第一章63話 『アンチ世界』
オーストラリアを出た私は東南アジアに向かった。国はフィリピン。この国は宗教的な問題で争いが度々起こっていたところだが、食糧不足を不仲の相手のせいにして紛争が起こってしまった。泥沼の戦いを続けている。お互いにいいことなんてないのに。そんな醜い争いをしているところなら全員、殺ってもいいかまわないよね。
私は戦線に降り、魔法を展開させてさっそく狩りを始める。どちらが善かどちらが悪かなんてどうでもいい。ここに人がいなくなれば争いは必然的に終わる。もう深く考えなくていい。人はすべて私の敵。
銃弾が飛び交う戦場で飛んでくる弾は剣で斬り落とす。それから片側から敵を斬り殺していく。魔法なんてスピードさえ速ければそれ以上はいらない。人は簡単に死んでしまう。特に装備が薄い民間人はらくらくと殺せる。片側の陣にいる人間を全員殺したらそこらにある車や戦車を爆破していく。そしてすぐに攻撃が止んだ反対側の陣へと向かう。私を見た者は皆驚く。その隙に斬る。だから私を見たらそれ即ち死なのである。反対側も同じ手順で殺して、爆破する。それから市街にまだ誰かいるはずだから片っ端から廻って斬り殺していった。
ひと通り終わったら、次の国へと飛び始める。一応は世界の争いを消すことが目的。武装していない人たちを殺すのはあとからでも十分。次は中国やインドの付近だ。ここで国境戦争が起こっている。あまり大きな戦いにはなっていないが、争いだということは紛れもない。それにそこにたくさんの兵と多くの武器があるんだからそれらを潰さないといけない。争いのもとを絶つのだ。私は再び戦線の真っ只中に降り立つ。西はアフガニスタン、南はインド、東は中国。とてもギスギスしたところだ。そんなに領土で争いになるんならいっそのこと領土ごと消してあげよう。
「アクティベーション。」
魔法を展開させて剣をとる。続けて詠唱する。
「北欧神話のヘルよ、冥界を支配し、永久凍土に冷やされた、その土地を今ここに現界せよ、ヘルヘイム!」
一面が氷に包まれる。それからさらに詠唱する。
「オリュンポス十二神のヘーパイストスよ、彼の力を呼び覚まし、天地によるさばきをしたまえ、火山を噴火し、地を地獄へ変えろ、マグマオーシャン!」
急激な温度変化で大地が荒れる。氷に変わった水分はマグマによって蒸発し、マグマは氷によって熱を奪われて冷えてしまう。渇ききった大地は地割れを起こし、あちこちで崖ができた。三国の兵士たちはすでにマグマによって骨も残らないほどの姿になっていたが、それでもかろうじて残っている残骸は割れた地の底へと落ちていった。
あの後、私は太平洋に戻っていた。なぜなら、中国軍の無線を聞いて、海上で不穏な空気になっているようだからだ。魔法による分析によると、中国軍、オーストラリア軍、アメリカ軍、そして日本の海上自衛隊が睨み合っているかんじだった。日本はアメリカの味方というよりはアメリカは日本の味方と言った方がいいかな。やがて中国軍の艦艇がオーストラリア軍の艦艇を攻撃し、中国とオーストラリアとの戦争が始まった。中国が宣戦布告をしたとのこと。そしてややこしいことにそれにアメリカ軍が関与しだした。アメリカは中国の不法侵犯とみなし、オーストラリア側についた。それにともなって、日本もアメリカについてオーストラリア側にたつ。日本は戦争ができないので中国に宣戦布告をしなかったが、アメリカの援助を行った。そして、実質、中国とアメリカの戦いになった。2つの大国はすでに世界の一二を争う軍事力をもっている。この戦いにロシアは関与しなかった。現在、中国とロシアとの関係は悪化しており、無論アメリカとロシアの仲も冷戦時代を見ればわかる。ロシアにとっては仲の悪い国どうしが勝手に争い始めたのだ。これは好機だろう。この戦争に国連の安全保障理事会は当然のごとく機能しない。国連の総会をもってしてもなかなか決議がないなか、ただ1つだけ決まったことがあった。それは両国とも核兵器を使用しないことだった。これには両国同意した。しかし、それが守られるとは限らない。世界の緊張は緩むことは無かった。
そんな状態になっていたとは知らなかった。とっくに戦争は始まっていた。こんなにもわかりやすく争いが起こっているなんて、ここで私が止めてあげる。争いが行われているのは海上であり、4国の艦隊が警戒している。敵国に遭遇したら例外なく戦闘がはじまる。もちろん、戦艦とかだけでなく、航空母艦も出ている。空から攻撃されることもある。そんな戦闘にしか使えないものはいらない。私は辺りの海を魔法で分析し、艦隊の位置を把握した。感知したのはアメリカ軍の艦艇だった。すべて原子力によって動いている。航空母艦隊だった。空母を中央に守りを固めている。戦闘機は何機かすでにでているようだった。だから私は宣戦布告代わりに近くを飛んでいた戦闘機をすべて魔法で破壊した。それから、艦隊はこちらに気づいたらしく艦砲を向けてきた。割と速く撃ってくる。それらを避けながら船に近づいて、艦砲台を破壊する。それから、予測魔法で弾薬庫を確認してそこに焔の球をぶち込んだ。船は勢いよく音をたてて壊れ、沈んでいった。次の船に乗り移り、乗員をすべて皆殺しにしていく。その後に魔法の力で船を動かし、巨大な空母艦に追突させた。それでもまだ足りないようだ。ひとつずつ潰していくのは面倒になってきたので魔法を詠唱した。
「夏の深夜に、八代の海に浮かぶ炎、
無数に広がり、燃えろ!
シラヌイ!」
辺りに小さな炎が現れて無数に広がっていく。それは艦隊全体を包んだ。まだ陽があるのであまり目立たないけれど、たしかにあった。そして、シラヌイに触れた艦艇はたちまち他のシラヌイたちが集まり、しだいに大きな炎をあげ始める。そして、弾薬庫に引火して爆発を起こした。爆発はほかの船にまで連鎖し、巨大な空母艦も耐えられずに破壊されて沈んだいった。
今の戦いから生身で艦隊と争うのはかなり厳しいと思った。だから、あれを創り出した。
「日本の武士道、大和魂を胸にして、
旧海軍の要となった最高峰、
技術を結集させてできた力を。」
巨大な船が実体を成す。
「桜吹雪を引き起こし、全砲門、開け!」
全艦砲に魔力がチャージされていく。
「その真なる力を披露せよ!
大和型一番艦・大和!進水!」
桜色の大和が出現し、ついでにすべての艦砲から射撃してしまった。それはあらゆる方向に飛び出して、海水を少々蒸発させてしまった。視界が悪くなっただけでなく、霧がピンク色の魔力を帯びている。しまった、と思ったけれど、これでこのド派手なピンクに光る大和艦を隠すことができる。この艦はすべて魔法、魔力によって操作する。だから、大量の魔力を消費してしまう。近辺の海を魔法でサーチしてなるべく速く相手の艦隊を見つけて遠くから仕掛ける。こっちは1隻しかないから、その方が安全。この大和の射程距離はかなりのものだし、艦砲からでるのはチャージした魔力のビームだから、ちょっと照準がずれていても合わせれば簡単に狙い撃ちできる。私に勝てるものなんていないんだ。これですべての船を一掃してあげる。何度も言うけど、もう誰も私をとめられる人なんていないんだから。




