか口をわらない。兵士としてよく訓練されているらしい。おかげで何人かは無惨で残酷な殺し方をしてしまった。これでも元令嬢なんだけどな。もう引き下がれないところまできてしまったから、仕方がない。そんなことを思いながら次の船の兵を斬り続けていたら、ようやく指揮官殿にお会いできた。何としてでもこの人には情報を吐いてもらう。私は率直に質問した。
「中国との戦争はどうなったの?」
指揮官は態度を変えずに質問をかえす。
「それを聞いて何になる?おまえには関係ない。」
それでも私は質問を続ける。
「戦争は中断されたんでしょ?そして私を倒すために一時的に同盟を組んだ、そうでしょ?」
指揮官は何も言わなかった。でも、だいたいのことはその様子から予測魔法による分析で分かった。おそらく私の考えはビンゴだったんだろう。これでもう指揮官には用はない。私は情報をくれた礼をこめて一刺しで終わらせてあげた。だけど、指揮官は最期に言った。
「おまえはそれでいいのか?そうするしかないのなら、可哀想なやつだ。おまえはもう、本当の、化け物に、なっているん、だよ。」
その言葉は私の胸にズキっと刺さった。胸が苦しくなって、言葉が詰まった。痛みや哀しみが怒りにかわり、私を憎悪で満たした。
船をでて、大和に戻る。そして、すべての艦を破壊し始めた。壊れしずんでいく艦艇を無表情にもみつめて、眺めた。なんの感情も湧き上がらない。怒りだけが私を動かした。やがて、標的は海から陸へいき、中国軍を一掃した。さらに、中国沿岸の都市を破壊し尽くした。後に、この戦いによる死亡者数は不明、と中国は公表した。
戦いのあと、私は日本の太平洋沿岸側を攻撃した。都市部を狙った攻撃で、多くの建築物を破壊し、また多くの人を殺していった。九州から北上していき、名古屋を通り、東京をさしあたる。しかし、東京で待ち受けていたのは協会の魔法使いたちだった。そのなかには見覚えのある顔がいくつかあった。
海上の空中に浮かんでいる一団はこっちをしっかりと見ている。あれはヨーロッパ管理委員長のエマとその部下たち、あとは日本支部東京局の局長、須郷希望率いる日本の魔法使いたちだ。でも、なぜヨーロッパの長であるエマがここにいるのかは言うまでもないか。船を近づけていくと、エマが声をかけてきた。
「世界魔法協会よ。全権大師・織田山門様の命令のより、あなたを拘束、連行します。」
「全権大師?」
聞きなれない言葉がでてきて思わず復唱してしまった。でも、山門って言っていたから協会の頂点のことだろう。この大和で対人戦は難しいだろうから、大和を分解、消滅させた。これで少しは魔力が戻って、それなりには戦えるはずだ。さて、こちらが戦闘準備をし終わったことを見て、一団はそれぞれ武器を構える。それでは改めて、
「アクティベーション!」
私が魔法を展開させたのをきっかけに戦闘が始まった。