第一章57話 『荒れた時代の始まり』
目覚めたのは昼になってからのことだった。太陽はすでに高く昇っていて、森の緑は青々とまぶしかった。朝食や昼食など摂らずにテレビをつけてニュースをみていた。どうやら昨日までの戦いの痕跡は協会でも隠し通せていないらしい。世界は混乱に満ちていた。崩壊現象によって引き起こされた問題は様々だ。作物は枯れ、飢餓に苦しまれ、奪い合いが起こり、やがて大きなテロや戦争にまで発展していった。ここまできて私はようやく今日が戦いから少し日がたっていることに気付いた。どうやら魔力が戻るまで眠っていたらしい。砂漠地帯を中心に紛争が激化している。こうなってしまったのも私のせいだ。魔法は暴走させていたけれど記憶はある。私がなんとかしないと。私はテレビを消してソファから立ち上がると、魔法を展開させた。
「アクティベーション!」
魔法を展開させると、服装まで変化させた。半袖Tシャツに前があいたパーカー、スカートという格好だ。それからゲートをひらくと、私は紛争が激化してるという中東に向かった。
足を踏みしめた瞬間、暑さが伝わってきた。降り立ったところは砂漠のど真ん中だった。まぶしさを我慢して周辺調査のために浮遊する。ちょっといったところに町があったのでいってみることにした。その町で調査したところ、どうやらここにもテロ集団が攻め入ってきているようだった。ならば私がここを守ろう。テロリストは私が相手をする。そう思って、テロリストたちの居場所を探した。見つけることは簡単だった。すぐに巣窟を発見したので、さっそくのりこんだ。
突然現れた小さい私をみてにやけていた。だけどその私は片手に剣を持っている。悪いけど手加減はしないんだからね。地を蹴り、跳躍すると、私は一人目を斬った。だけど、斬ったのは腕一本ですぐに反対から拳がとんできた。これもすぐに斬りおとし、本体の心臓を串刺しにする。一人の動きをとめたことでテロリストたちは姿をくらましていた。だけど私には無駄である。予測魔法でどこにいるのかがわかってしまう。どうやら敵は武器をとってきたようだった。陰からこちらを撃とうとしているのがわかる。でも、銃だけじゃ、私を倒せない。テロリストたちは一斉に銃を乱射した。私は魔法を発動させた。銃弾を見えないベールで受け止めたあと、それを反射させて撃ちかえした。悲鳴をあげて倒れていった。だけど、まだ全員を倒しきってはいない。生き残ったテロリストたちは救援を依頼していた。私はその一人を斬り殺し、無線機を手に取った。
「もしもし?あなたたちの本部はどこにありますか?」
私が無線機を使って話しているあいだに攻撃を受けたので、耳にあてながら、一人ずつ斬り殺していった。そのたびに悲鳴が響く。きっとこれは話し相手にも聞こえただろう。そして、その証拠に向こう側は騒がしくなった。どうやら出撃を始めるようだ。私はこの町にいるテロリストたちを倒し終えると、無線機を捨て、この町一番の高い建物の上で見渡した。そして、敵は大々的に戦車を引き連れてやってきた。町ごと私を葬るつもりだ。でもそれも無駄である。戦車から砲弾が放たれると、私はさっきのベール張り、砲弾をすべて受け止めきった後、それを跳ね飛ばした。自分が撃った弾が戻ってくるなんて普通の人は考えないでしょう。それからようやくその場を離れ、敵陣へと向かった。そして、まずは一台ずつ丁寧に戦車を斬っていく。たまに爆薬に当たったのか爆発することもあったが、それもかわして、次は車を斬っていく。これは斬ると必ずと言って爆発した。乗っていた人たちは飛ばされていった。すべての武器や車を破壊し終えたころには辺りは煙でいっぱいだった。でもまだまだテロリストたちは生き残っている。今度は一人ずつ、斬り倒していった。全員を倒したあと、念のため生存者を魔法で確認し、いないのがわかるとその場をあとにした。
敵が来た方を辿っていく。砂漠で痕跡が消えてしまっていたが、魔法を使ってなんとか辿ることができた。そして、たどり着いたのは、テロリストの総本山。どうやらここももともとはひとつの町だったらしいが、今では完全に乗っ取られている。すでに住んでいる人たちもテロという悪に染まっていた。私をみるとすぐに銃口を向けて撃ってくる。そういった人たちをすばやく片つけながら、町の中心部へと進んでいった。
この町に来て何人やっただろうか。それでもまだたどり着かない。少し広い広場にでた。そこには敵集団が待ち構えていた。こそこそと攻撃しても無駄だとふんだらしい。だけどこうやって正攻法できても無駄なことは変わらない。さっさと終わらせようと敵の言い分を聞かずに飛び出した。敵は今まで戦車か銃で撃ってくることしかしない。それは今でも変わりない。もう私には楽に最適に早く殺せる方法を知っていた。これだけ戦ってしまえば分ってしまうのだ。だから、無慈悲にもそれを実行した。高速魔法でピンポイントに斬り、戦車や車を爆破させる。また、私を夢中で追いかけているあいだに味方同士で撃ちあわせる。残ったものを私が高速魔法で斬っていく。これだけだった。これだけでたいていの部隊は壊滅した。炎を背に私は進み続ける。何度か部隊と鉢合わせたがすぐに壊滅させた。そして、ようやく本部にたどり着いた。だけど、残念なことに装備はいつもと同じだった。たまにバズーカを飛ばしてくるくらいで何の苦もなかった。私はさっさと下っ端と思われる人たちを斬り殺して、幹部たちもあっけなく殺していった。そして、最後に残していたキングはおびえた表情で私を見ていた。なし崩しにあるだけ全部の銃弾を撃ったが私はこれを全部、剣で斬り割った。最後の最後というときにボタンをだして脅してきた。
「このボタンを押すと、ここにある石油タンクが爆破する。そうなればおまえもこの町ごと吹っ飛ぶぞ!」
それがどうしたっていうの?私はそのくらいで死にはしない。どうせわたしは不老不死の化け物さ。やれるものならやってごらん。
ゆっくり一歩ずつ歩み寄ると、キングは狂気に満ちた声を出しながらボタンを押した。その瞬間私は距離をつめて胴体を真っ二つに斬った。同時に目の前で石油タンクが爆発する。何度か爆音が響いたあと、爆風で吹き飛ばされた私は瓦礫をどけて立ち上がる。全身から血が流れていた。とても痛いと思った。でも、それだけだった。総司をなくした痛みに比べれば、みんなをなくした痛みに比べれば、痛くない。それにどうせすぐに治る。私はその町をあとにした。