第一章49話 『死の輪唱』
気がつくとそこは暗くて冷たい牢屋のなかだった。私はそこで首と手首に拘束具を付けられて放り込まれていた。どうやらこの手錠は魔法の発動を無効化するものらしく、どんなに魔力を使っても何も起こらない。諦めかけたとき、どこかで爆撃や衝撃音が聞こえた。きっと、葵たちが戦っているに違いない。なのに、私は早々に一人で乗り込んで、早々に一人捕まっている。それに、アーサーも助けることができなかった。なんて、無力なんだろう。私は一人、暗い冷たい檻のなかで静かに泣いた。
次に目が覚めると、そこはさっきの処刑台の上だった。だけど、そこには処刑道具はなく、そこにはプライマリーのみんながいた。隊長たちだけでなく、ドイツ支部にいた人たちまでいる。みんなは私と同じように手錠を付けられて座らせられていた。そして、私のすぐ近くにはあのサブリンが剣を持って立っていた。
「さて、頭首が起きたところで始めましょうか。処刑の時間です。」
私はもう一度抗って枷をはずそうともがいたが、山門によって押さえつけられた。そして、顔をがっちりとつかまれて固定される。
「さあ、1人ずつ最期の言葉を頭首に言って死んでくれ!誰から行こうかな。まあここは隊長・・・よりは平から行こうか。」
サブリンが不気味な調子で話を進める。山門に私の背中の上を座られ、何一つ身動きできない私はただ叫ぶだけだった。
次々と仲間が殺されていった。心臓を串刺しにされるか頸動脈を斬られるかで死んでいった。そして、ついに隊長たちの番が来た。サブリンたちはわざと序列の低い別働隊から始めた。まずは副総長の吉村誠司だ。吉村はとても誠実で総司がいたころからずっと私たちを陰で支え続けてくれた。そんな吉村は最後まで私にやさしかった。
「自分は総司さんや結衣さんのもとで一緒に活動できてうれしかったです。どうもありがとうございました。」
そして、吉村は背後から胸を刺されて死んだ。次いで、総長の島田茉衣だ。彼女は総司に認められるほどの実力の持ち主だったらしいが、私は残念ながらそれを目にしていない。彼女も頭首直轄部隊のときから総司を支えてきた人で、総司だけには心を許していたらしい。そのため他の人との対応が冷たかった。私には頭首になってから素直にしてくれていた。彼女は最期に「私の居場所を守ってくれてありがとう」と残して死んだ。
次は、八番隊。副隊長の菅赤城は、頭のいい人だった。そして、プライドの高い人でもあった。彼は、私に教えてくれた。
「おまえは、どんな魔法だって操れる。可能性を大いに秘めている。僕たちが使っていた魔法だっていずれ使いこなせるときがくるはずだ。だから、そのときは存分につかってくれ。僕たちができなかったことをやり遂げてほしい。期待、してるぞ。」
そして、隊長の原田武蔵。彼は、尊敬するひとには十分に敬意を示し、そしてまた、自分よりも低めの人に対してはお兄さんみたいに支えてくれた。ちょっと言葉は汚いかもしれないが、こういう人がいてよかったなと思う。そんな彼は、
「俺は赤城みたいに頭はよくないからなあ、うまくいえないけど、おまえさんに会えてよかったぜ。いろいろと楽しませてもらった。じゃあな。」
といつもの調子で死んでいった。
次は、七番隊。副隊長の霧崎萌花はお嬢様みたいな人だった。彼女もプライドが高く、あまりひととは関わっていなかったようで、あまり素性はわからない。こうなったことがよほど悔しいようでそういった感情が伝わってきた。それでも彼女は泣いている私をみて「よくいきるのよ」と短く言って死んでいった。隊長の藤堂百合は、剣の達人でお姉さん的存在だった。実際に葵と並んで組織内の女子たちに人気があってそれらをまとめていた。
「・・・なんというか、悔しいけど、ここまでだね。みんな、ありがとう。そして、結衣ちゃん。強くなってね。」
最期まで泣かずに血潮が絶えるまでやりとおした。
次は、六番隊。副隊長の三沢花音は、とても女の子らしく、かわいい服をきておしゃれをしていた。彼女のヴァイオリンの腕は本物でたまに弾いてみんなの癒しになっていた。心優しい華麗な彼女は下を向いて泣いていたが、「どんなときでも穏やかな心を持って、いつまでも人に優しくいてね。つらくなったら、音楽で立ち直ろう。」と最後には笑顔をつくって語った。隊長の斎藤リリィは、とてもミステリアスな人だった。けれど、剣の腕は最強とも言えて、そして、百合とはとても仲が良かった。百合が殺されて、涙を流し、サブリンたちを睨んでいた。
