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エンドレス・マジカルライフ  作者: 沖田一文
【第一章・上】 魔法社会革命編
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第一章31話 『アメリカ支部 剣技の高み』

 戦場はいつの間にか、灼熱が燃える黒い土の焦げた匂いと肌の焼けるような風、照りつける赤い炎の色でなっていた。これは、リリィたちがまいた炎が燃え移っていった結果、こうなった。炎でそれぞれの戦いは分断され、孤立していた。アーサーは、炎に照らされて光るエクスカリバーを持ち、メイソンはぎらぎらと光る鋼鉄の鎧に身を包んで、両者は向かい合っている。あれから何度かアーサーが攻撃を仕掛けたのだが、ことごとくその鎧に防がれて、相手に傷どころか体力まで消耗させることもできずに、アーサーはかなり疲弊していた。これが最高魔法師の中でも実質トップの実力だ。



 一方、抜刀隊と対峙していた七番隊の隊士たちは、これまた相手の技量に負け、疲弊していた。抜刀隊が攻撃をしかけ、隊士たちを仕留めようと動いたとき、そこに割って入った者がいた。抜刀隊以外の敵を一掃させた隊長たち、百合やリリィや武蔵だった。3人は隊士たちと代わってそれぞれ相手と対峙する。


「さてと、ここからは一対一といこうか。私は、九番隊隊長・藤堂百合。他にも行かなきゃだからさっさと終わらせてもらうよ。」


 相手の女性は、冷静な声で言う。


「それは出来ません。何故なら、あなたはここで終わるからです。抜刀隊を甘く見ないでください。一人一人が強い力量と技術を持っているのです。あなたをこのまま、グランドインスペクタージェネラル(メイソンのことを指す)のところへは行かせない。私はグランドインスペクタージェネラルの次の位、ナイトカドシュ。つまり、この抜刀隊をまとめる者であり、二番手である。さあ、覚悟を!」


 ナイトカドシュの位をもつ女は、剣を構え、仕掛けてきた。百合は、リリィに劣るかもしれないが、剣技においては優秀である。しかし、なかなか、追い詰めることはできず、抜刀隊の実力は本物のようだ。





 八番隊隊長・斎藤リリィは、抜刀隊のNo.2の男と剣を合わせていた。青く輝く鎧のような防具を着て、戦場の赤とは正反対だった。男は動きが速く、尚且つ、冷静な判断で確実な方法で攻めてくる。刀と違って重い剣を持っているはずなのにものすごく身軽に剣をさばいていた。


「そう言えば、自己紹介がまだだったな。」


 そう言って、男は私から間合いをとると、いつでも対応できるように剣を前に構えながら、会話を続けた。


「俺は、この抜刀隊の副隊長を務めている。まあ、総合的言うと、上に二人いて、三番手だ。俺の位は、グランドスコティッシュ・ナイト・オブ・アンドリューだ。おまえは、プライマリーの八番隊隊長・斎藤リリィ、だろ?プライマリーの中じゃ、剣術は一番と聞く。俺はそこらのやつとは違うと言っていい。だから、お遊びはここまでにして、そろそろ本気を出してこいよ。じゃないと、先に死んじゃうぜ。」


 言い終えると、即座に仕掛けてきた。仕掛けると言っても、基本は魔法を使わないただの剣技。リリィにとっては剣術なんてものはもう通じないようなもの。幾つもの試合や戦いを経て、幼いころから独学で学んだ剣術は、お手の物だった。だから、リリィは軽く攻撃を受け止め、弾き、かわし、相手の動きに合わせて舞うように戦う。少ししてから、再び相手が足を止めた。


「あくまで俺の動きに合わせるか。もういい!俺の剣技がそれまでだということは分かった。だがそれは、侮辱だ!ただの剣技でだめなら、仕方ない。魔法は最終手段として、相手が使うまでとっておくのが教えだったが、やってやろう!アクティベーション!フィールド!」


 相手が魔法を展開させ、構える。


「さあ、始めよう!

  北欧神話のヘルよ!

  冥界を支配し、永久凍土に冷やされた、

  その土地を今ここに現界せよ!

  ヘルヘイム!」


 冷気が一気に広がり、辺りの炎をもまるごと凍らせ、氷の世界へと変貌させた。それから、周りの氷を操り、リリィへと刃を向ける。リリィは、それを刀で薙ぎ払い、男の元へと仕掛けに行く。しかし、足元が滑って思うようにいかない。そんな隙を狙って、氷たちは次々と襲ってきた。この状況の危機を察したリリィは、詠唱を始めた。


「ギリシア神話のエリーニュスの1柱、

  ティーシポネーよ!

  黒き心、漂う闇の赴くままに事を果たせ!

