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エンドレス・マジカルライフ  作者: 沖田一文
【第一章・下】 とうそう編
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第一章60話 『ヨーロッパの魔法使い』

 しばらくヨーロッパの中世を思わせる美しい街並みを上空から眺めつつ、移動していた。だけど突如目の前に人影が現れた。スピードを急減して衝突を避ける。私が止まると、中央に立つ金髪のきれいな女性が言った。


「あなたバカなの?ここはヨーロッパ。古くから栄えるこの街はたくさんの魔法使いがいるのよ。そして、ここは協会の目が十分に届く範囲。そんなところに入ってくるなんてわざわざ捕まえてくれと言っているようなものじゃない。だけど、あなたは違う。その証拠に今まで遭遇した魔法使いたちを振り回し、逃れてきた。なんにも知らないね。このままいくと協会があるイギリスやフランスに着くわよ。イギリスは魔法の本場。世界でもっとも古い系統の魔法大国。あなたの力がいくら強くても今のあなたには勝てないはずよ。不老不死の唯一の欠点は魔力がないとなんにもできないことね。」


 それを聞いてちょっとかちんときた私はしまっていた剣を再び出現させる。同時に向かい合う魔法使いたちも戦闘態勢に入ったが、それをさきほどのリーダーらしき女性が手で制した。


「言い忘れていたけど、自己紹介をさせてもらうわね。私はヨーロッパの魔法使いたちを束ねる世界魔法協会人事部所属、ヨーロッパ管理委員長を務めているエマよ。ちなみに私はイギリスの古い系統の家系出身よ。」

「それでわざわざそんなえらい人がどうしてこんなところに?」


 殺気を放ちながら質問しているのに、エマは淡々と答えた。


「それは簡単よ。私が古い魔法の家系だといったでしょ。あなたを捕まえるためよ。」

「そう、でもどんなに魔法が使えても、詠唱する前に私が逃げてしまえば関係ないでしょ。」

「それはどうかな。」


 お互いに不気味なぐらいに笑顔を浮かべる。間をよんで私は後ろへ空気を蹴って、加速した。エマは負けずに反応した。


「ペニン!」


 そう叫ぶと、エマの前に龍が現れて、超スピードで私を追いかけてきた。

 龍なんて、現実には存在しないはずじゃ。これは幻影なの?それとも本物?しかし、なんで龍?どうせならドラゴンのほうがいいんじゃ。やばい、スピードで負ける。攻撃しようにも相手がどんなものを仕掛けてくるかわからない。でも、捕まるわけにはいかない。

 逃げながら詠唱なしでアパートファイアボールを出現させると、それを置くように放った。でも龍はそれを風圧で破壊した。それから一気に距離を詰められ、その手で鷲掴みにされる。そして龍は方向転換すると再びものすごい速度で飛んだ。掴まれているのに加えて速すぎるから息ができなかった。それでも気だけは失わないようにこらえていた。数秒で元の場所に戻り、ようやく龍がとまると吐きだすように息を整えた。その様子をエマがみていたが、私には触れず事を先に進めた。


「それでは、神城結衣を協会本部へ連行します。ペニン、その子を離さないでしっかり握っていなさい。」


 そういって、協会に向かって飛び始めると、また龍の力が強くなり、疲弊していた私は耐えられずに気を失った。


 冷たくて強い風に起こされて、目を覚ますとそこはまだ空の上だった。前にはエマが先行して飛行している。そして、ちょうど協会に着くところだった。私は相手を油断させるために寝たふりをした。協会に降りたのを感じ、龍から解放される。なにも支えもなくそのまま石畳の上に頭をぶつけて痛かったが、我慢した。エマが龍をほめている。そして、別れを告げたのを聞き、龍の気配が消えたのを感じると私は行動した。ぱっと目を開き、即座に立ち上がる。魔法使いたちに気付かれてもすぐに魔法を展開させた。


「アクティベーション。」


 さっき数分休んだから少しは魔力が戻っている。このくらいあればここから逃げるのも容易い。さっそく空を飛ぶ。


「ペニン!」


 でも、エマがすぐに龍を呼び戻した。何度も同じ手には乗らない。私は龍をさけて、その飼い主のエマへと向かう。龍は驚き、ご主人に向かっての猛進はできなかった。しかたなくエマが魔法を展開させて詠唱した。


「アクティベーション。」


 エマが手にしたのは二本の大きなマラカスだった。それをこちらに投げてきた。よく見るとそれはマラカスではなく大きなマッチ棒だった。


「ファイアーロード!」


 先に火が付いたマッチは地面に落ちると一直線に炎が燃え上がった。同じようなものを見たことがある。あの夜のことが頭のなかに流れる。そう、この魔法は青山が使っていたものだ。途中の詠唱なしで少し形式が違うけど、同じ魔法だ。


「この魔法を見たことがあるっていう顔をしてるわね。おそらくあなたが思っているとおりだと思う。あなたの執事である青山拓哉は私の家で修行していた。そして、私は拓哉に魔法を教えていたわ。まあ、師匠は別にいたみたいだけど。あなたはその拓哉が使っていた魔法で捕まるのよ。」


