第一章43話 『一番隊の実力』
一番隊は最初のグループだけあって選りすぐれた者達が集まっている。そして、みんな戦闘に特化している。それぞれ、剣や槍、銃などの名手でまた系統魔法も違う。小さな最高魔法師の集団のようなものだ。そのなかで頭脳派なのが隊長の敬助だ。実力は強いらしいが、穏便に済ませようとするのが特徴。それでも、戦闘のときは強烈な作戦を立ててエリートメンバーで叩きのめす。もしかしたら、プライマリーのなかでは1番調和や統一がとれた隊なのかもしれない。メンバーは皆、隊長を尊敬している。
そんな一番隊だが、私は天使の翼を拡げて羽ばたき、敬助のもとを目指した。副隊長・政宗の指示でグラサンをかけたダンディがライフル銃を出現させてこちらに撃ってきた。それはバズーカだった。私は予測魔法で演算し、速度を落とさずにバズーカ砲を斬る。少ししてから後方で爆発音が聞こえた。再び前方から2つ3つほどバズーカが飛んでくるが、同じように対応する。その後、一番隊では兄と弟と呼ばれている双子が同時に出てきた。二人は高速魔法の使い手で軽めの刀を持ち、二人一組で攻撃してくる。同時に二方向から来るので対処が難しい。私は一発目で左手を犠牲にし、両方を受け止めた。一人ずつ対処しないと厳しそうだ。私は目を赤く光らせ、二人の動きを読むと、高速魔法を活用して兄のほうの背後にまわる。それから、剣を下ろすが、弟が瞬時に受け止め、兄の背中を守った。さらに、リターンしてきた兄が弟によって止められている私のもとへ来る。私は後方へ退避し、兄の攻撃をかわす。そこへあのバズーカ砲が複数飛んできた。私は咄嗟にこれを剣で斬ってしまった。激しく爆発し、吹き飛ばされた。空中で態勢を整えて、相手を見た。どうやら、予測魔法の使い手であるミステリアスと呼ばれる隊士が隊長の敬助に情報を伝達し、策を講じて、政宗が指示を出しているようだ。
やはり最初に倒すべきなのは敬助のようだ。私はここで奥の手を使うことにした。
「神々の王・ゼウスよ!
オリュンポス最強と謳われる、
ケラウノスの力をこの刃に宿し、
世界を一撃で支配せよ!
ゴッド・オブ・サンダー!」
私の剣が黄金に輝く。それから、静かに剣を振り下ろした。眩い光がビリビリと一瞬のうちに一直線に走った。一番隊のみんなは本能的にそれから避けて離れた。電撃が走ったところは今も尚、ビリビリと電気を発し続けている。私は次は、横に剣を振るった。一番隊のメンバーは全員で防御魔法を展開した。しかし、電撃の威力は凄まじく、防御魔法をも電気が流れ、結界を破壊する。次の一手を講じる前に敬助が指示を出した。
「僕が詠唱している間、持ち堪えてくれ!」
全員が頷くと、敬助は詠唱し始め、他はそれぞれ攻撃を始めた。私は同じように横一文字に剣を振るう。メガネと呼ばれている杖を持った隊士は、杖を床について、魔法を展開させた。一番隊全員を飲み込むほどの魔法陣が浮かび上がった。そして、彼ら全員を包み込んだ。私の一撃はそれに当たったが、その魔法陣とともに消えてしまった。そのあいだに、シャーシンと呼ばれる隊士が光の槍をいくつも生成し、こちらに放ってきた。私はまた振るう。それに当たって光の槍は消えたが、それと同時に当たったサングラスの銃弾が爆発し、視界を遮られた。
僕がここで流れを打破しなければ一番隊の勝利は難しい。みんな持ち堪えてくれよ。
「ローマ神話の主神・ユーピテルよ!
ローマを守護するように我らを守護し、
一騎討ちする者を救い、
外界からの干渉を遮断せよ!