「私は絶対にあんたたちを許さない!死んでも殺しにきてやる!」
すごく憎みながら死んでいった。
次は、四番隊。副隊長のリアは、隊長ながら少し頼りないヴォルフをずっと支えてきた。金髪がすごく綺麗でアメリカ生まれのアドルフォと並んで金髪の美貌が男女で人気だった。そして、彼女は最期のときに、
「私はヴォルフ、あなたがずっと好きでした。顔を見て言えないのは残念だけど、私はあなたと戦えて幸せだった。本当はもっと一緒に生きたかったけど・・・。」
愛の告白をした。涙で言葉を濁らせたところにヴォルフは叫んだ。
「俺もリアのことが好きだ!だから・・・。」
協会の魔法使いがヴォルフに蹴りを入れて黙らせる。そのあいだにサブリンはリアを殺した。ヴォルフが狂ったように叫ぶ。サブリンは容赦なく喉元を掻っ切った。この出来事に一同は唾を飲む。サブリンは構わずに進めた。
次は、三番隊。副隊長の松原武人さんは、生まれた時からの佐倉梅を見守ってきた。とても頼れる執事だった。梅と歳が近い私にも優しく世話をしてくれたことがあった。
「私、松原は、最後まで梅様にお仕えできて嬉しく思います。お嬢様の最期までお供できないのはとても残念に思いますが、勝手ながら先に失礼させていただきます。ありがとうございました。」
最期まで礼儀正しく、しんしだった。隊長である佐倉梅は、プライマリー最年少で幹部を務めた逸材だ。彼女は、執事たちに感謝を述べ、それから私とアイコンタクトをして、この世を去った。
次は二番隊。副隊長の石川陸奥は、研究熱心な人だった。だから、普段は部屋にこもって実験をしていた。白衣が似合う彼は最期までよくわからない言葉を言って死んでいった。隊長の金剛勇実は、とても忠実な人だった。やるべき事はしっかりやり、戦闘においてもとても頼りになる人だった。
「それがしは元は協会の人間。裏切った協会に始末されるのは覚悟のうえだ。それがしからは頭首殿にひとつ。自分を信じて行動すべし、とそれがしが人生において得た格言を伝えておきたい。さらばだ。」
彼女はやりきったかのように落ち着いていた。
次は、一番隊。副隊長の明石美桜は静かな人だった。彼女と隊長の佐助とのコンビネーションは最高だった。
「私は一度この命を救っていただいたもの。総司さんが亡くなった以上生き延びる必要はありません。ありがとうございました。さよなら。」
彼女もまた冷静なまま去っていった。隊長の長門佐助は、まじめな人だった。誰よりもトレーニングをし、コミュニケーションを大切にした。その結果、組織内のほとんどの人と繋がりがある。一番隊隊長として素晴らしい人だった。
「初めて戦ったとき、正直、なめていた。けれど、それで気付かされた。どんなひとでも平等に外見で決めつけてはいけないと。結衣のおかげで俺はこんなにも人と繋がれたんだ。感謝するよ。結衣と一緒に戦えて良かった。じゃあな。」
もう心が痛い。痛くてしょうがなかった。だけど、負の連鎖は続く。
次はいよいよ副頭首新藤隊の補佐官、白河政宗。彼は、新藤派のなかでも敬助への情がかなり熱い人だった。隊内では指揮役で高い連携を維持していた。
「敬助さんが頭首になれなかったのは残念だ。しかし、おまえは敬助さんが認めた人だ。終わりの時までその期待に答え続けてほしい。以上だ。」
潔く去っていった彼に続き、副頭首の新藤敬助は、これまでをまとめた。
「俺は総司の友人としてこの組織に参加した。大石と総司、そして葵とはとても仲が良かったんだよ。あの二人が死んで、俺たちは空回りをしてしまったが、あなたがたが新たに導いてくれました。良き未来が訪れるように祈っております。さあ、立ち上がりなさい!あなた達はこれで終われないはずです!さあ、結衣!葵!君たちは生きるのです!」
敬助はサブリンを蹴っ飛ばし、山門を蹴ろうとして止められる。その後ろでは、副頭首補佐官の五条朱雀が周囲の魔法使いを散らし、葵の手錠に噛み付いてはずそうとしていた。葵の手錠が外れる。しかし、朱雀は魔法使いにすでに刺されていた。
「葵さん。あとはよろしくお願いします。頭首を、頭首を守れるのはあなただけです。」
「バカ!そんなことまでして・・・ありがとう。あとは任せてお往き。」
葵は立ち上がって、魔法を展開させた。
「アクティベーション!!」
現れた鞭を手に取り、振るう。
「さあ、反撃のときよ!!」
葵は魔法で敬助を掴んでいた山門を吹き飛ばした。