 話を聞いているうちに周りが炎に囲まれた。私の後ろにいた龍はいつのまにかエマのそばに戻っている。青山の魔法をエマが使えるとしても逃げなきゃ。今ならまだ逃げられる。だけど・・・だけど足が震えてうまく動かない。それにエマは気付いたのか笑みを浮かべて、再び出した二本のマッチを今度は後ろの大きな建物に投げた。足の力が抜けてなんとか剣を支えにして立っている私をエマがみつめる。


「大丈夫、心配しなくてもこの建物はまた元に戻せるわ。それに私は人事のトップでもあるの。このくらいのことはちょっと上から注意されるくらいで済むわ。さあ、私についてきなさい。」


 あの女は絶対に私のことを、私の過去を知っている。あの顔、あの表情はそうに違いない。いったいどこまで知っているの。なんで知っているの。なぜだか怒りが湧いてきた。憎悪が出てきた。

 私はもう一度足に力を入れて一人で立つと、剣を構えた。そして問う。


「あなたは私の何を知っているの?どこまで知っているの?どうして知っているの!?」


 最後は叫んでいた。だけど、あの女は笑っていた。笑いながら答えた。


「あの夜の事件のことは知っているわ。だって、一夜にしてひとつの国が消えたんですもの。だけど、運よく消えたのはただの小さな国。あまり知名度のない小国だった。だから、こんな大事件のことだって簡単になかったことにできたわ。おかしいと思わなかったの?一夜にして国が滅んだのに誰も知らないなんて誰も口に出さないなんて。それは私たち魔法協会が世界の記憶を消したからよ。すべて何事もなかったかのように。魔法が絡む事件だったからそうするしかなかったのよ。これは世界のためなのよ。」


 その話を聞いてますます怒りが強くなった。あの女は悪だ。そしてあの事件を隠ぺいした協会も悪。これで私も総司と同じ協会を消滅させる大きな理由ができた。怒りのままにあの女をにらんでいるとさらに話を続けた。


「ああでもあのことを隠したのはあなたのためでもあるのよ。あなたがあの国の人全員を一人で殺したから。一人残らず、無慈悲にも殺したから。国王ですら、親ですら、従者ですら、友人ですら、一人残さず殺した。私たちはあなたを守ろうとした。だけど、結局あなたは今のように世界で追われる身になってしまった。協会に盾突くから。」

「黙れ!おまえを殺す!」


 めちゃくちゃ言われ続けて苦しかった。これ以上は聞きたくなかった。けれど、エマは最後に言ってしまった。 


「やはりあなたは化け物ね。」

「うわあぁぁぁぁ!!」


『化け物』という言葉を聞いて私はむきになって攻撃を始めた。しかし、エマは攻撃をかわし、冷静に反撃してくる。こっちは斬撃中心の攻撃に対してあっちは炎や爆発を中心とした攻撃だ。私は飛んでくるマッチを爆発しようとも斬っていた。しまいにはエマは龍に乗って、あの速さを使って私の速さに対抗してきた。そして、あたりは炎に包まれていた。その光景をみるたびにあのときの景色と重なり、胸が痛くなる。それに加えて怒りが燃え上がる。いつまでも決着がつかないところに一人の男がやってきた。白い豪華な協会の制服をきた青年は山門だった。二人は冷静になって、さらに顔を青ざめた。


「そこまでだ、エマ。そして、ひさしぶりだな、結衣。俺は今、この協会でトップにたっている。俺の目的はおまえを捕まえることだ。そして、おまえは今、ここにいる。今なら刑を免除して、協会メンバーとしてやってもいいぞ。」


 高い位置から見下ろす山門の姿、オーラは総司に少し似ていた。上から俺様風に言ってくるのになぜか優しい物言い、それが今の山門にはあった。でも、負けない。協会は悪。いつか必ず私が消す。


「お断りするわ。あなたたちは私が必ず消す。」

「そうか、ならここでくたばれ!」


 山門がそう言って魔法を展開させようとしたとき、私は無意識に魔法を使った。それは瞬間移動。突然、目の前から姿を消した結衣に山門は驚いたが、すぐに魔力反応が近くにないことがわかると、燃えているものを元に戻してから撤収した。


 瞬間移動して来たのは、日本だった。ビル群の屋上。とっくに日は暮れて夜になっていた。


「怒りで魔力が増大したのかな。でも、助かったからよかった。」


 ビルの屋上から輝かしい街を見下ろしながら静かに口にした。よかったと思う割には悲しかった。それはこれだけ人がたくさんいるのにまた一人で眠らなくちゃならないからだ。夜風は強く冷たく私に当たる。それがいっそう私を孤独にさせた。


「今日はどこで寝ようかな。・・・・・どこかの山で前みたいに穴をあけてそこでいいか。」


 ビルから飛び降りるようにして、風にのり、空をとんで山を目指した。眠気と寂しさを闇のなかで感じながら力なく飛び続けた。夜はやっぱり寒かった。



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