ユーピテル・フェレトリウス!」
サングラスの放った弾の煙が晴れる頃、僕は詠唱し終えた。
煙がはれたら、敬助が叫んだ。
「よし、みんなありがとう!ここからは僕の援助をよろしく頼むよ!」
そう言って、駆け出した。真っ直ぐこちらに向かってくる。私は剣を縦に振り下ろす。敬助はその雷撃を刀を軽く振っただけで打ち消した。それから、敬助は跳躍して、距離を詰めてきた。
「天然理心流!石火剣!」
さらに加速し、驚きで動けない私のもとへ攻めてきた。私は無意識に魔粒子を集め、それを敬助にぶつける。しかし、敬助の魔法はまだ有効でそれらは打ち消された。そのまま私の腹部へと敬助の刀が刺さった。小さく声が漏れた。一瞬のうちに身体がだるくなった。それでも私は気を強くして、自ら刺さった刀から離れ、敬助から距離をとった。
まだ、ユーピテルの『インペリアル・エンジェル・スカイ』とゼウスの『ゴッド・オブ・サンダー』の効力が残っている。しかし、高位の魔法を二つも同時発動しているとさすがに魔力ががっぽりと減っていく。私は、次の高位魔法で決着をつけることにした。傷口の修復を終えると、私は魔法を詠唱した。
「ギリシア神話の原初神・カオスよ!
有限なる存在全てを超越し、
無限なるものを象徴せよ!
あるものはない、ないものはある!
世界の混沌を極めよ!
ケイオス・ワールド!!」
詠唱を終えた途端に、心臓が何かに掴まれるかのように苦しくなった。おそらく魔力の限界が近いのだろう。それでも私は目を赤く光らせ予測魔法を作動させながら高速魔法を作動させた。敬助に向かってまっすぐ突き進む。そのあいだに、サングラスの銃撃やシャーシンの光の槍の攻撃を受けたが、『ケイオス・ワールド』によって因果をねじ曲げて、銃弾と槍を衝突させた。そのあいだに敬助が目の前に迫る。『ゴッド・オブ・サンダー』を放つ。敬助は剣でこれを受けた。今度は打ち消されなかった。電撃を受けた敬助は、電気が身体をめぐり、動きを止めた。私は、基礎魔法のアウェイでトドメをさそうとした。だが、予測魔法で視界に何者かが入った。実際に敬助とのあいだに割り込んできたのは、弁慶と呼ばれている薙刀使いだった。弁慶は敬助を押し飛ばし、薙刀の柄の部分でアウェイを受け止めた。それからすぐに切り返して、薙刀を振るってくる。私は、電撃を放つが、今度は敬助に打ち消された。『ケイオス・ワールド』の欠点は術者とて何が起こるか分からないという点だ。こんな魔法に最後をかけたのは間違いだったかもしれない、と後悔した。そう思っているうちにもメガネが魔法を使って、一番隊メンバーに何かをかけた。私は構わず再び電撃を放つ。いつものように敬助が止める。今回は打ち消されない。だが、すぐに弁慶が押して、麻痺状態を解く。そして、これだけではなかった。地上から他の一番隊メンバーが遠距離魔法を使い始めた。そして、その魔法は仲間には当たらず、その身体を吹き抜けて飛んできた。これがさっきメガネがかけた魔法かと感心してしまった。
一番隊は近距離攻撃も遠距離魔法も優れているようで私は全員による猛攻撃を受けていた。頼りになる『ゴッド・オブ・サンダー』は、不発が度々あり、防御魔法のウォールを張ってはいるが、危うくなってきた。ならば、後ろに生えている天使の翼の意味を考えて、私はさらに複雑に魔法を駆使した。天候を操り、電撃を放ち、防御しながら、全力を出した。地上にいたメンバーは悪天候に態勢を崩し、攻撃が止んだ。さらに、私と同じように空中で戦っていた弁慶と敬助も次々と攻めてくるが、私にはもう意味がなかった。私は一瞬で距離をとり、残存している魔力を込めて、最後の『ゴッド・オブ・サンダー』を放った。打ち消すことができなかった二人は動きが止まり、私の攻撃を待つだけになった。私は高速魔法で近づき、弁慶に続けて敬助にアウェイを放った。二人は地面へと転がり落ちた。しばらくして、敬助がなんとか立ち上がると、両手を挙げて宣言した。
「降参だ!認めよう、あなたが新たな頭首であると。おめでとう。僕達はあなたに付いていくことを誓います。」
フィールドがもとの演習場に戻ると、歓声が響いていた。
「勝者、神城結衣!よって、新頭首は結衣に決定です!」
葵のアナウンスで決闘は終了した。私は勝って、頭首になったのである。喜びとともに疲れが溢れだし、私はその場で倒れ伏してしまった。




