第一章37話 『つきつけられる現実』
結衣が立ち上がって総司の方をみると、ちょうど決着がつくところだった。総司と沖田は、互いにすれ違い、しばらく動かなかった。だが、総司が血を吐いた。それから、勝手に傷が開いたかのように胸から血が溢れだした。結衣は総司が倒れるところを再び受けた。すぐに回復魔法をかけると、総司が気がついて結衣を止めた。
「もう、いい。」
その言葉に涙が流れ出した。前を見上げてみると、沖田総司は、刀に付いた血を跳ね除けて、刀を閉まっていた。その後ろには山門が口元を緩めて見ていた。
「すまない。俺はおまえを最後まで守ることができなかった。」
私は総司の言葉に反応して、総司を見る。私の膝の上で顔が青白くなっていた。
「結衣。ここから逃げろ。俺にはそういうことしかもうできない。結衣が暴走してしまっては止めるヤツがいない。だから、気をしっかり持つんだ。魔法使いとして、魔法を操り切るんだ。おまえは知らないと思うが・・・。」
総司が言葉を濁した。言いたくないことだったようだが、私にしっかり聞こえるように、はっきりと言った。
「おまえは一度死んでいたんだ。」
何を言っているのか分からず、総司を見つめるが、総司は目を逸らした。そしてそのまま続けた。
「結衣。結衣は不老不死なんだよ。その証拠に再生力が強く、傷が癒えるのが速い。」
不老不死?そんなものが存在するのだろうか。私は信じられないでいた。しかし、総司は話を続ける。
「だから、おまえは魔法をちゃんと操れるようになるんだ。暴走させないように。そうしなければ、街の一つや二つは消しかねない。すまない。時間だ。俺はいつまでもおまえの側で見守っているよ。結衣、いつまでも愛してる。」
静かに目を閉じる。私は、確認するように予測魔法で見るが事実は変わらない。総司は、死んでしまったのだ。
「総司。総司。総司!そうじ!」
今度こそ総司が起きることはなかった。私は、ぼんやりと前を見る。そこには、闇の中に炎が燃え上がる光景が広がっていた。そして、あの日の夜のことを思い出してしまった。すべてを失ったあの夜と何も変わらない喪失感。それとともに、怒りや憎悪がこみ上げてきた。私は、近くにいた葵に総司を預ける。そして、立ち上がった。
「結衣ちゃん。やめたほうが・・・。」
「いいから、はやく総司を屋敷に戻してあげて!」
私は葵の言葉を遮り、怒鳴った。葵は、急いで屋敷に向かっていった。
「アクティベーション!」
剣を強く握り締めて、沖田と山門をじっと見る。私が本当に不老不死なのなら、どんなに無理をしようとも大丈夫なはず。総司を殺したやつは許さない。
「すごい殺気だね。ぼくもここまである人は久しぶりだよ。」
「総司の遺体をやきたい。そして、あいつを我がものにしたい。だから、おまえはあいつを追いかけろ。俺はこっちとやる。」
「いいですけど。遺体は持ち帰ればいいんですか?」
「いや、その場で焼いてしまって構わない。」
「わかりました。今度は誰を呼ぶんですか?まさか土方さんじゃないですよね。」
「出さない。俺がさっさとやって、アイツのあとを追いかけさせてやる。」
「悪ですね。じゃあ、行ってきます。」
沖田は駆け出した。が、結衣がそれを制止させた。
「逃がさない。」
結衣は高速魔法で沖田に斬りかかる。沖田は、魔法を使ってもいないのにこの速さで攻防をした。斬撃だけでは足りないと感じた結衣はスパークで微量の魔力を流して、沖田の動きを止めた。微量のはずだったのだが、多めに溢れ出たようで、沖田は息を荒くしていた。
「!!!」
何か言いたいそうな感じだったが、結衣はためらいなく沖田に向けて剣を振り下ろした。しかし、当たる前に沖田の姿が粒子になって消えた。介入したのは山門だった。
「やはり、魔法を使えない者は対抗できないか。俺が代わって総司のようにしてやろう。そして、おまえたち二人を俺の道具にしてやる。」
道具!総司をこれ以上苦しめるなんて!絶対に、絶対に倒してやる!
再び怒りが溢れ始めた結衣は、魔力が急激に膨張し、暴走状態へとなっていった。