第一章44話 『新たな歩み』
翌日。私は飛び起きた。いつもの変わらない静かな朝であった。私は、昨日の結果を思い出す。ボヤーっとしているので大浴場に向かった。朝早かったのでそこにはだれもいなかった。ここは屋敷のなかに作られた露天風呂だ。富士山付近で出る温泉を引いてきている。疲れや傷によく効くらしい。私は脱衣所でパジャマを脱ぎ始めた。そのときに初めて私がパジャマ姿でいることを知った。それに、着ていた下着も昨日のとは違かった。葵は世話好きだけどちょっとやりすぎなところがある。そこまではしなくて良かったのに。一人で顔を赤くして胸を隠すように腕を掴む。恥ずかしさを抑えて、下着も脱ぐとバスタオルを身体に巻いて、浴場へと出た。朝の涼しい空気が肌に触れる。温泉は湯気をたいて温かそうだった。私はシャワーで髪や身体を洗ったあと、温泉にゆっくり浸かった。しばらくたっただろうか、ひとつの影が浴場に入ってきた。シャワーを浴びて、こちらに向かってきた。湯気のなかから現れたのは葵だった。葵と目が合うとにっこりと笑ってきた。私は、そっぽを向く。そしたら、葵はお湯に浸かり、ゆっくり私のところへ来た。そして、抱きついてきた。顔が一気に熱くなる。身体も熱くなった。心臓がバクバクする。葵にも鼓動が直に伝わっているだろう。そう思うだけでますます恥ずかしくなる。私は、葵と目が合いそうになる度に目をそらす。お湯を見つめていると、葵はさらにぎゅっとしてきた。私はだんだん落ち着いてきた。心拍数は次第に下がり、力も抜けていった。葵に身を委ねるようにすると、葵の柔らかくて、甘い香りがする肌が目の前にあった。なんだか、すごく落ち着く。葵に抱きしめられて、頭を撫でられて、なんというか、幸せっていうのかな。このまま目を閉じてそのままでいよう。・・・・・・て、そんなことをしてる場合じゃない!私は突然立ち上がって、お湯から上がった。浴場から出ると、葵も追うようについてきた。タオルで身体を拭いて、急いで葵に見られないように下着を身につける。それから、服をっと思って手が止まった。パジャマしか持ってきておらず、服がない。すると、横から声がした。
「はい、これ。結衣ちゃんの制服。持ってきておいたよ。」
またもや葵の笑顔をもらった。私は片手で隠せるところを隠しながら制服を受け取ると、小さく、ありがとうとつぶやいて、すぐに制服を着た。
廊下に出て食堂に向かう。その後を葵がついてくる。食堂でいつもの定食を少なめにもらう。そして、席につくとその向かい側に葵が座った。無視してご飯を食べようとすると声がかかった。
「その前に、いただきます、でしょ。」
葵に催促されて手を合わせた。それから、ご飯を口にする。ある程度食べてから、葵が再び話しかけてきた。
「そう言えばなんだけど、結衣ちゃんは頭首になったんだから、いろいろとやらなきゃいけないことがあるよね。それ、私も手伝うよ。それでなんだけど、近いうちに幹部会議をやらなきゃなんだけど、それまでに準備しなきゃいけないんだよね。というわけで、今日は私と二人で事務作業をしよう。」
葵が話終える頃にはご飯を食べ終わっていた。確かに、いろいろとやることはある。葵は、おそらく次期副頭首になるんだろう。私の助けをしてくれる。それはありがたいのだけど、イチャイチャしてくるのはちょっと嫌だ。とりあえず何をすればいいのか聞いてみる。
「そうだね、組織の編成の見直しとか、今後の方針と予定とかを考えたりするのかな。」
葵も食べおわったようなので、私たちは食器を返却して、食堂を出る。そして、葵に連れられて頭首の部屋へ行った。
部屋の雰囲気はまあ、よくある社長室だった。私たちはソファに座って、ことを進めた。
それから、二人で話し合いを進めて決まったことから紙に書いていった。昼食は軽く済ませ、話し合いは夜まで続いた。やっとのことで終わったら、二人で温泉に入りに行った。葵には裸を見せるまいと頑張って隠しながらお湯に浸かる。一気に疲れが抜けていくようだった。
「ああ、明日はゆっくり過ごしたいな。」
「そうだね、明日は特にやることがないからゆっくりできると思うよ。何かして遊ぶの?」
思わずつぶやいた私の一言に葵は返してきた。
「何もしないよ。たまには、一人で過ごさせてよね。」
ちょっとツンとした感じで答えた。
「ふふ。分かった、分かった。」
それからさきは会話がなかった。静かな夜空を眺めながらゆっくりとお湯に浸かっていた。
「結衣ちゃん、結衣ちゃん。」
呼びかけに顔を上げると、目の前に葵がいた。どうやらウトウトしていたらしい。まだ眠い。あくびをして目をこすると、葵の助けを借りてお湯から出た。葵の手に引っ張られながら、脱衣所に入ると、葵は私の身体をタオルで拭き始めた。それがちょっと敏感なところに触れると、私ははっとした。状況を改めて把握すると、声を上げて怒鳴った。
「うわー!何してるの!えっちぃことはダメぇ~!!」
あとから聞いた話だと、この声は屋敷中に響いたらしい。