第一章38話 『地獄の再来!』
魔力が暴走したとともに、結衣は自我を失い、ただ魔法を使い続ける。ただ仇をとるために。そして、結衣が暴走すると厄介なのが、詠唱しなくても大技、大魔法が出てくるという、災厄のもととなることである。しかし、そんなことは当の本人である結衣は知らない。
結衣は得意のアパートファイアボールで自分のまわりに六つの炎の塊を出すと、その炎は高速で結衣のまわりを回転し、勢いをつけて山門のもとへ飛んでいった。さすがの山門も必死になって逃げ回る。そして、辺りに炎が移り、森一帯は炎の海へと変わった。息を整えている山門に結衣は容赦なく総司の固有魔法・リバースを放った。山門はこれを避けることを目を光らせて、予測魔法で知っていた。だから、結衣はまたアパートファイアボールで砲撃をする。そこに、結衣の予測に入ってきたのが大石だった。
大石は高速魔法で素早く結衣にタックルをしようとしたが、分かりきっていた結衣は躊躇なく剣で迎え入れた。寸前のところで大石は剣を抜き、剣をすり合わせたので、深手までを負わなくてはすんだが、左腕をやられてしまった。
「ちっ。停戦協定を結んで、あれこれして来てみたが、あいつらは逃げやがったし、総司は勝手にくたばるし、あれを止めるのは誰がやるんだよ。俺がやるしかないか。間違って殺してしまっても仕方ないだろう。まあ、葵にはさんざん言われそうだが。」
大石は、話しながら回復魔法で傷口を塞ぐと、詠唱を始めた。
「時間の神、クロノスよ!
時を止め、我が時を速め、
時間を支配せよ、
タイム・ルーラー!」
世界の時が止まる。その止まった世界に大石と結衣は向き合っていた。結衣から動き出し、大石に斬撃をする。大石は、それを避けて再び詠唱した。
「ギリシア神話の神、クロノスよ!
全宇宙を統べ、神々の王に君臨し、
万物を切り裂くアダマスの鎌で、
憎き汝の末子、ゼウスの民を切り落とせ!
アダマンティン・ゴッド・スウェイヤー!!」
できる限り速く詠唱を終え、剣を鎌に変えると、攻撃を始めた。初手で結衣にかわされて、さらに結衣は高速魔法で加速した。大石も仕方なく高速魔法で対抗する。しかし、大石はとうに魔力に限界がきていた。そのため先の魔法も命を削って発動させていたのだが、さらに高速魔法で蝕まれ、大石の口から血がにじみ出る。
ここで止めなければ、俺が止めなければならない。なんとしてでも止めてやる。あのバカが最後まで厄介事を押し付けやがって。おまえの望みを一つも叶えられないままは嫌だ。おまえの大切な結衣を守るために、おまえの願いの一つを叶えるために、俺は結衣を倒す!これが最後の一手だ。
「創造主である神に抗い、神の敵となった、
堕天使・ルシファーよ!
かつての全天使の長である力量をもって、
天使と悪魔を融合し、明星とならん!
天より光をもたらせ!
ヘブン・インフェルノ・コマンダー!」
大石は魔法の発動とともに吐血したが、構わずに攻撃を始めた。この魔法は、相手に悪魔をとりつかせ、常にダメージを与えつつ、こちら側が有利になるように仕向けてくれるようになる。また、天使が術者を支援し、魔力供給や回復処置などをしてくれる。まさに、ソロからパーティーに変化する魔法だ。悪魔が結衣の動きを止め、大石は結衣に近づき、首を締めた。だが、動きを封じ込めたはずの結衣は剣を大石へと突き刺した。大石は、血が流れるのを見もせずに、締める力を強くし、結衣の気道を確実に奪っていった。やがて、結衣は意識を失い、突き刺さっていた剣は消えた。止まっていた世界は動き出し、森が音を立てて燃えている。大石は結衣から手を離す。結衣はそのまま地面に倒れる。大石は咳とともに血を吐き出し、地面にうずくまった。
少し時間が立つと、葵たちがやってきた。葵は大石を無視して結衣のところにいこうとしたが、事の重大さを理解して大石のもとへ寄った。大石は少し顔を上げて笑う。
「やってやったぜ。あとは頼んだぞ、葵。俺は総司のあとを追う。」
「お疲れ様。大石はいつも総司ばかりを追いかけているのね。いいわ、あとのことはなんとかやっておくから。あと、結衣を助けてくれてありがとう。」
葵が静かに言うと、大石は力尽きてしまった。
その後、葵たちは結衣と大石を急いで屋敷に運び、森の消火作業を行った。やがて、朝になり、森は蒸気と煙に満ちて靄がかかっていた。夜とは比べ物にならないほどとても静かな朝だった。




