第一章39話 『無音の世界』
しばらく眠っていたらしい。目を覚まして、過去のことを思い返す。ベッドに座ってずぅっと黙り込んだままだった。
総司や大石が死んだ。ただその事実だけが頭の中を支配していた。しばらくしてから、葵が部屋に入ってきた。私は、何もせずにただ黙っていた。そうしていたら、突然、葵が抱きしめてきた。不意に迫る葵の胸に驚きつつも、何かが解けたような気がして、私は、泣き出してしまった。
ひとしきり泣き終わったあと、ご朝飯を食べてから外に出てみた。森の木は折れていたり、倒れていたりしていて、森全体が廃墟となっているようだった。私はそんな森の中を歩いて行く。木に触れてみると、カサカサでボロボロになっていて、皮が剥がれ落ちた。私は再び白いベールに包まれた森のなかを歩いた。人も動物もいない。ましては、植物も枯れている。私は立ち止まった。もう私は死んでいるのと同じなのかもしれない。この終わった世界で過ごさなくてはならないのかもしれない。そう思うと、もう何もしなくてもいいと思った。
しばらくのあいだ、静かで何も無いぼやけたもりのなかに一人、つっ立っていた。ただぼーっとしていた。そこに、声が聞こえてきた。
「結衣ちゃーん!いたら返事してー!結衣ちゃーん!」
葵の声だった。だけど私は返事をせずにそのまま黙って立っていた。そこに葵は姿を表した。
葵は私の姿を見て声をかけた。
「あ、いた!いるなら返事してよね。さあ、帰ろ。」
葵は笑顔で私に手をさしのべた。私は顔をあげて、葵の目をみてうなずくと葵の手をとった。葵は強く手を握りしめると、歩き出した。
その後、私は葵の計らいでしばらくプライマリーの活動には参加せず、部屋で過ごした。ときどき葵が乗り込んでくることはあったが、ほとんど何もしないで日々を過ごした。
私は、結局何もできなかった。むしろ、足を引っ張ってしまった。そのせいでプライマリーの核となる総司と大石を亡くしてしまった。今は、一番隊隊長が中心となって活動しているらしい。なのに私は何もせずに部屋に引きこもっている。私は総司のためにどうすればいいんだろう。そんなことをずっと考えていた。