第一章36話 『予測が先か当たるが先か』
総司たちと反対側では、大石とサブリンが睨み合っていた。
「悪いが、遊んでいる場合じゃない。秒で決めさせてもらうぞ。」
「それはどうかな。私には総司令官としての責務がある。襲撃をかけといて負けるなんてことはあってはならない。それに、私の魔法であれば―。」
大石はサブリンの言葉を最後まで聞くことなく、攻め始めた。サブリンは、予測魔法であらかじめ来る位置を把握し、避ける。それが幾度となく続いた。やっと足を止めた大石がうんざりした様子で問いかける。
「いったん何なんだ?おまえはどこまで読んでいる?」
聞かれたサブリンは少し嬉しそうに答えた。
「それはですね、やろうとすれば、その人の終わりまで見ることができますよ。しかし、その場合だと、詳しい細かなところまでは分からなくなりますので戦闘においては必要ありません。あなたの数手先までは読んでいます。なにを企んでいるのかそれでだいたい分かります。まあ、あなたはただランダムに現れては攻撃、というパターンだったので予測しなくてもわかりますよ。」
気に食わない様子でいる大石は、再び攻撃を始めた。この状況において、世界の動きを止める魔法は使ったほうがリスクが多い、というよりも先日の戦闘であまり魔力が残っていないのだった。魔力の回復にはそれなりに時間がかかる。速い人は1日で戻るのだが、大石は大規模な魔法の使用で消耗が大きくて、あまり回復できなかったのだ。
攻撃パターンがこれしかない、魔力があまり無いことをサブリンに悟られれば、大石は死を覚悟しなくてはならなかった。
サブリンの方であっても魔力が戻りきっていないのは同じだった。先日の戦闘にて魔法を暴走させてしまった結果、魔力をぎりぎりまで使い切ってしまっていた。この襲撃作戦には、そんな魔力残量と活力との賭けがあったのだ。サブリンは、相手がどれほど魔力が残っているのか、攻撃を受けながら推測していた。しかし、両者には限界が近づいていた。このやり取りであっても、魔力は微量ながらも消耗していく。大石は、徐々にスピードが落ちていき、サブリンは、だんだん予測できる未来が減って、1手先のことくらいしか予測できなくなっていた。
彼らが戦っているさなか、結衣は葵の膝の上で目を覚ました。状況を予測魔法で察するに、結衣は葵に礼を言ってから、立ち上がった。