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エンドレス・マジカルライフ  作者: 沖田一文
【第一章・下】 とうそう編
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第一章62話 『衰退した街』

 南アメリカの次は海を渡ってオセアニア。太平洋に浮かぶ島々は平和だった。でも、オーストラリア大陸は違った。主に、西と東で争いが勃発していた。ここでの食糧不足は深刻らしい。今は南半球だから春で、夏はこれからであるのに、大干ばつなんてものがくる前に作物のほとんどがだめになってしまったようだ。それで、暴動が多発しているらしい。私なんて1週間に1回食べられたらいいほうなのに。でもそれは不老不死の特権でもあったため、そんなことは心のどこかにしまいこんだ。じゃあ、近いところにある東側から始めよう。

 まず始めに降り立ったのは大都市であるシドニー。なるほど、大都市ほど食糧が足りないのか、ということに気がついた。人口の割には食糧を生産する能力がない。まして、財力でものを言わせようにも他も不足しているので、輸入することもできない。たしか、オーストラリアって割と食糧を大量に作っていて、輸出もしていたような気がしたけど、こんな国でもここまで陥るとは、またまたびっくりした。

 シドニーの都市はもうほとんど機能していない。外に出歩く人も少ない。それはなぜかというと、武力行使でものを奪おうとするやからがいるからである。食糧が足りない今、警察すらもそのような野蛮な行為をしている。というのも、警察という位を利用してじゃんじゃんものを集めている。これはもう、腐りきっている。

 さて、それじゃあどうしようか。食糧を増やすのが手っ取り早い方法だけど、そんな魔法を今のところ知らない。たぶん、世界に存在していたら協会が動いていると思う。だから、食糧を出す魔法は存在していない。ならばあの手段を使うしかないのだろうか。いや、人口を減らすんじゃダメだ。私がわざと暴れたふりをして、建物を派手に壊して魔法使いを呼ぶ。そして、魔法使いたちにこの状態を把握してもらおう。そしたら、少しは救援物資がくるかもしれない。


「アクティベーション。」


 手馴れたさばきで出てきた剣を握る。そして、詠唱を始めた。


「ざわめく者たちよ、灼熱の炎に焼き焦がれよ、

  その身を果て、塵となれ、

  アパートファイアボール!」


 現れた6つの炎を誰もいないと判断した建物に向けて放つ。熱風によって周囲の建物まで崩壊させてしまったが、住民たちは避難を始めた。しばらくその様子を見ていると、ようやく軍がやってきた。国家の軍は一応機能しているようだ。私という敵を確認すると、戦闘態勢に入る。指揮官による指示も通り、陣が敷かれる。次々と戦闘車両がやってきた。そして、準備が整うと、攻撃を開始してきた。砲弾をよけながら、敵陣へと進んでいく。ある程度まで近づいたら、ジャンプして戦車を上から叩く。すぐさま別の車両に乗り移り、繰り返す。順に戦闘車両が爆破していく。乗員はかわいそうだけど、この世に戦闘車両がいらないことをわからせないと。それにその使い方まで知ってしまっていては不憫だ。ここで彼らには終わってもらう。その場にあるすべての戦闘車両を撃破し終え、元の位置に降り立つ。銃を持った兵士たちは怖気ついている。けれども、指揮官の命令で銃弾をぶち放してきた。あとは全滅させるしかないようね。すばやい剣捌きで敵を掃討した。それから周りを見て気づいた。街はすでにあちこちで炎があがり、暴動の騒ぎは広がっていた。住民どうしで撃ち合いが行われている。私はそんななか、一家族を見かけた。そして、その父親が私をみて話しかけてきた。


「あなたは魔女と呼ばれている方ですよね。どうか私たちをあなたの手で殺してください。」


 私はゆっくりと歩み寄る。剣の間合いの距離になると立ち止まって目をあわせることなくその家族に訊いた。


「本当にいいんですか?」


 今度は母親が答えた。


「食料がこの騒ぎで尽きてしまい、このまま苦しみながら飢えて死んでいくよりはこの子たちを楽に死なせてあげたいんです。どうかお願いします。」


 私は下を向いたまま飢えた家族に告げた。


「ならばこの私があなたたちを殺してあげましょう。痛いのはちょっとで済みます。準備はいいですか。」


 そのささやきはまさしく悪魔のささやき、もしくは死神のささやきにきこえただろう。それでも母親は抱いている赤ちゃんをぎゅっと抱きしめ、空いている手で幼いもう一人の子の手を握り、その子の反対の手には父親の手が握られる。そして、私は剣を強く握りなおすと、加速した。一瞬で4人の心臓を一刺しにする。そして4人の家族は手を放さずに地へと落ちた。


 それを見ていた人たちがいた。彼らは慄いて銃を乱発してきた。


「この、魔女め!悪魔め!死神め!化け物め!!」


 鋭い目つきをこちらに向け、鬼の形相で迫ってくる。彼らはもう憎しみしかない。銃を乱発して、ついに弾が切れると、憎しみに満ちた顔が絶望の恐怖の顔へと変わった。散って逃げ出すが、私はその人たちを見逃さなかった。もうあの人たちはおそい。憎しみはさらなる争いを生む。ここで殺しておかないと。剣でささっと振って斬り殺す。血の雨が降り、私を憎悪と恐怖に落とす。争う人たちが憎い。そしてそんな人たちを平気で殺す自分も憎い。人を殺すのが怖い。でも、人を殺すのに慣れてしまっている自分が怖い。私はみんなが言うように化け物なのだ。受け入れがたい真実をとうとう受け入れてしまい、気が動転しそうだった。苦しい。息が荒い。呼吸が苦しい。生きているのがこんなにもつらい。なんで私は死ねないんだろう。なんで、なんで私だけがこんな目にあわされなくちゃいけないんだろう。どうして?どうしてなの!この世界はなんで私には優しくないの!私はただ普通に暮らしていたいだけなのに。




 この世界が憎い。私が憎い。人々が憎い。



 もうどうでもよくなってきた。世界も人も私も。



 みんないなくなってしまえばいい。死んでしまえばいい。私が怪物なら私を殺してみろ!世界中の人たちか私かどっちが先に死ぬか。やってみればいい。






 だれか私を止めて。世界が終ってしまう前に。

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