  殺戮の復讐者!!」


 リリィから黒い魔粒子が溢れ出て、周りの氷を破壊する。それから、その粒子は男へと向かった。男は焦ることなく、詠唱した。


「ギリシア神話のオーケアノスよ!

  地の果てに流れる海流を生み出し、

  世界の水を循環させよ、

  オーシャン・スパイラル!」


 剣をぐるぐる回し、渦巻きが出現した。その渦巻きは黒い魔粒子を吸収して、リリィのところへ向かった。リリィはこれを魔法で対抗する。


「ギリシア神話の女神・ヘカテーよ!

  嵐やきらめく輝きを受け入れる胸をした、

  魔女たちを導く魔術の神よ、

  彼方まで精霊を先導せよ!

  ヘカトス!!」


 リリィは、剣を頭上に両手で構え、黒い魔力を剣に纏わせ、詠唱が終わると同時に地面に下ろした。黒い闇の流れが勢いよく渦巻きを貫通させ、消滅させると、そのまま一直線に男へと向かった。男は魔法は間に合わないとみて、県でこれをしのぐ。その闇を払ったあとには、目前にリリィが迫っていた。


「天然理心流!三段突き!!」


 一瞬のうちに、額、首、胸を刺し、男は目を開けたまま絶命していた。リリィは、男の胸に刺さった刀を抜き、素早く振って、付いた血を払うと、次の敵へと向かった。





 十番隊隊長・原田武蔵は、風と槍を操り、抜刀隊の下っ端を片付けていた。


「やれやれ、これで4人目か。強い奴と当たりたいが、外ればかりだな。抜刀隊の奴らは、槍には弱いのか?それとも、たまたま弱い奴だったのか?」


 そうボヤいている間に、抜刀隊の副隊長を倒した、リリィが残っている隊長以外の抜刀隊隊士たちを片付けてしまっていた。それを見た武蔵は落胆する。リリィは、振り向いてそんな武蔵を見ると、近寄って言った。


「お疲れ様、です。ええと、とりあえず、七番隊の隊士たちは支部へかえしました。それと、副隊長たちを呼んでおいたのですぐに来ると思います。百合のことは、たぶん、大丈夫だから最終決闘の準備をしましょう。」


「あ、はい。」


 武蔵は、短く返事をして、再び気を引き締めた。





 さて、その頃、百合は抜刀隊隊長となんとかやりあっていた。魔法と剣術を駆使し、相手に遅れをとらないようにしていた。一言で言えば、苦戦していた。相手はまだ一度も魔法を使っていない。それなのに、百合は傷一つすら付けることはできなかった。


 相手の魔法がなんなのか分かっていないけれど、これ以上はこちらの体力がもたないとふんだ百合は、高位な魔法を使うことにした。


「ローマ神話の女神・ディアーナよ!

  月の恵みを受け、魔力を充満し、

  その銀の聖を放ち、敵を狩れ!

  ムーンライト・ハンティング!」


 この魔法は月下では倍の威力が発揮される。百合の体は魔力でみなぎり、目は暗闇の中でも見えるように猫のように光っていた。百合は刀を突きの構えにして、地を蹴った。


 百合の刀は普通の刀より少し長い。そのため他よりは折れやすかったりする。特に相手が剣の場合、かなりの不利になる。しかし、今は魔力によって剣の強度が補強されているので、心配なく振るうことができる。しかも剣と違って、刀は軽いから、素早く攻撃できた。


 しかし、抜刀隊隊長はそう簡単ではなかった。隙を見て、百合をはねのかし、更に一歩踏み込んで攻撃しにくる。だが、百合の魔法はあれだけではない。高位魔法と言われるからには所以がある。それは、月光を浴びていれば、魔力を消費しないということ。つまり、月さえあれば、永遠に魔法を使い続けることができるのだ。尚且つ、傷の再生や体力の回復も速まるため、深手を負わない限りは戦い続けられるのだ。百合は再び、間合いをとって詠唱した。


「月夜の下にて集まる、かつての同胞たち、

  主を失くした迷い子を襲い、我も抜刀する、

  今は敵同士のその同胞を棺へと導け!

  空を舞う赤い百合を散らし、魁となれ!

  リード・トゥ・ブレッド・コフィン!!」


 抜刀隊隊長の背後に黒い棺が現れた。それから、百合は踏み込んで、相手の剣が振り下ろされる前に相手の手元を斬り、剣を落とさせつつ、更に胸元に十字を刻み込む。とどめに心臓をひと刺しし、刀を抜くとともに棺の中へと押し込んだ。抜刀隊隊長を収めた棺は閉じられ、振動とともに、叫び声が溢れた。何も聴こえなくなると、棺は消え、中身だけがその場に残った。それは原型をとどめないほどのものだった。



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